30話:星の向こう側
戦争は、終わった。
街は傷つき、壁には修復の跡が残り、それでも、朝は変わらずやってきた。
パン屋の煙。子どもたちの声。
壊れかけた噴水の前で、誰かが笑っている。
マコトは、その光景を少し離れた場所から眺めていた。
「……終わったんだよな」
実感は、まだ薄い。
けれど胸の奥で、確かに"続いている"感覚だけはあった。
世界は、壊れなかった。
自分も、壊れなかった。
仲間たちも、無事だった。
「……よかった」
小さく、呟く。
「まことーっ!!」
背中に、重たい衝撃。
「ぐぇっ!?」
ミルファだった。
「無事だったにゃー! よかったにゃー!」
「もう! 勝手に死んだら許さないからねにゃ!」
「いや死んでないし……」
「でも危なかったにゃ!」
ぎゅうう、と抱きつかれる。
視線が、痛い。
リーネは腕を組み、無言。
エルナは一歩距離を取りつつ、じっと観察。
セレナは口元に手を当て、含み笑い。
ベルゼビュートは――
「……離れろ」
低く、威圧。
ミルファがぴたりと止まる。
「えっ、やだにゃ」
「……やだ、ではない」
空気が、ピリッと張り詰める。
アイシアが、ため息をつく。
「……また始まった」
「はいはいはい! ストップ!」
セレナが割って入った。
「戦争は終わったの。これ以上は別の戦争になるわよ?」
「……む」
ベルゼビュートは不満そうに視線を逸らす。
ミルファは、まだマコトに抱きついたまま。
「マコト、あったかいにゃ……」
「ミルファ、重いって……」
「ぶもー」
プーコが、鼻を鳴らす。
(マコトは、みんなのもの)
「お前、いいこと言うな……」
「もふぅ……」
モフが、マコトの肩で眠っている。
(もふ……ねむい……)
マコトは、苦笑した。
(……平和だな)
「ねえ、マコト」
エルナが、静かに言った。
「……あの時、怖くなかった?」
マコトは、少し考えてから答える。
「怖かったよ」
「でも、一人じゃなかった」
エルナは、驚いたように目を瞬かせ、そして、ほんの少し笑った。
「……ずるい」
「え?」
「そんな答え」
彼女の目が、少し潤んでいる。
「私、ずっと怖かったんです」
「魅了能力者に裏切られてから、誰も信じられなくて」
「でも、マコトさんは、違った」
エルナは、小さく笑った。
「マコトさんは、誰も傷つけようとしなかった」
「だから、私も変われた」
マコトは、エルナの頭を優しく撫でた。
「……ありがとう、エルナ」
リーネが、咳払いをする。
「……マコト、エルナだけじゃないわよ」
「あ、うん、ごめん……」
ミルファが、ぷくーっと頬を膨らませる。
「マコト、ずるいにゃ!」
「私にも撫でてにゃ!」
「え、ちょ……」
ベルゼビュートが、冷たく言う。
「……子供か」
「ベルゼビュートも、撫でてほしいのか?」
「……誰が」
だが、彼女の目は、少し羨ましそうだった。
ギルドでは、報告と後処理で大騒ぎだった。
「マコト! お前なにやったんだ!」
「いや俺は司令しただけで――」
「それが一番おかしいんだよ!!」
周囲はざわざわ。
噂はもう、止まらない。
「外れスキル? 嘘だろ……」
「均衡を壊さない戦い方……?」
「あいつ、B級だぞ……」
「いや、もうA級相当だって……」
マコトは、頭をかいた。
(……また面倒な)
受付嬢が、昇格証を渡す。
「タカハシ・マコトさん、Aランクに昇格です」
「……え、マジで?」
「マジです」
周囲が、どよめく。
「A級……」
「あの外れスキルが……」
マコトは、昇格証を受け取った。
手が、震える。
(……俺、本当に強くなったのか……?)
◇
その夜。
街外れの丘。
星空が、戦争前と変わらず広がっていた。
マコトは、一人ではなかった。
「……まだ、強くなるのかな?」
ベルゼビュートが、隣に立つ。
「ああ」
即答だった。
「壊さないために」
「守るために」
「……俺は、まだ途中だから」
ベルゼビュートは、ゆっくりと息を吐いた。
「……貴様は、欲張りだ」
「褒めてる?」
「……仕方なくな」
彼女の声は、どこか優しかった。
「でもな」
ベルゼビュートは、空を見上げた。
「星の向こうには、まだ歪みがある」
「均衡を嫌う者も、きっとまた現れる」
「それでも、貴様は行くのだろう?」
マコトは、笑った。
「仲間がいれば」
「行ける」
ベルゼビュートは、小さく笑った。
「……全く、面倒な人間だ」
「でも、それが、貴様だ」
彼女は、マコトの肩に手を置く。
「私は、貴様を守る」
「どこまでも」
マコトは、ベルゼビュートを見た。
「……ありがとう」
背後から、足音。
「なに二人でいい雰囲気出してんのよー!」
リーネだった。
「ずるいー!」
ミルファが、マコトに抱きつく。
「マコト、こっちにゃ!」
「いや距離近――」
エルナが、微笑む。
「……マコトさん、モテモテですね」
「違うって!」
アイシアが、ため息をつく。
「……騒がしい」
セレナが、笑う。
「でも、これがマコトの日常ね」
プーコが、鼻を鳴らす。
(ぶもーーマコトは、みんなのもの)
モフが、マコトの肩で目を覚ます。
(もふぅ……にぎやか……)
ラブコメ、再開。
星空の下で、笑い声が弾ける。
マコトは、仲間たちを見た。
みんなが、笑っている。
みんなが、ここにいる。
それだけで、幸せだった。
「……ありがとう、みんな」
小さく、呟く。
リーネが、微笑む。
「何よ、急に」
「いや、なんとなく」
ミルファが、尻尾を振る。
「マコト、大好きにゃ!」
「うん、俺も」
エルナが、頷く。
「……私も、マコトさんが好きです」
「え、ちょ……」
ベルゼビュートが、冷たく言う。
「……私も、だ」
「ベルゼビュートまで!?」
アイシアが、小さく笑う。
「……私も、同じだ」
「アイシアも!?」
セレナが、妖艶に笑う。
「あら、私も入れてちょうだい」
「セレナさんまで!?」
プーコが、鼻を鳴らす。
(ぶもー私も好きだ)
モフが、マコトの肩で震える。
(もふぅ……だいすき……)
マコトは、顔を真っ赤にした。
「お前ら……」
みんなが、笑う。
星空の下で、笑い声が響く。
◇
戦争は終わったが、世界は、完全には救われていない。
それでも。
心で繋いだ均衡は、今日も確かに在る。
マコトは、空を見上げた。
あの日、神社で見た星空。
あの時、俺は死んだ。
でも、生き返った。
この世界で、仲間たちと出会った。
そして、今、ここにいる。
「……俺、まだ強くなる」
小さく、呟く。
「壊さないために」
「独りにならないために」
リーネが、手を握る。
「……一緒に、ね」
「うん」
マコトは、笑った。
◇
翌朝。
ギルドの掲示板に、新しい依頼が貼られていた。
「古代遺跡の調査」
「報酬:Sランク相当」
マコトは、それを見て笑った。
「……行くか、みんな」
仲間たちが、頷く。
「もちろん」
「当然にゃ!」
「行きます」
「ふん、仕方ないな」
「行きましょう」
「面白そうね」
「ぶもー」
「もふぅ……」
マコトは、仲間たちと共に新しい冒険へ、歩き出した。
星の向こう側へ。
まだ見ぬ世界へ。
そして、
もっと強く、もっと優しく。
この物語は、続いていく。
◇
エピローグ:神界にて
神界。
白いモヤは、誠の姿を見守っていた。
仲間たちに囲まれ、笑っている誠の姿を。
「……やっぱり、計画通りになった」
白いモヤ――転生管理神セレスティアは、満足そうに呟いた。
だが、周囲の神々は、誰一人としてその言葉を信じなかった。
「セレスティア、またそんなことを……」
「設定ミス、って自分で言ってたじゃないか」
「計画通り、なわけないだろう」
神々は、呆れ顔でセレスティアを見る。
セレスティアは、少しむくれた。
「設定ミスは、演技よ演技!」
「全部、計算のうちだったんだ!」
おどけるように言うが、やっぱり他の神々は誰も信じなかった。
「はいはい、そうですね」
「計画通り、ということにしておこう」
「……まったく」
神々は、ため息をつく。
だが、その目は、優しかった。
セレスティアは、少し拗ねたように頬を膨らませる。
それでも、彼女は、笑顔だった。
「誠、あなたは、本物の英雄になった」
彼女の声は、優しかった。
「壊さない戦い方を選び、仲間を信じ、世界を救った」
「あなたは、私の誇りだよ」
セレスティアは、誠の姿を見つめる。
彼は、仲間たちと笑っている。
幸せそうに。
「これからも、がんばっれ」
セレスティアは、優しく微笑んだ。
そして――
「次は、どんな楽しい冒険が待っているのか」
「きっともっと、素敵な物語になるな」
彼女の目には、期待と希望が宿っていた。
物語は、まだ、終わらない。
誠の冒険は、これからも続く。
そしてセレスティアは、いつでも見守っている。
遠く、神界から。
今回で本作は最終話となります。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
物語の展開が少しゆっくりになってしまい、特に転生までに三話もかかってしまった点は、少々お待たせしてしまったかもしれません。
そのあたりは、どうか温かい目で見ていただけていたら嬉しいです。
途中から姿を見せなくなった犬や猫たちについてですが、彼らは現在ギルドで、職員たちの癒やし担当として大切に可愛がられています。
マコトもギルドに行くたび、変わらず「可愛いがって」いますので、ご安心ください。
マコトの成長は、いかがだったでしょうか。
派手ではないかもしれませんが、少しずつ、自分なりに前へ進めていたならいいな……と思っています。
ヒロインエピローグでは、新しく登場した三人のヒロインと、モフモフたちの日常を描いた短いお話を用意しました。
本編の締めくくりとして、肩の力を抜いて楽しんでいただけたら幸いです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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