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神様、魅了の対象そこじゃないです 〜魅了スキルをもらったのに、対象が動物と魔物だけでした〜  作者: たかつど
第2章「星の向こう側」

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29話:均衡を壊す者、レグス

 

 世界を"正しくする"という狂気


 裂け目の奥から、人影が歩いてきた。

 ゆっくりと。まるで、自分が主役だと知っているように。


 一歩、また一歩。


 その足音は、戦場の喧騒を完全に支配していた。


「……遅くなったね」


 穏やかな声。

 白衣を纏った、細身の男。

 その瞳は一切、揺れていなかった。

 感情がない、わけではない。

 ただ迷いが、まったくない。


「レグス……」


 セレナが、低く唸る。

 彼女の目には、恐怖が宿っている。


「ようやく、"均衡の外側"が見えたよ」


 レグスは、マコトを見た。

 それだけで空気が、冷えた。

 戦場の誰もが、息を呑む。


「君が、この世界の"誤差"だ」


 レグスは、淡々と言う。

 まるで、数式を読み上げるように。


「力を持ちながら、壊さない」

「選別せず、救おうとする」

「……だから、世界は歪む」


 彼の声には、嘲りも怒りもない。

 ただ、事実を述べているだけ。

 マコトは、一歩前に出た。


「違う」

「世界は、元から歪んでる」


 彼の声は、静かだった。

 だが、確信に満ちていた。


「弱い者が、切り捨てられる」

「恐怖が、連鎖する」

「力がある者が、ない者を踏みつける」

「それを"正しい"って、誰が決めた?」


 マコトの目は、真剣だった。

 レグスは、微笑んだ。


「合理性だ」

「均衡とは、最適解だ」

「弱者は、淘汰される」

「強者が、生き残る」

「それが、世界の法則」


 彼は、淡々と続ける。


「感情は、ノイズだよ」


「……ふざけるな」


 ベルゼビュートが、一歩踏み出す。

 魔力が、圧力として世界を歪ませる。

 空気が、震える。

 地面が、割れる。


「貴様は、孤独を切り捨てた」

「だから、強い者しか残らない世界を夢見る」


 彼女の声は、低く怒りに満ちていた。

 レグスは、肩をすくめる。


「魔王が、人間に説教?」

「滑稽だね」


 だがその目は、笑っていない。


「いいや」


 ベルゼビュートの声が、さらに低く落ちる。


「私は、マコトに選ばれた存在だ」


 空が、震えた。

 魔王竜の力が、完全解放される。

 黒い魔力が、渦を巻く。


 それは、破壊の力ではない。

 存在そのものを、否定する力。


「私は、かつて世界に拒絶された」

「孤独だった」

「恐れられた」

「だがマコトは、私を選んだ」


 ベルゼビュートの目が、赤く輝く。


「だから私は、マコトを守る」

「貴様のような、世界を正しくすると称して、孤独を量産する者を、許さない」


「……ほう」


 レグスの目が、初めて細まる。


「それが、君の"均衡"か」


 彼は、装置に手を伸ばす。


「なら、証明しよう」

「壊さずに、世界を守れるか」


 彼の手が、装置に触れた瞬間

 世界が、悲鳴を上げた。


 均衡破壊装置が、暴走する。


 裂け目が、街全体を覆う。

 黒い影が、空から降り注ぐ。

 異界存在が、完全に姿を現す。


 そして

 レグスの体が、歪み始めた。


「……は?」


 ミルファが、息を呑む。


 レグスの体が異界存在と、融合していく。

 白衣が裂け、皮膚が割れ、そこから黒い触手が伸びる。

 顔が歪み、目が増え、口が裂ける。


「……これが、私の最適解だ」


 レグスの声が、重なる。

 人間の声と、異界存在の声が同時に響く。


「人間は、弱い」

「だから人間を超える」


 彼の体が、さらに膨張する。

 全長十メートル。

 異形の姿。

 触手。眼球。歪んだ顔。


 それは、人の理解を拒絶する存在。


「くそっ……!」


 冒険者たちが、後退する。


「……っ!」


 マコトは、歯を食いしばる。


 心読が、暴走する。


 《憎悪》

 《孤独》

 《絶望》


 レグスの感情が、濁流のように流れ込んでくる。


「……っ、やめ……」


 マコトが、膝をつく。

 だが


「マコト!」


 リーネが、手を握る。


「あなたは、一人じゃない!」


 エルナが、回復魔法を放つ。


「支えます!」


 ミルファが、マコトの前に立つ。


「マコトは、守るにゃ!」


 プーコが、鼻を鳴らす。


(ぶもー!マコトを守る!)


 モフが、マコトの肩で震えている。


(もふぅ……がんばる……)


 マコトは、仲間たちを見た。

 みんなが、ここにいる。


「……ありがとう」


 小さく、呟く。

 そして、立ち上がった。


「仲間全員、そのまま!」

「俺が、繋ぐ!」


 マコトの声が、戦場を貫く。

 【獣魅了】が、発動する。

 だが今度は、魔獣だけではない。

 人間の心にも、届く。


 《大丈夫》

 《怖くない》

 《一緒に戦おう》


 魔獣。人間。魔王。

 全員の"心の位置"が、一つに揃う。

 それは、均衡ではない。


 調和だ。


「……なぜだ」


 レグスが、呟く。


「なぜ、崩れない?」

「私の装置は、完璧だった」

「均衡を消し、世界を正しくする」

「なのに――」


 マコトは、真っ直ぐに言った。


「一人で背負ってないからだ」

「誰かの痛みを、誰かが受け取る」

「それが、俺の均衡だ」


 彼の目は、優しかった。


「お前は、孤独だったんだろ?」

「だから世界を、正しくしようとした」


 レグスが、動きを止める。


「……何を」

「お前は、一人で世界を変えようとした」

「でも俺は、みんなと一緒に変える」


 マコトの声は、静かだった。


「それが、違いだ」


 ベルゼビュートが、翼を広げる。


「終わりだ、レグス」

「貴様は―、世界を"理解"しなかった」


 彼女の魔力が、解放される。

 それは、破壊の力ではない。

 存在を、断絶する力。


「私は、魔王だ」

「世界に拒絶された存在だ」

「だが、マコトが、私を選んだ」


 ベルゼビュートの目が、赤く輝く。


「だから私は、マコトを守る」


 彼女の一撃は、破壊ではない。

 断絶だった。

 思想と、世界を。

 レグスと、装置を。


 黒い光が、戦場を包む。

 レグスの体が、崩れ始める。

 異界存在が、引き剥がされる。


「……っ、ああ……」


 レグスの声が、人間に戻る。

 触手が消え、眼球が消え、歪んだ顔が元に戻る。

 彼は、ただの人間だった。



 ◇



 装置が、崩れる。

 裂け目が、閉じていく。

 異界存在が、悲鳴を上げる。


 《……理解不能……》

 《……均衡の外側……》

 《……なぜ、崩れない……》


 そして、消えた。

 完全に。



 ◇



 レグスは、膝をついた。

 血が、口から溢れる。

 彼の体は、もう限界だった。


「……なるほど」


 彼は、最後に笑った。


「君は……均衡そのものだ」

「私が、間違っていた」


 マコトは、レグスの前に立った。


「……お前も、救いたかったんだろ?」

「世界を」


 レグスが、目を見開く。


「……ああ」

「私は、世界を、正しくしたかった」

「でも――」


 彼の声が、途切れる。


「……一人じゃ、無理だったんだ」


 マコトは、手を伸ばした。

「なら次は、みんなで変えよう」


 だが、

 レグスの手は、動かなかった。

 彼の体が、光に包まれる。


「……ありがとう」


 最後に、レグスは笑った。


「君は、本物の均衡の外側だ」

 そして――消えた。

 完全に。



 ◇



 静寂。

 街は、消えていなかった。

 誰も、死んでいなかった。

 マコトは、大きく息を吐く。


「……終わった」


 ベルゼビュートが、横に立つ。


「いいや」

「これは、選んだ結果だ」


 マコトは、星空を見上げた。

 あの日と同じ、星。

 だが今は、独りじゃない。

 仲間たちが、隣にいる。


 リーネが、手を握る。


「……お疲れ様」


 ミルファが、抱きつく。


「にゃー! マコト、かっこよかったにゃ!」


 エルナが、微笑む。


「……マコトさん、ありがとうございます」


 アイシアが、頷く。


「よくやった」


 プーコが、鼻を鳴らす。


(マコトは、マコトだ)


 モフが、マコトの肩で眠っている。


「もふぅ……」


 マコトは、みんなを見た。


 そして、笑った。


「……ありがとう、みんな」


 戦争は、終わった。



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