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7話:村を出る決意

 朝だった。


 村長ガレンの家の軒先で、俺は荷物をまとめていた。

 というか、荷物がほとんどない。

 食料と水筒と地図。それだけだ。


「身軽すぎるだろ、俺……」


 足元で、モフが丸くなっている。

 白銀の毛玉。昨日出会ったばかりの、俺の最初の仲間。


「……おはよう、モフ」

(おはよう!)


 返事が、心の中に返ってくる。

 相変わらず、【微心読】は動物専用だが、

 それでも昨日よりは、少し慣れた気がした。


「今日、村を出るんだ」

(うん、しってる)

「お前、ついてきてくれるよな?」

(もちろん!)


 モフは嬉しそうに尻尾を振った。

 その時、村の広場から声が聞こえた。


「おーい! 呪われた男が荷物持ってるぞ!」

「まさか、村を出るのか!?」

「やった! これで動物が暴走しなくなる!」

「おい、祝杯の準備しろ!」

「祝杯って……俺まだ出てないんですけど」


 村人たちの喜びようが、逆に清々しかった。

 そこに、ポチが走ってきた。


「ワンワン!」

(まこと!どこいくの!?)

「王都に行くんだ」

(おうと……?)

「遠い場所」

(いっしょにいく!)

「お前は……ここに残れ。飼い主がいるだろ」

(やだ!まことといっしょがいい!)


 ポチは俺の足にしがみついた。

 その時、ポチの飼い主が走ってきた。


「ポチ! 戻れ!」


 でも、ポチは離れない。

 飼い主は困った顔で俺を見た。


「あの……もしかして、ポチを連れて行くつもりですか?」

「え、いや……」

「お願いします! 連れて行ってください!」

「え?」

「あいつ、あなたが来てから全然言うこと聞かないんです! もう限界です!」

「それ、俺のせいじゃないですか!?」

「お願いします! このままじゃ、うちの畑が全部荒らされます!」

「それ、完全にポチのせいですよね!?」


 結局、ポチも一緒に連れて行くことになった。

 さらに。


「にゃー」


 白い猫が現れた。


(まこと、いくの?)

「お前もか……」

「ああ、その猫も連れて行ってください!」


 猫の飼い主らしき女性が叫んだ。


「最近、家に帰ってこないんです! あなたのところに入り浸りで!」

「俺、泊まってたのガレンの家ですよ!?」

「とにかく、お願いします!」


 猫も追加。

 さらにさらに。


「メェェ」


 山羊が現れた。


(まこと、まってた)

「お前、誰の山羊だよ……」

「その山羊も! 連れて行ってください!」


 村人総出で、動物を押し付けてくる。


「ちょっと待ってください! 俺、一人で何匹面倒見れると思ってるんですか!?」

「大丈夫です! あなたなら!」

「根拠ゼロでしょ、それ!?」


 結局、ポチ、猫、山羊を連れて行くことになった。

 モフを含めて、4匹。


「……荷物より動物の方が多いんだけど」


 その時、村長ガレンが歩いてきた。


「マコト、本当に行くのか」

「はい。ここにいても、何も変わらない気がするんです」

「そうか……」


 ガレンは少し寂しそうに微笑んだ。


「お前は、良い奴だ。村人たちも、本当は分かっている」

「……本当ですか?」

「本当だ。ただ、お前の力が特殊すぎて、怖がっているだけだ」


 ガレンは俺の肩を叩いた。


「王都に行けば、お前の力を評価してくれる人もいるだろう」

「ありがとうございます……」

「これを持っていけ」


 ガレンは、小さな袋を渡してくれた。

 中には、銀貨が数枚入っている。


「え、こんなに……」

「村人たちからの餞別だ。『早く出て行ってくれてありがとう』という意味も込めて」

「それ、餞別じゃなくて追い出し費用じゃないですか!?」


 ガレンは笑った。


「冗談だ。本当は、お前の無事を祈っている」

「……ありがとうございます」


 俺は、深く頭を下げた。


 そして、村の入口に向かって歩き出した。

 モフは俺の肩に乗り、

 ポチは俺の横を歩き、

 猫は俺の頭に乗り、

 山羊は俺の後ろをついてくる。


「……完全に、動物の引率だな、これ」

(たのしい!)

(わくわく!)

(おさんぽ!)

(めぇ)


 動物たちは、全員嬉しそうだ。

 村人たちが、遠くから手を振っている。


「さようなら!」

「元気でな!」

「二度と帰ってくるなよ!」

「最後の一人、ひどくないですか!?」


 でも、不思議と嫌な気分じゃなかった。

 むしろ、少しだけ――

 笑えた。


「よし」


 俺は、前を向く。


「行こう。王都へ」


 一歩。

 また一歩。

 背中に、村の風景が遠のいていく。


 怖くて、不安で、でも――

 足は、止まらなかった。


 モフの体温が、肩にある。

 ポチの存在が、横にある。

 猫の重みが、頭にある。

 山羊の足音が、後ろにある。


「……一人じゃないんだな」


 小さく呟いた。

 動物たちだけど。

 人間じゃないけど。

 それでも、一緒にいてくれる。

 それだけで、十分だと思えた。


「よし! 王都目指して、出発だ!」


 俺が叫ぶと、動物たちも鳴いた。

(おー!)

(わんわん!)

(にゃー!)

(めぇ)


 山羊だけテンション低いけど、気にしない。

 こうして俺は、

 初めて自分で選んだ道を、歩き始めた。


 モフモフを連れて。

 ポチを連れて。

 猫を連れて。

 山羊を連れて。


 ――村を出る、という小さな決意は、

 やがて大きな運命へと繋がっていく。

 その時は、まだ知らなかったけれど。


 遠くで、鳥が鳴いた。

 青い空。白い雲。


 そして、続く道。

 俺の異世界冒険は――

 今、本当に始まったのだった。

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