24話:総力戦、街防衛戦線
壊さずに、守り切れ
街が、鳴いていた。
瓦礫が崩れる音。悲鳴。魔獣の咆哮。
それらすべてが混ざり合い、夜の空を引き裂いている。
「……始まったな」
マコトは、深く息を吸った。
手が、震えている。
怖くないと言えば、嘘になる。
だが、
「行くしかない」
◇
「【最終警告】大規模魔獣狂化事件。総力戦を始める!。」
「第一防衛線、崩れかけ!」
「南区画、魔獣密度が異常!」
「回復役、足りません!」
ギルド本部前。指示と怒号が飛び交う。
冒険者たちは必死だった。だが、相手が悪い。
狂化魔獣の数は、明らかに"街を潰す前提"で投入されている。
「マコト!」
リーネが叫ぶ。
「私と右側、抑える!」
「了解!」
マコトは、一歩前に出た。
足が、震えていない。
不思議なことに、仲間がいると、怖さが消える。
「――展開」
短く呟く。
風が、マコトの足元で渦を巻いた。
「うわっ……!」
「また来たぞ、あの魔法……!」
冒険者たちがざわつく。
詠唱はない。印もない。
だが、効果は、確実だった。
狂化した狼型魔獣の群れが、一斉に宙へ浮く。
「風圧操作……?」
リーネが息を呑む。
「いや、流れそのものを書き換えてる……!」
マコトは、歯を食いしばる。
「っ……まだ、制御は……!」
空中で押さえ込まれた魔獣たちを、地面に叩きつけない。
壊せば、簡単だ。
だが、瓦礫が飛び、街がさらに壊れる。
「……耐えろ」
マコトの額に、汗が滲む。
魔力が、削られていく。
だが、まだ、大丈夫。
「プーコ!」
「ぶもー!」
巨大な猪型魔獣が、突進する。
だが、敵ではない。
狂化魔獣たちを、体当たりで押し返す。
(マコトの邪魔はさせない!)
「ありがとう!」
マコトは、風を再び展開した。
今度は、範囲を広げる。
街全体を、包むように。
「……っ、これ……範囲が広すぎる!」
冒険者たちが、驚愕する。
「あいつ、一人で街全体に魔法を……!?」
だが、マコトは、限界を感じていた。
「――今です!」
エルナの声。
次の瞬間、前線の冒険者たちに光が走る。
回復魔法。範囲拡張。
「……っ、この規模を一人で!?」
冒険者が驚愕する。
エルナは、歯を食いしめながらも、笑っていた。
「……守るって、こういうことでしょ」
恐怖は、もうない。
彼女の目には、決意が宿っている。
「マコトさんが、魔獣を止める」
「なら私は、人を守る」
光が、さらに広がる。
負傷した冒険者たちが、次々と立ち上がる。
「すげえ……」
「これが、本物の回復師か……」
エルナは、小さく笑った。
「……やっと、役に立ててる」
「ぎゃーっ! 来すぎ来すぎ!」
ミルファが、マコトの背後から飛び出す。
猫獣人の身軽さで、瓦礫を蹴り、魔獣の頭に着地。
「はいそこ、ストップにゃ!」
ズドン。
魔獣が、妙な姿勢で固まる。
「……拘束?」
冒険者が目を丸くする。
「ミルファ式、関節ロックにゃ!」
ドヤ顔。
空気が、一瞬だけ和らぐ。
「にゃはは! マコト、見たにゃ!?」
「見た見た! すごい!」
マコトが、笑顔で答える。
その隙に、
「にゃっ!?」
別の魔獣が、ミルファに襲いかかる。
だが、
「――遅い」
アイシアの声。
氷の槍が、魔獣を貫く。
殺さない威力。
ただ、動きを止める。
「……ありがとうにゃ」
「礼はいらん」
アイシアは、冷静に次の敵を見据える。
「お前は、マコトの仲間だ」
「守るのは、当然だ」
「――調子に乗るな」
低く、威圧する声。
ベルゼビュートだった。
魔王竜の魔力が、一気に放たれる。
空気が、凍りつく。
「この街は、"マコトの場所"だ」
「壊す気なら、私が先に壊す」
狂化魔獣たちが、一斉に怯む。
「……あの魔獣、狂化してるのに……!」
「威圧で、抑え込んだ!?」
周囲が、ざわめく。
ベルゼビュートは、冷たく笑った。
「マコトは、優しすぎる」
「だから私が、脅す」
魔王の威圧が、さらに強まる。
魔獣たちが、後退する。
だが、
「ベルゼビュート、ありがとう」
マコトの声が、優しく響く。
「でも、殺さないで」
「……わかっている」
ベルゼビュートは、小さく頷いた。
「お前の願いは、私の命令だ」
だがマコトは、膝をついた。
「……っ」
「マコト!?」
リーネが、駆け寄る。
「無理しすぎよ!」
「……まだ、大丈夫……」
そう言いながら、マコトの視界が揺れる。
魔力消費。精神負荷。
壊さない制御は、無双より遥かに重い。
「……くそ」
マコトは、自分の弱さを噛みしめた。
「守りたいのに……全部は……」
手が、震える。
視界が、滲む。
限界が、近い。
その時。
「――マコト!」
アイシアの声が、空から落ちた。
「前を見るな!」
次の瞬間、巨大な魔獣が突進してくる。
「……っ!」
マコトが動くより早く。
「通さない!」
リーネの氷が、地面を覆い、進路を止める。
「マコトは、私たちが守る番よ!」
彼女の目は、真剣だった。
「あなたは、もう十分戦った」
「だから、休んで」
マコトは、リーネを見た。
彼女の手が、震えている。
怖いはずだ。
だが、それでも、前に立つ。
「……ありがとう」
マコトは、小さく笑った。
セレナが、軽く口笛を吹いた。
「……なるほどね」
「これは、一人で戦う戦争じゃない」
彼女は、杖を掲げる。
「情報共有、全部開示するわ!」
魔法陣が、空中に展開される。
戦場の魔獣の位置、数、動きの予測、すべてが、冒険者たちに共有される。
「うわ……これ、すげえ……」
「敵の動きが、全部見える!」
戦場の流れが、一気に整理される。
「さあ、みんな」
セレナは、妖艶に笑った。
「私が目になる。あなたたちは、手足になって」
冒険者たちが、動きを変える。
無駄がなくなる。
連携が、生まれる。
マコトは、ゆっくり立ち上がった。
仲間たちが、前にいる。
背中を、預けられる。
「……ありがとう」
小さく、呟く。
そして、風と土を、静かに整えた。
「今度は……守り切る」
魔力が、再び集まる。
だが今度は、一人じゃない。
「リーネ、氷で道を作って」
「了解!」
「ミルファ、敵の注意を引いて」
「任せるにゃ!」
「エルナ、回復を続けて」
「はい!」
「アイシア、ベルゼビュート、後衛を守って」
「承知した」
「当然だ」
全員が、動く。
連携が、生まれる。
マコトの風魔法が、街全体を包む。
だが、今度は、一人で背負わない。
みんなで、守る。
街防衛戦線は、崩れていない。
冒険者たちが、次々と魔獣を押し返す。
「やれる!」
「このまま、押し切るぞ!」
希望が、生まれ始める。
だが
マコトは、知っていた。
これは、まだ序章。
レグスの本命は、この先にある。
戦争は、終わらない。
◇
遠く、高台で。
レグスは、すべてを見下ろしていた。
「……なるほど」
彼は、小さく笑った。
「一人では限界、か」
「だが、仲間がいれば、強くなる」
「では」
彼は、新たな術式を展開した。
「仲間を、奪えばいい」
次の瞬間、
街の中心部で、爆発が起きた。
「な……!?」
「中央広場が……!」
冒険者たちが、絶叫する。
レグスは、冷たく笑った。
「さあ、マコト」
「次は、どうする?」
大戦闘は、さらに激化する。




