20話:俺が止める役目?
街は、今日も平和だった。
――表向きは。
パン屋は開き、子どもは走り回り、噴水の水はきらきらしている。
なのに。
「……違和感がある」
マコトは、立ち止まった。
微心読が、ざわつく。
魔獣の気配が、怯えている。
怒りじゃない。狂気でもない。
――逃げ場を探している。
「マコト?」
リーネが、不安そうに覗き込む。
「……この街」
「狙われてる」
「もふぅ……」
モフが、マコトの肩で震えている。
(もふもふ……怖い……)
「大丈夫だ、モフ。俺たちがいる」
「ぶもぉ……」
プーコも、不安そうに鼻を鳴らす。
(ぶも……嫌な予感)
「……ああ。俺もだ」
◇
その夜。
ギルドの裏部屋。
マコトは、一人で考え込んでいた。
「俺が……止めなきゃ、いけないのかな」
力がある。繋がれる。狂化を解ける。
――だったら。
「俺が止め役にならないと……」
「ならん」
即答。
ドアを蹴破る勢いで、ベルゼビュートが入ってきた。
「……い、今ノック――」
「するか」
ベルゼビュートは、マコトの襟首を掴む。
「いいか、人間」
「均衡というのはな」
「一人に背負わせるものではない」
マコトは、言葉を失う。
「お前が止め続ける世界など」
「それはもう、歪みそのものだ」
「……でも」
「でももクソもない」
ベルゼビュートは、ぐっと顔を近づけた。
「レグスの狙いは、そこだ」
「お前を均衡装置にする」
「壊さず、直させ続ける」
マコトの胸が、ずきりと痛む。
「……じゃあ、どうすれば」
ベルゼビュートは、にやりと笑った。
「均衡を消す」
「え?」
「お前が一人で止める構図そのものを、ぶち壊す」
「……乱暴すぎない?」
「魔王だからな」
その言葉に、マコトは少しだけ笑った。
「……そっか」
ミルファが、部屋に飛び込んできた。
「マコト! ベルゼビュート!」
「どうした?」
「街で、何か起きてるにゃ!」
◇
翌日。
街で、小さな事件が起きた。
「魔獣が、店の裏で倒れてる!」
「狂化!?」
――違う。
マコトが近づくと、魔獣は怯えていた。
『……近い……来る……』
心が、震えている。
「何が来る?」
答えはない。
その時。
「おーい、噂の英雄さん」
声。
振り向くと、敵対冒険者の一団が立っていた。
リーダー格の男が、薄く笑う。
「街を守るのは、あんたの役目なんだろ?」
「失敗したら――どうなるか、分かってるよな?」
リーネが、一歩前に出る。
「脅し?」
「忠告さ」
男は、肩をすくめた。
「均衡が崩れたら、責任を取るのは――」
マコト。
その瞬間。
ベルゼビュートが、地面を踏み鳴らした。
空気が震える。
「勘違いするな」
「マコトは、止め役ではない」
赤い眼が、男を射抜く。
「壊すなら、我が先に壊す」
「守るなら、全員で守る」
敵対冒険者は、一瞬たじろいだ。
「……魔王竜が味方とか、反則だろ」
「今さらだ」
男たちは、何も言わずに去っていった。
マコトは、ベルゼビュートを見た。
「……ありがとう」
「礼には及ばん」
彼女は、満足そうに笑った。
「お前は、一人で戦うな」
「……うん」
エルナが、小さく呟いた。
「……あの人たち、何を企んでるんでしょう」
「わからない」
リーネが、真剣な顔で言った。
「でも、確実に何かを仕掛けてくる」
「準備しないと」
◇
夜。
街の外。
マコトは、空を見上げた。
「俺……背負おうとしてた」
エルナが、隣に立つ。
「気づけたなら、それでいい」
ミルファが、尻尾を振る。
「マコトは、一人じゃないにゃ!」
リーネは、小さく笑う。
「むしろ一人にしたら危ないわ」
ベルゼビュートは、腕を組む。
「次に来るぞ」
「街規模の揺さぶりだ」
マコトは、深く息を吸った。
「……なら」
「一緒に止める」
その覚悟が、夜の空気を少しだけ軽くした。
「もふー」
モフが、マコトの頭の上に乗った。
(もふもふ……一緒にいる)
「……ありがとう、モフ」
「ぶもー」
プーコも、力強く鳴く。
「ぶも」
(私たちがいる)
「……そうだな」
だが。
遠くで、歪みが軋む音がした。
街は、まだ眠っている。
嵐が来ることを、知らないまま。
マコトは、仲間たちを見回した。
みんなが、ここにいる。
それだけで――
戦える。
その夜、マコトは思った。
(……俺は、一人じゃない)
(だから、戦える)
明日も、頑張ろう。
そう思いながら、マコトは眠りについた。
でも――
敵の影は、確実に近づいていた。
王都の地下。
レグスは、黒衣の人物と向き合っていた。
「……準備は、整った」
「ほう」
黒衣の人物が、笑った。
「では、始めるか」
「街規模の、狂化事件を」
レグスの目が、狂気に染まった。
「……ああ。楽しみだ」
「魔獣使いが、どこまで耐えられるか」
黒衣の人物が、頷く。
「期待している」
レグスは、立ち上がった。
「では、行ってくる」
「満月の夜に」
不穏な計画が、動き出していた。
マコトは、まだ気づいていなかった。
自分が、どれほど大きな戦いに巻き込まれているのかを。
でも、確実に――
運命は、動き始めていた。
気分転換に他の小説も読んで見てください。
ギャグ
●異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜
https://ncode.syosetu.com/n0668lg/
ホッコリファンタジー
●黒猫フィガロと、願いの図書館 〜涙と魔法に満ちた旅の記録〜
https://ncode.syosetu.com/n5860kt/
ホラー
●私を処刑した王子へ 〜死んだ公爵令嬢は呪いとなり、王国を沈める〜
https://ncode.syosetu.com/n3858lk/




