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6話:モフモフとの出会い

 村の外れで、俺は一人……じゃなかった。


 犬と猫と鶏と山羊に囲まれている時点で、全然一人じゃない。

 だが心は、ひどく孤独だった。


「……なあ」


 誰に向けた言葉でもない。


「俺ってさ、人に嫌われる才能だけは、一級品だよな」


 その瞬間だった。

 頭の奥に、何かが流れ込んできた。


(……ちがう)


「……え?」


 俺は思わず、きょろきょろと周囲を見回した。

 今、誰か喋った?

 でも、誰もいない。


(ちがう、ちがう)


 今度は、はっきり聞こえた。

 だが、口は動いていない。

 音もない。


「……これ、もしかして」


 神様が言っていた、もう一つのスキル。


 【微心読】。


 ――心が、読めてる?

 試しに、山羊の方を見る。

 山羊に触れた瞬間――


(あったかい……ここ、すき)


「……マジか」


 本当に聞こえた。

 山羊の心の声が。

 次に、犬を見る。

 ポチの頭を撫でる。


(このひと、かなしい。なでたい。もっとなでたい)


「……お前、優しいな」


 猫に触れる。


(ひざ。ひざは正義。ここからうごかない)


「お前はただの猫だな」


 鶏に触れる。


(えさ。えさほしい。えさえさえさ)


「食い意地張りすぎだろ」


 俺は頭を抱えた。


「やばい……何これ……思ってたのと違う……」


 【微心読(びしんどく)】。

 ちょと相手の心が読めるスキル。


 もっとこう、便利で、格好良くて、

 敵の思考を読むとか、心理戦とか。

 そういうのを想像してた。


 実際はこれだ。

 動物の感情が、ダダ漏れ。

 しかも全員、好意的。

 しかも、めちゃくちゃ単純。


「……これ、誤作動してるだろ」


 絶対、設定ミスだ。

 人間の心を読むはずが、動物の心を読んでいる。

 しかも、表層の雑念レベル。


「神様……お前、本当にやらかしてるな……」


 その時、村長のガレンが歩いてきた。


「マコト、お前……まだここにいたのか」

「あ、村長……」

「村人たちが心配している」

「心配……?」

「ああ。お前が一人で落ち込んでいるんじゃないかと」


 ガレンは俺の隣に座った。


「村長……あの、実は……」


 俺は意を決して、告白した。


「俺、心が読めるんです」

「心が……?」

「はい。【微心読】っていうスキルで……触れた相手の心が、少しだけ読めるんです」


 ガレンは驚いた表情になった。


「それは……珍しいスキルだな」

「でも、全然役に立たないんです」


 俺は動物たちを見た。


「人間の心は読めなくて、動物の心しか読めない。しかも、表層の雑念レベルで……」

「それは……」

「完全に、外れスキルです」


 俺は自嘲気味に笑った。


「【魅了】も人間には効かなくて、動物にしか効かない。【微心読】も動物の雑念しか読めない」

「……そうか」


 ガレンは少し考えた。


「でも、それは悪いことじゃない」

「え?」

「動物の心が読めるということは、動物と心を通わせられるということだ」


 ガレンは優しく言った。


「それは、素晴らしい才能だよ」

「……でも、俺が欲しかったのは……」

「人間に好かれることか?」


 図星だった。


「……はい」

「マコト」


 ガレンは俺の肩を叩いた。


「焦るな。お前には、お前に合った場所がある」

「……」


 その時だった。

 ――ガサッ。

 草むらが揺れた。


 全員が、一斉にそちらを見る。

 俺も、身構えた。


 そこから現れたのは――

 丸かった。

 真っ白で、ふわふわで、

 毛玉みたいな生き物。

 耳は垂れていて、尻尾は短い。

 大きさは、子犬くらい。

 黒い丸目が、こちらを見ている。


「……なにこれ」


 見たことがない。

 だが、怖くはなかった。

 むしろ――


「可愛い……」


 思わず、声が漏れた。

 ガレンが驚いた声を出した。


星毛獣(せいもうじゅう)……!」

「星毛獣?」

「ああ。非常に珍しい魔獣だ。人間には滅多に近づかない」


 魔獣。

 この世界には、魔物と魔獣がいると聞いた。

 魔物は凶暴で危険。

 魔獣は知性があり、一部は人間と共存する。


 そして、目の前の毛玉は――

 おずおずと、一歩近づいてきた。


(……こわくない?)


 心の声が、聞こえた。


「え……今、喋った?」


(ひと、にがて。でも……このひとは、やさしいにおい)


 胸が、ぎゅっとなった。


「……俺?」


 毛玉は、小さく頷いた。

 そして、さらに近づいてきた。


 ポチや猫たちが、道を開ける。

 まるで、歓迎するように。

 俺は、思わず口に出していた。


「……なあ」


 誰に聞かせるでもなく。


「俺、人間に嫌われるんだ」


 毛玉は、きょとんとした。


「動物に好かれてもさ……それ、嬉しいって言っていいのか、分かんねえ」


 沈黙。

 そして。


(……いっしょに、いてくれる?)


 拒絶が、なかった。

 恐れも、嫌悪も、なかった。

 ただ、そこに居てほしいという気持ちだけ。

 俺の喉が、詰まった。


「……ずるいな」


 笑おうとしたら、変な顔になった。


「そんなこと言われたら……断れないだろ」


 そっと手を伸ばす。

 毛玉は逃げない。

 震えながらも、俺の指に、額をすりっと当ててきた。


(あったかい)


 その言葉が、胸に染みた。


「……お前、名前は?」

(なまえ……ない)

「じゃあ……モフ、でいいか?」

(もふ……?)

「見た目、モフモフだし」

(もふ……すき)


 モフは、嬉しそうに鳴いた。

 ふわふわの体が、少し光る。


「うわ……綺麗」


 白銀の毛が、星のように輝いている。

 ガレンが驚いた声を出した。


「星毛獣が……お前を認めた」

「認めた……?」

「ああ。星毛獣は、心が純粋な者にしか懐かない」


 ガレンは微笑んだ。


「お前は、認められたんだ。この子に」

「……」


 俺は、モフを抱き上げた。

 軽い。

 温かい。


 そして――柔らかい。


(ここ……すき)


 モフは、俺の腕の中で丸くなった。

 まるで、ずっとそこにいたかのように。


 俺は、初めて気づいた。

 この世界で。

 拒絶されない存在が、ここにいる。


 たった一匹。

 でも、確かに。


「……よろしくな、モフ」


 モフは、嬉しそうに鳴いた。

 周囲の動物たちも、どこか誇らしげだった。


 ポチは尻尾を振り、

 猫は喉を鳴らし、

 鶏は羽をばたつかせ、

 山羊は嬉しそうに跳ねた。


 夜風が、少しだけ、優しくなった気がした。

 星が、遠くで輝いている。

 あの日見た、星空。

 あの時、俺は何を願ったんだっけ。


「……もう一度、生きてみたい」


 そう、願ったんだ。

 ちゃんと、前を向いて。

 ちゃんと、笑って。

 ちゃんと、誰かと繋がって。


「……まだ、諦めるのは早いかもな」


 小さく呟いた。

 モフが、俺の腕の中で眠り始めた。

 安心しきった、穏やかな寝息。


 その温もりが、少しだけ――

 俺の心を、温めてくれた気がした。




気分転換に他の小説も読んで見てください。


ギャグ

●異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜

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ホッコリファンタジー

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●[連載版]悪役令嬢ですが、婚約破棄の原因がトイレ戦争だったので逆に清々しいです

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