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神様、魅了の対象そこじゃないです 〜魅了スキルをもらったのに、対象が動物と魔物だけでした〜  作者: たかつど
第2章「星の向こう側」

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13話:でもモフモフは裏切らない

 



 朝の空気は、やけに静かだった。


 昨夜の出来事が、まだ地面に染み込んだままのような――そんな重さが残っている。


 マコトは、ギルド裏の空き地で一人、立っていた。


「……」


 何かをしようとしているわけでもない。ただ、ぼんやりと、自分の手を見つめている。


(強さと、優しさ……)


 考えれば考えるほど、答えは遠ざかる。


 ――そのとき。


 もふっ。


「……?」


 足元に、柔らかい感触。

 マコトが視線を落とすと、小型のモフモフ魔獣が、彼の足にぴったり寄り添っていた。


「……お前」


 昨日の討伐で、助けた個体だ。

 心読が、控えめに流れ込む。


(ここ)

(あったかい)

(安心)


 マコトは、思わず苦笑した。


「……俺、全然安心できてないんだけどな」


 すると。

 もふ。

 もふもふ。

 もふもふもふ。


 二体目、三体目。

 気づけば、マコトの周囲はモフモフに囲まれていた。


 背中。腕。足元。

 遠慮という概念を知らない密着。


「ちょ、待て……!」

(大丈夫)

(怒ってない)

(一緒)


 魔獣たちは、ただ、そこにいた。

 理由も、計算もなく。


 ――裏切りも、疑いもなく。


「……はは」


 マコトの肩から、力が抜ける。


「……ありがとう」

「もふぅ……」


 マコトの肩に乗っているモフが、小さく鳴いた。


(もふ…いつも一緒)

「……そうだな」

「ぶもぉ……」


 プーコも、遠くから近づいてきた。


(私も一緒)

「プーコ……」


 プーコが、マコトの足元で丸くなる。

 その大きな体が、温かい。


「……ありがとう、みんな」







「にゃ!なにこれ、朝から天国にゃ?」


 間の抜けた声が、空気を切り裂いた。

 振り返ると、ミルファが立っていた。

 腕いっぱいに、何かの袋。


「マコトー! 朝ごはんの余り持ってきたら、なんか……モフの集会始まってるにゃ?」

「いや、その……」


 説明しようとした瞬間。


「わーい!」


 ミルファが、全力でダイブ。


「もふもふ補給ーっ!」


 ――重なった。


 マコト+魔獣+ミルファ。

 完全な団子状態。


「ミ、ミルファ! ちょっと!」

「だいじょーぶだいじょーぶ! モフは人を裏切らないにゃ!」

「論拠が雑すぎる!」


 だが。

 笑い声が、確かに空気を変えた。

 リーネは、少し離れた場所で腕を組みながら呆れている。


「……本当に、この空気破壊性能だけは一流ね」


 ベルゼビュートは、小さく鼻を鳴らした。


「魔獣が寄る者は、心が歪んでいない」

「……そういうもの?」

「少なくとも、完全な悪ではない」


 マコトは、モフに埋もれたまま、天を仰いだ。

 胸の奥の重さが、ほんの少しだけ、軽くなっていた。


「もふもふ……」


 モフが、マコトの頬に顔を擦り付けてくる。


(元気出して)

「……ありがとう、モフ」

「ぶもー」


 プーコも、マコトの背中に鼻を押し付けてきた。

「ぶも」

(私たちがいる)

「……そうだな」


 ミルファが、マコトの腕に抱きついた。


「マコトは、一人じゃないにゃ!」

「……うん」


 エルナが、少し離れた場所から見ていた。


「……あの人、本当に不思議」

「何が?」


 リーネが、聞く。


「あんなに悩んでるのに……魔獣たちは、離れない」

「……それが、マコトさんの魅力ですよ」


 ベルゼビュートが、満足そうに笑った。


「……ああ。あの男は、特別だ」







 その日の午後。


「――よし。決めた」


 マコトは、皆の前で言った。


「力の制御、本格的にやる」


 リーネが、すぐに頷く。


「賛成。今のマコトさんは、自分で思ってるよりずっと危うい」

「自覚は、ある……」


 ミルファが、手を挙げた。


「じゃあさ! まずは壊さない魔法から!」

「……それ、一番難しくない?」

「うん!」


 即答。

 ベルゼビュートが、静かに補足する。


「制御とは、力を弱めることではない」

「……?」

「使い分けることだ」


 マコトは、深く息を吸った。


「……やる」





 最初の課題は、風魔法で羽毛を浮かせ続ける。


「吹き飛ばしたら失敗ね」


 リーネの冷静な声。


「簡単そうで、全然簡単じゃないよ?」


 マコトは、集中する。

 風を、生む。

 ――強すぎる。

 羽毛は、視界から消えた。


「……ごめん」

「想定内」


 二回目。

 三回目。

 失敗。

 失敗。


 それでも。

 魔獣たちは、逃げなかった。

 マコトの足元で、丸くなり、見守っている。


(がんばれ)

(できる)


 心読が、静かに背中を押す。

 マコトは、歯を食いしばった。


「……今度こそ」


 風は、柔らかく。

 羽毛は、ふわりと浮かび――

 落ちない。


「……!」

「成功」


 リーネが、小さく笑った。

 ミルファが、拍手する。


「やったね!」


 ベルゼビュートは、満足そうに頷いた。


「もふー!」


 モフも、嬉しそうに鳴く。


「ぶもぶも!」


 プーコも、誇らしげに胸を張る。

 マコトは、胸の奥に確かな感触を得ていた。


 ――怖いままでも、進める。

 ――間違えたままでも、学べる。



 そして。

 もふもふは、今日も裏切らない。

 エルナが、小さく呟いた。


「……あの人、本当に諦めない」

「ええ」


 リーネが、微笑んだ。


「それが、マコトさんの強さです」


 ベルゼビュートが、腕を組んだ。


「……まだまだ、甘いがな」

「でも、成長してます」

「……ああ」


 彼女は、満足そうに笑った。


「だから、私は信じる」


 マコトは、訓練を続けた。

 何度も失敗して、何度も立ち上がる。

 魔獣たちは、ずっと見守っている。

 ミルファも、リーネも、ベルゼビュートも、エルナも。

 みんなが、マコトを信じている。


 重さは、まだ消えない。


 だが。

 前に進む道は、確かに、ここにあった。





 その夜。

 マコトは、魔獣たちに囲まれて眠った。


「もふぅ……」


 モフが、マコトの頭の上で丸まっている。


「ぶもぉ……」


 プーコも、マコトの足元で眠っている。

 ミルファは、マコトの腕に抱きついている。


「にゃー……」


 マコトは、小さく笑った。


「……ありがとう、みんな」


 明日も、頑張ろう。

 そう思いながら、マコトは眠りについた。


 重さを抱えたまま、でも――


 確かに、前を向いて。

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