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神様、魅了の対象そこじゃないです 〜魅了スキルをもらったのに、対象が動物と魔物だけでした〜  作者: たかつど
第2章「星の向こう側」

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12話:強さと優しさのズレ

 


 マコトは、迷っていた。


 それは戦場での迷いではない。剣を振るかどうかでも、魔法を撃つかどうかでもなかった。


 ――どこまでやっていいのか。


 それが、わからなくなっていた。


「魔獣の暴走が確認されたのは、この集落です」


 ギルドから渡された地図を見ながら、リーネが説明する。


「住民は避難済み。でも……家屋の被害が出てます」


 マコトは、小さく頷いた。


「魔獣は?」

「中型が数体。狂化は中程度」


 ――なら、止められる。


 マコトはそう思った。


(……殺さずに、止められる)


 それが、彼の判断だった。





 集落は、静まり返っていた。

 壊れた柵。倒れた家屋。

 その中央で、唸り声を上げる魔獣たち。


(痛い)

(苦しい)

(助けて)


 心読が、流れ込む。

 マコトは、一歩前に出た。


「……落ち着け」


 声をかける。

 魅了は、使わない。

 ――無理に縛るのは、違う気がしたから。


「マコト、距離を取って!」


 リーネの声。

 だが、マコトは手を上げた。


「大丈夫。話せば……」


 その瞬間。

 ――魔獣が、跳んだ。


「っ!」


 反射的に、土壁を展開。

 衝撃は、防いだ。


 だが。


 背後――家屋が、巻き込まれた。

 轟音。

 木材が、砕け散る。


「……!」


 マコトの、胸が凍る。

 そこに、人影。


「まだ、避難してなかったのか……!」


 逃げ遅れた、老人。

 魔獣が、向きを変える。


「やめろ!」


 マコトは、風魔法を放った。

 抑えた威力。制御重視。


 ――それが、裏目に出た。


 魔獣は、止まらない。

 間に合わない。


「マコト!」


 ベルゼビュートが、動いた。


 ――一撃。


 圧倒的な力で、魔獣を吹き飛ばす。

 静寂。

 瓦礫の中で、老人は震えていた。


 ――無事。


 だが。


 家は、完全に崩壊していた。


 マコトは、その光景を見つめた。


(……俺のせいだ)


 手が、震える。


「もふぅ……」


 モフが、マコトの肩で小さく鳴いた。


(もふぅ……マコトのせいじゃない)

「……いや、俺のせいだ」


 ミルファが、マコトの手を握った。


「マコト……」

「ごめん、ミルファ。今は……」


 マコトは、ミルファの手を振り払った。

 ミルファの目が、悲しそうに揺れる。


「……マコト」


 プーコも、遠くからマコトを見ていた。


「ぶもぉ……」

(マコト、自分を責めすぎ)


 でも、マコトは聞こえていなかった。






 その夜。

 マコトは、一人で瓦礫を見つめていた。


「……俺が、もっと早く……」


 リーネが、静かに言う。


「マコトさんのせいだけじゃない」

「違う」


 マコトは、首を振った。


「俺が……手加減した」

「それは、優しさでしょ」


 マコトは、唇を噛んだ。


「……優しさで、家が壊れた」


 誰も、言葉を返せなかった。

 ベルゼビュートが、低く告げる。


「強さとは、選択だ」

「……」

「守るために、壊すこともある」


 マコトは、拳を握った。


「……俺、自分の力が……怖い」


 それは、初めて口にした本音だった。

 エルナが、少し離れた場所から言った。


「……マコトさん」

「……何?」

「あなたは、間違ってない」

「え?」

「優しさを失わなかったこと。それは、間違いじゃない」


 エルナの目が、真剣だった。


「でも……」

「でも、力を持つ者は、覚悟が必要です」


 その言葉が、マコトの胸に刺さった。


「……覚悟」

「ええ。守るために、時には――傷つけることも」


 マコトは、何も言えなくなった。





 その頃。


 ――王都地下。

 敵対冒険者、レグスは跪いていた。


「……力を、ください」


 目の前に立つ、黒衣の人物。


「決めたか」

「……マコトは、選ばれた」

「だが俺は、選ばれなかった」


 黒い結晶が、差し出される。


「それは、人をやめる道だ」


 レグスは、一瞬だけ迷い――

 掴んだ。


「構わない」


 結晶が、砕け散る。

 黒い魔力が、彼を包む。

 悲鳴。

 歪む肉体。


 それでも、レグスは笑った。


「これで……俺も、特別だ」


 黒衣の人物が、満足そうに笑う。


「いい眼だ。では、試してみるか」

「……何を?」

「お前の力を。魔獣使いに」


 レグスの目が、狂気に染まった。


「……ああ。喜んで」


 一線を越えた。

 もう、戻れない。





 翌朝。

 マコトは、目を伏せたまま言った。


「……俺、強くなりたい」


 リーネが、驚く。


「もう、十分強いよ」

「違う」


 マコトは、顔を上げた。


「優しさと、強さを……間違えないように」


 ミルファが、マコトの手を握った。


「マコト……」

「ごめん、ミルファ。俺、まだ弱いんだ」

「弱くないにゃ!」


 ミルファの目に、涙が浮かんでいた。


「マコトは、誰よりも強いにゃ!」

「……ありがとう」


 ベルゼビュートが、腕を組んだ。


「マコト。お前は、正しい道を選ぼうとしている」

「……そうでしょうか」

「ああ。だから、私はお前を信じる」


 その言葉に、マコトは少しだけ救われた。


「……ありがとう、ベルゼビュート」

「礼には及ばん」


 エルナが、小さく呟いた。


「……マコトさんは、優しすぎる」

「え?」

「でも、それがあなたの強さです」


 その言葉に、マコトは何も言えなくなった。

 遠くで、不穏な気配が膨らむ。


 敵は、一線を越えた。


 そしてマコトもまた、自分自身の境界線に立っていた。


 ――戻れない場所に、足を踏み入れたことを、まだ完全には理解しないまま。





 その夜、マコトは一人で考えた。


(……俺、どうすればいいんだろう)


 答えは、まだ見つからない。


 でも――


 仲間がいる。


 それだけで、前に進める。

 そう思いながら、マコトは眠りについた。 


 明日、何が待っているのか。

 マコトには、まだわからなかった。


 でも、確実に――

 世界は、変わり始めていた。

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