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神様、魅了の対象そこじゃないです 〜魅了スキルをもらったのに、対象が動物と魔物だけでした〜  作者: たかつど
第2章「星の向こう側」

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11話:心読が暴走する日

 


 朝から、マコトの頭は――うるさかった。


(おなかすいた)

(あいつ怖い)

(マコトだ、マコトがいる)

(助けて)

(眠い)

(撫でて)

(不安)

(怒り)

(憧れ)

(妬み)


「……っ」


 マコトは、思わず頭を抱えた。


「マコト? どうしたの?」


 リーネが、心配そうに覗き込む。


「いや……その……」


 言葉が、出てこない。

 微心読。

 本来は「触れた相手の心が、少しだけ伝わる」スキル。


 ――だったはず。


 だが。


 昨日の魔獣狂化事件以降、半径数メートル分の感情が、一気に流れ込んでくる。


(この人、危険じゃない?)

(英雄様だ)

(近づくな)

(信じたい)

(怖い)

(好き)


「……多い……」

「マコト?」


 ミルファが、いつものように飛びつこうとして――途中で止まった。


「……マコト、顔色やばいにゃ」

「……大丈夫、たぶん……」


 その瞬間。


(――殺す)


 強烈な、黒い感情。


「っ!?」


 マコトは、その場で崩れ落ちた。


「マコト!」

「マコトさん!」


 視界が、歪む。音が、遠のく。

 大量の感情が、洪水のように押し寄せて――


 ――意識が、落ちた。






「……ん……」


 目を覚ますと、柔らかい感触。


 ――そして、やけに近い距離。


「起きた?」


 低く、艶のある声。


「……え?」


 マコトの視界に、豊満な谷間が飛び込んできた。


「っ!?」


 慌てて上を向く。

 そこには、余裕たっぷりの笑みを浮かべた――セレナ。


「安心しなさい。介抱してあげてるだけよ?」

「か、介抱……?」

「ええ。膝枕、ってやつ」


 ――膝枕。


 状況を、理解した瞬間。


「ちょ、ちょっと待ってください!?」

「動かない。また倒れるわよ?」


 セレナは、楽しそうにマコトの額を撫でる。


「……あなた、相当溜め込んでる」

「え?」

「感情。魔獣のも、人のも」


 マコトは、視線を逸らした。


「……俺、止められなくて」

「でしょうね」


 その時。


 ――ガチャ。


 扉が開く音。


「マコトさ――」


 リーネの声が、凍りついた。


「……」


 無言。

 マコトの頭は、セレナの膝の上。

 セレナは、微笑んだまま。


「こんにちは、氷魔法使いちゃん」

「……説明、してもらえますか?」


 空気が、零下。

 その背後で。

 ベルゼビュートが、腕を組んで立っていた。


「……ほう」


 赤い瞳が、光る。


「マコト」

「い、今のは誤解で――」

「安心なさい」


 ベルゼビュートが、にっこり笑った。


「殺さない」

「余計怖い!」


 ミルファが、即座にマコトの腹に飛び込む。


「マコトはミルファの!」

「違うから!」

「もふぅ……」


 モフも、マコトの頭の上に乗った。


(もふもふ……怖い……)

「お前は、いつも怖がってるだろ……」


 修羅場。


 完全なる、誤解地獄。


 セレナは、肩をすくめた。


「大変ね、人気者は」

「煽らないでください!」





 一方。

 ――王都外れ。

 薄暗い路地。

 敵対冒険者の一人、レグスは、拳を震わせていた。 


「……あいつのせいだ」 


 マコト。

 魔獣使い。

 外れスキルのはずの男。


(なんで、あいつばかり……)


 思い出す。

 狂化魔獣たちが、マコトを見て安堵した顔。

 自分を、見もしなかった。


「……認められなかった」


 足元に、黒い結晶。

 邪教団の使者が、残していったもの。


『力が欲しいか?』


 囁き。

 レグスは、歯を食いしばる。


「……俺は……」


 拳を、握り締めた。

 ――まだ、踏みとどまっている。


 だが。

 心は、確実に――闇へ傾いていた。

 レグスの脳裏に、マコトの顔が浮かぶ。


(……あいつさえ、いなければ)


 黒い結晶が、妖しく光る。


『お前の力を、認めてやる』


 囁きが、レグスの心に染み込む。


「……くそっ」


 レグスは、結晶を握り締めた。

 まだ、使ってはいない。


 でも――


 その誘惑は、日に日に強くなっていく。





「……で、どういう状態なの?」


 数十分後。

 マコトは、正座させられていた。


「心読が……暴走してる、みたいで……」


 エルナが、静かに言う。


「制御不能。放置すれば、精神が壊れます」

「……そんな」


 リーネが、唇を噛む。

 マコトは、苦笑した。


「大丈夫。慣れれば……」

「慣れる前に壊れるわ」


 セレナが、即座に否定する。


「今日は、絶対に休み」

「……はい」


 ベルゼビュートが、腕を組んだまま言った。


「次に倒れたら、余の判断で強制隔離だ」

「それ休養ですか?」

「檻付きだ」

「重い!」


 ミルファが、マコトの手を握る。


「マコト、一人で抱えすぎにゃ」


 その言葉に、マコトは少しだけ――笑った。


「……ありがとう」


 エルナが、真剣な顔で言った。


「マコトさん。心読スキル、危険すぎます」

「……わかってる」

「本当に?」


 エルナの目が、厳しい。


「あなたは、自分の命を軽く見すぎです」

「……ごめん」


 セレナが、マコトの肩を叩いた。


「とりあえず、今日は休みなさい」

「でも、依頼が……」

「断る」


 ベルゼビュートが、有無を言わさぬ口調で言った。


「お前が倒れたら、誰が魔獣を救う?」

「……それは」

「自分を大切にしろ」


 その言葉に、マコトは何も言えなくなった。


 心を読む力。

 それは、優しさの延長。


 だが。


 優しさは、時に人を壊す。

 マコトは、まだ知らない。

 この暴走が、次の"選択"へ繋がっていくことを。


 そして。

 敵対冒険者の一人が、闇へ落ちるかどうか――

 その分岐点が、すぐそこまで来ていることを。





 なおその夜。

 マコトは隔離――もとい「安静」の名のもと、女性陣に囲まれて寝かされた。


「これ、隔離じゃなくて監視ですよね?」

「黙って寝ろ」


 ベルゼビュートが、マコトの隣に座っている。

 リーネは、反対側。

 ミルファは、マコトの腹の上。

 エルナは、少し離れた場所で本を読んでいる。

 セレナは、扉の前で腕を組んでいる。


「……逃げられないにゃ」

「逃げる気ないから……」

「ぶもー」


 プーコも、部屋の隅で寝ている。


「もふぅ……」


 モフも、マコトの頭の上で丸まっている。


「……これ、本当に休めるんですか?」

「休め」


 ベルゼビュートの一言で、議論は終わった。

 マコトは、深くため息をついた。


(……俺、本当に大丈夫かな)


 でも、悪くない。

 こんなに心配してくれる人たちがいる。

 それだけで、十分だ。

 ――平和だが、やはりズレている。

 そんな一日だった。





 翌朝。

 マコトは、少しだけ回復していた。


「……ありがとう、みんな」

「当然にゃ」

「ぶもー」

「もふ……」


 仲間たちの温かさに、マコトは微笑んだ。

 でも、心のどこかで――

 不安が残っていた。


(……レグスさん、大丈夫かな)


 あの黒い感情。

 マコトは、忘れられなかった。

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