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神様、魅了の対象そこじゃないです 〜魅了スキルをもらったのに、対象が動物と魔物だけでした〜  作者: たかつど
第2章「星の向こう側」

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9話:俺TUEEE…の片鱗



 その依頼書を見た瞬間、ギルドの空気が、わずかにざわついた。


「……これ、ランク間違ってません?」


 リーネが、眉をひそめる。

 依頼内容――Bランク上位魔獣・唸岩熊(グラウルベア)討伐。

 巨大な熊型魔獣。皮膚は岩のように硬く、単独でもBランク冒険者を二人は葬る。


 本来、今のマコトたちが挑む相手ではない。


「推薦依頼、です」


 受付嬢が、困ったように視線を逸らした。


「上から……どうしても、あなた方に、とのことで」


 マコトは、反射的に首を横に振った。


「む、無理ですって! 絶対強いじゃないですか!」

「……マコト」


 ベルゼビュートが、低く呟く。


「貴様は、自分を過小評価しすぎだ」

「いやいやいや!」


 ミルファが、マコトの腕にしがみつく。


「マコトなら大丈夫にゃ!」

「根拠がない!」

「もふぅ……」


 モフも、マコトの肩で震えている。


(もふもふ……怖い……)

「お前は、いつも怖がってるだろ……」


 エルナは、少し離れた位置から、黙ってマコトを見ていた。


(エルナ……怖がってない)


 それが、逆に怖い。


 結局。


「最悪、撤退すればいい」


 という条件付きで、依頼は受けられた。




 ――討伐地。


 深い森の奥。地面には、無数の爪痕。


「……いる」


 ミルファの声が、低くなる。


 次の瞬間。


 ドン――ッ!!


 地面が揺れた。


 現れたのは、想像以上の巨体。

 グラウルベア。肩までで、小屋ほどの高さ。

 赤い目が、マコトたちを捉える。


「っ……!」


 マコトの背中を、冷たい汗が伝った。


(無理……! これは、無理だ!)


 だが。


「――来る!」


 リーネの声。


 魔獣が、一気に距離を詰める。

 マコトは、反射的に前に出た。


「み、みんな下がって!」

「マコト!?」


 考える暇はない。

 頭の中が、妙に静かだった。


 ――詠唱。


 いつもなら、言葉を紡ぐ。


 だが。

 その瞬間。


「……風」


 無意識に、一言だけが零れた。


 ――轟。


 空気が、一気に圧縮される。


「なっ……!?」


 リーネが、目を見開いた。


 次の瞬間。

 圧縮された風刃が、熊の肩を叩き潰した。


 ――ドンッ!!


 巨体が、横倒しになる。


「…………」


 一瞬。誰も、声を出せなかった。


「え?」


 マコトだけが、間の抜けた声を出す。


「……あれ?」


 グラウルベアは、起き上がろうとする。

 だが、動かない。完全に、戦闘不能。


「……詠唱」


 エルナが、震える声で呟く。


「……省略、しましたよね?」

「えっ? してません、よね?」


 マコトは、自分の手を見る。


「……あ」


 その時。

 ベルゼビュートが、低く笑った。


「ほう」

「……来たか」

「何がですか!?」

「片鱗だ」

「ぶもぉ……」


 プーコが、遠くからマコトを見ている。


「ぶも……」

(すごすぎる)

「お前まで……」


 ミルファが、マコトに抱きついた。


「にゃー! マコト、すごすぎるにゃ!」

「いや、でも……」


 リーネが、真剣な顔で言った。


「マコトさん。今の、詠唱短縮です」

「詠唱短縮?」

「ええ。通常、詠唱は複数の言葉で構成されます」

「でも、あなたは一言で発動させた」


 その言葉に、マコトは何も言えなくなった。


「……たまたまです」

「たまたまじゃありません」


 リーネは、呆れたように言った。


「あなた、本当に自覚がないんですね」




 帰還。

 ギルド。

 討伐報告を聞いた瞬間。


「…………」


 沈黙。

 ざわめきは、起きなかった。ただ、静まり返った。


「……Bランク魔獣を、一撃?」


 冒険者の一人が、呟く。


「詠唱、してないだと?」

「外れスキル、じゃなかったのか?」


 視線が、一斉にマコトへ向く。

 マコトは、耐えきれず叫んだ。


「ち、違います! たまたまです!」

「またそれか……」


 リーネが、頭を抱える。


 ベルゼビュートは、満足そうに頷いた。


「ようやく、世界が気づき始めたな」


 ミルファが、マコトの肩に乗る。


「マコト、すごいにゃ!」

「だから偶然だって!」


 エルナは、マコトを見つめていた。


 その目には、怯えと。


 ――ほんの少しの、期待。


 ギルドの奥。

 誰かが、小さく呟いた。


「……外れ、じゃなかったんだ」

「いや……」

「当たりすぎるだろ」


 マコトは、その言葉を聞きながら。

 なぜか、胸が重かった。


(……俺、何をやったんだ?)


 力を得た実感より。


 ――世界が、自分を見る目が変わったこと。

 それが、何より怖かった。



 その夜、宿で。

 マコトは、ベッドに寝転びながら考えた。


「……俺、強くなってるのかな」

「もふぅ……」


 モフが、マコトの枕の上で丸まっている。


(強くなってる)

「……でも、怖い」

「もふ?」

「力が、俺を追い越してる気がする」


 その言葉に、モフは何も言わなかった。

 ただ、マコトの頬に顔を擦り付けた。


(もふもふ……大丈夫)

「……ありがとう」


 リーネが、部屋の扉をノックした。


「マコトさん、入ってもいいですか?」

「あ、うん」


 リーネが、部屋に入ってきた。


「……どうしたの?」

「マコトさんの様子が、気になって」

「……そっか」


 リーネは、マコトの隣に座った。


「マコトさん、怖がってますね」

「……うん」

「でも、大丈夫です」


 リーネは、優しく微笑んだ。


「私たちが、一緒にいますから」

「……ありがとう」

「それに」


 リーネは、少しだけ照れたように言った。


「マコトさんは、どんなに強くなっても、マコトさんです」

「……そうかな」

「そうです」


 その言葉に、マコトは少しだけ安心した。


「……ありがとう、リーネ」

「いえ」


 リーネは、立ち上がった。


「おやすみなさい、マコトさん」

「おやすみ」


 リーネが去ったあと、マコトは再び考えた。


(……俺、このまま強くなっていいのかな)


 だが。

 確実に。

 物語は、次の段階へ踏み出していた。

 ――「外れスキル」の噂は、この日を境に。

 完全に、ひっくり返った。





 翌朝。

 ギルドの掲示板に、新しい噂が貼られていた。


「魔獣使い、詠唱短縮を習得」

「Bランク上位魔獣を一撃で撃破」


 マコトは、その噂を見て固まった。


「……嘘だろ」

「本当にゃ」


 ミルファが、得意げに言った。


「マコトは、もう強いにゃ」

「……そんなはずは」

「ぶもー」


 プーコも、誇らしげに鼻を鳴らす。


「ぶも」

(俺の主は強い)

「お前が言うと、なんか嘘くさい……」


 ベルゼビュートが、腕を組んで言った。


「マコト。お前は、もう弱くない」

「……でも」

「認めろ」


 彼女は、真剣な目で言った。


「お前は、強くなった」


 その言葉に、マコトは何も言えなくなった。


(……俺、強くなったのかな)


 でも、まだ――

 自覚がない。

 それが、マコトらしさでもあった。

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