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神様、魅了の対象そこじゃないです 〜魅了スキルをもらったのに、対象が動物と魔物だけでした〜  作者: たかつど
第1章「星空の死と、外れチート」

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37話:心を読む意味

 その日、マコトは――あえて、心を読まなかった。


「……?」


 ベルゼビュートが、ちらりとこちらを見る。


「今日は、静かね」

「うん」


 マコトは頷いた。


「ちょっと、考えてて」


 王都の外れ。風の通る丘の上。

 プーコは草の上で転がり、リーネは少し離れた場所で氷の彫刻を作っている。


 平和。


 なのに、頭の中は整理がつかない。


「心を読む力ってさ」


 マコトは、独り言みたいに言った。


「便利だけど……ズルでもあるよな」

「ズル?」


 ベルゼビュートが、片眉を上げる。


「だって、相手が言葉にする前に、全部分かっちゃう」

「それが嫌?」

「……嫌というか」


 マコトは、空を見る。


「言ってもらう前に理解した気になって、本当は聞いてないこと、あると思う」


 ベルゼビュートは、黙ったままマコトを見る。


「昨日さ」


 マコトは続ける。


「プーコが転んだとき、心読で痛くないって分かった」

「でも」

「それでも、ちゃんと声をかけた」


 プーコが、誇らしげに鳴く。


(いい飼い主!)

「飼い主じゃない、仲間だ」

(細かい)


 ベルゼビュートが、小さく息を吐いた。


「私は、心を読まれるのが嫌い」

「知ってる」

「なのに、あなたは読まない」

「うん」


 マコトは、照れくさそうに笑う。


「話してくれるの、待ちたいから」


 沈黙。

 風が、黒髪を揺らす。


「……変ね」


 ベルゼビュートが呟く。


「世界は、私を理解したつもりで壊そうとする」

「でも、理解しようとするあなたは、壊さない」


 マコトは、少し考えてから言った。


「読む力って、答えを盗むためのものじゃないと思う」

「じゃあ?」

「近づくための勇気」


 その言葉に、ベルゼビュートの表情が少しだけ柔らかくなった。


「……勇気?」

「ああ。心を読めるから、相手が怖がってないか、確認できる」


 マコトは、自分の手を見た。


「でも、それだけじゃダメなんだ」

「何が?」

「相手が本当に話したいことは、心の奥にある」


 ベルゼビュートは、じっとマコトを見つめた。


「……あなた、いつからそんなことを考えるようになったの?」

「え?」

「最初に会った時、あなたはもっと……頼りなかった」

「今も頼りないですけど」

「でも、変わった」


 ベルゼビュートは、少しだけ笑った。


「少しだけ、強くなった」


 リーネが、遠くから声をかけてくる。


「マコトさーん、できました!」


 振り向くと、氷で作られたプーコ像。妙にデフォルメされている。

(……私、あんな丸い?)

「可愛いからです!」


 プーコが像と見比べて鼻を鳴らす。


(盛られてる)

「でも、可愛いじゃん」

(可愛いは違う)


 ベルゼビュートが、くすっと笑った。


「……あなたたち、本当に仲がいいのね」

「まあね」


 マコトは、プーコの背を撫でた。


「こいつらがいなかったら、俺は今頃……」

「今頃?」

「多分、独りで死んでた」


 その言葉に、ベルゼビュートの表情が少しだけ曇った。


「……独り」

「ベルゼビュートも、独りだったんだろ?」


 彼女は、何も言わなかった。


「話してくれないなら、無理に聞かない」


 マコトは、優しく言った。


「でも、いつか話したくなったら、聞くから」


 ベルゼビュートは、長い沈黙のあと、小さく呟いた。


「……私は、生まれた時から独りだった」

「え?」

魔王竜ダークロードヴイーヴルは、一代に一匹しか生まれない」


 彼女は、空を見上げた。


「家族も、仲間も、いない。ただ、世界の均衡を保つために存在する」

「それって……」

「孤独よ」


 ベルゼビュートは、小さく笑った。


「何千年も、独りで世界を見てきた」

「……辛かったんだな」

「辛い?」


 彼女は、首を傾げた。


「わからない。ずっと独りだったから、比較できない」

 その言葉が、胸に刺さった。


「でも……」


 ベルゼビュートは、マコトを見た。


「あなたたちを見てると、少しだけわかる」

「何が?」

「独りじゃない、っていうのが、どういうことか」


 その瞬間、モフが突然ベルゼビュートの膝に飛び乗った。


「もふ!」

「え……」


 ベルゼビュートは、驚いたようにモフを見た。


(寂しいなら、一緒にいる)


 心読で、モフの気持ちが伝わってきた。


「モフ……」


 ベルゼビュートは、恐る恐るモフを撫でた。


「……温かい」

「ぶもー」


 プーコも、ベルゼビュートの隣に座った。


(お前も、もう独りじゃない)


 ベルゼビュートの目が、少しだけ潤んだ。


「……あなたたち」


 リーネが、笑顔で近づいてきた。


「ベルゼビュートさん、私たち、もう仲間ですよ」

「仲間……」

「はい。だから、もう独りじゃありません」


 ベルゼビュートは、しばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。


「……ありがとう」


 その言葉は、とても小さくて、とても温かかった。

 マコトは、確信した。


 この力は、全てを知るためにあるんじゃない。

 知らないままで、一緒にいられるための力なんだ。


 それが――心を読む意味。


「ねえ、ベルゼビュート」

「何?」

「お前の過去、もっと聞かせてくれよ」

「……いいの?」

「ああ。心読じゃなくて、お前の口から聞きたい」


 ベルゼビュートは、少し驚いたようにマコトを見た。


「……本当に、変わってるわね」

「よく言われる」

「でも……」


 彼女は、優しく笑った。


「嫌いじゃないわ、その変わり方」


 風が、丘を吹き抜ける。

 空は青く、雲は白い。

 世界は、まだ危ない。


 でも、今この瞬間は――

 誰もが、笑っていた。


「じゃあ、ちょっと話すわ」


 ベルゼビュートは、ゆっくりと話し始めた。


「私が生まれたのは、千年以上前」


 マコトは、心読を使わずに、ただ聞こうと思った。

 彼女の言葉を、一つ一つ。

 それが、本当の意味で相手を理解することなんだと。

 そう思えた、穏やかな午後だった。


「ぶもぉ……」


 プーコが、眠そうに鳴く。


「もふぅ……」


 モフも、ベルゼビュートの膝の上で眠り始めた。


「あら……」


 ベルゼビュートは、困ったように笑った。


「動けないわね」

「いいじゃん。たまには、ゆっくりしようぜ」

「……そうね、じゃあ話しは別の日で」


 彼女は、小さく頷いた。


「たまには、いいかもしれない」


 リーネが、俺の隣に座った。


「マコトさん、今日はとても優しいですね」

「いつも優しいだろ」

「いえ、今日は特に」


 彼女は、微笑んだ。


「ベルゼビュートさんにも、ちゃんと向き合ってる」

「……まあ、仲間だしな」

「そうですね。仲間です」


 空が、少しずつオレンジ色に染まり始めた。

 夕暮れが近づいている。


 でも、誰も動こうとしない。

 ただ、この時間を大切にしたかった。

 心を読む力は、便利だ。


 でも、それ以上に大切なのは――

 相手の言葉を、ちゃんと聞くこと。

 それが、本当の意味で心を繋ぐことなんだ。

 そう思えた、静かな夕暮れだった。

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