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神様、魅了の対象そこじゃないです 〜魅了スキルをもらったのに、対象が動物と魔物だけでした〜  作者: たかつど
第1章「星空の死と、外れチート」

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35話:ベルゼビュート

 夜明け前、マコトたちは宿を出た。


「本当に行くんですか……」


 リーネの声が、不安に震えている。


「ああ。呼ばれてる」


 マコトは、遠くの山脈を見た。赤い光が、消えかかろうとしている。


「ぶもぉ……」


 プーコも、珍しく緊張している。


(もふぅ……怖い……)


 モフは、マコトの首にしがみついたまま離れない。


「大丈夫だ。みんな一緒だから」


 アイシアが、先頭を歩く。


「急ぐぞ。魔王の気配が、強くなっている」


 道中、街の人々は皆、家に閉じこもっていた。

 魔王復活の噂は、既に広まっている。


「マコトさん……」

「大丈夫。俺たちなら、きっと」


 山脈に近づくにつれ、空気が重くなる。

 魔力が、肌を刺すように濃い。


「……ここだ」


 アイシアが、立ち止まった。

 目の前には、禁域の山脈。


 そして――


 空が、割れた。


 王都から遠く離れた山脈――人の寄りつかない禁域の上空で、黒い亀裂が走る。


「……来る」


 アイシアの声が低くなる。


 次の瞬間、重力そのものが歪んだ。

 魔力の奔流。大地が悲鳴を上げ、山が沈む。


 そこに"それ"はいた。


 巨大な影。輪郭すら曖昧なほどの圧倒的存在。


 そして――ゆっくりと、姿が変わる。


 闇が収束し、一人の女の形を取った。

 黒髪が、風もないのに揺れる。赤い眼が、世界を睥睨する。

 妖艶。それでいて、どこか虚ろ。


「……ふう」


 彼女は小さく息を吐いた。


「やっと、起きられた」


 その声だけで、魔獣たちが一斉に伏せる。

 プーコも、俺の後ろで震えている。


(これは……無理だ)

「もふぅ……」


 モフは、俺の首に完全に隠れた。


「……魔王竜ダークロードヴイーヴル


 アイシアが、はっきりと告げる。


「ベルゼビュート」


 その名を呼ばれても、彼女は気にも留めない。

 視線は――マコトに向けられていた。


「……あなた」


 一歩、近づく。足音すら、世界に重い。


「どうして、そんな目で見るの?」

「……どんな目?」

「恐れてない目」


 赤眼が、細められる。

 心読が、反応しない。代わりに、胸に直接流れ込む感情。


 ――孤独。

 ――退屈。

 ――終わらない役割。


「……大変そうだな」


 マコトは、ぽつりと言った。

 空気が凍る。


「マコトさん!?」


 リーネが息を呑む。


「大変?」


 ベルゼビュートが、ゆっくり笑う。


「私が?」

「うん」


 マコトは視線を逸らさない。


「世界を壊す役目とか、一人で背負うもんじゃない」


 赤眼が、揺れた。


「……馬鹿ね」


 彼女は、少しだけ視線を落とす。


「そんなこと、言われたことない」


 ベルゼビュートは、マコトの周囲を歩く。まるで、値踏みするように。


「力は弱い。知識も浅い。なのに……」


 ぴたりと止まる。


「どうして、私を拒絶しないの?」

「拒絶されるの、慣れてるから」


 自嘲気味に笑う。


「だから、独りっぽいのは分かる」


 沈黙。


 そして――


「……面白い」


 ベルゼビュートは、はっきりと笑った。


「いいわ」


 赤眼が、マコトを見る。


「あなたの側にいる」

「なっ……!?」

「誤解しないで」


 ベルゼビュートは肩をすくめる。


「従うわけじゃない。壊すかどうかを、決めるためよ」


 視線が、再びマコトへ戻る。


「あなたが、この世界をどう扱うのか」


 一歩近づき、囁く。


「――見届ける」


 プーコが、小さく鳴いた。


(修羅場の気配)

「ちょ、ちょっと待って!」


 リーネが、俺とベルゼビュートの間に割って入った。


「あなた、マコトさんに何をする気ですか!?」

「何もしないわ」


 ベルゼビュートは、冷たく微笑む。


「ただ、観察するだけ」

「観察って……」

「この世界が、壊すべきかどうか。彼の行動で、判断する」


 その言葉に、リーネの顔が青ざめた。


「そんな……」

「マコトさん、逃げましょう!」

「……無理だろ」


 俺は、冷静に言った。


「この人、本気出したら世界ごと追いかけてきそうだ」

「あら、よくわかってるじゃない」


 ベルゼビュートが、楽しそうに笑う。


「気に入ったわ。あなた、面白い」

「面白いって……」

「だって、普通の人間なら、今頃命乞いしてるか、英雄ぶって戦おうとしてるもの」


 彼女は、俺の顔を覗き込んだ。


「でも、あなたは違う。ただ、私を理解しようとしている」

「……そんなつもりは」

「嘘つき」


 ベルゼビュートの指が、俺の頬に触れた。

 冷たい。でも、不思議と痛くない。


「あなたの心読、私にも効いてるのよ」

「え……」

「だから、わかる。あなたは、私の孤独を感じてる」


 その言葉に、俺は何も言えなくなった。

 確かに、感じている。

 彼女の中にある、途方もない孤独を。


「アイシア」


 ベルゼビュートが、アイシアを見た。


「久しぶりね」

「……ああ」


 アイシアは、警戒を解かない。


「お前は、まだ人類を滅ぼす気か?」

「さあ?」


 ベルゼビュートは、肩をすくめる。


「それは、これから決める」

「何が基準だ」

「彼次第」


 ベルゼビュートは、再び俺を見た。


「あなたが、世界をどう扱うか。それで、私の判断が変わる」

「……重すぎるだろ、その責任」

「でも、あなたなら耐えられる」


 彼女は、微笑んだ。


「だって、あなたは魔獣の王でしょう?」


 その言葉に、胸が締め付けられた。


「俺は……」

「違うって言う?」

「……わからない」


 正直に答えた。


「でも、俺は世界を壊したくない」

「じゃあ、守れる?」

「……わからない。でも、やってみる」


 ベルゼビュートは、しばらく俺を見つめてから、ふっと笑った。


「いいわ。あなた、本当に面白い」


 彼女は、人間大の姿に完全に変わった。

 黒いドレスのような服装。長い黒髪。そして、赤い瞳。


「これから、あなたの旅に同行するわ」

「え……」

「嫌とは言わせない」


 ベルゼビュートは、俺の肩に手を置いた。


「安心して。すぐには壊さないから」

「すぐには、って……」

「もふっ!」


 モフが、突然ベルゼビュートに向かって鳴いた。


(マコトを困らせるな!)


 ベルゼビュートは、モフを見て目を丸くした。


「……この子、可愛い」

「え?」

「触ってもいい?」

「……は?」


 世界最強の魔王が、今、モフを触っていいか聞いた。


「ダメ?」

「いや……ダメじゃないけど……」

「じゃあ、触る」


 ベルゼビュートが、モフに手を伸ばした。


「もふぅ……」


 モフは、最初怯えていたが、ベルゼビュートの手に触れられると、不思議そうに首を傾げた。


「……温かい」


 ベルゼビュートが、小さく呟いた。


「久しぶり……こういう感触」


 彼女の表情が、一瞬だけ柔らかくなった。


「あなたたち、いつもこんな温かさの中にいるの?」

「……まあ、そうかな」

「羨ましい」


 その言葉に、胸がチクリと痛んだ。


「ねえ、魔王……じゃなくて、ベルゼビュート」

「何?」

「お前も、一緒にいたいのか?」


 ベルゼビュートは、少しだけ驚いた顔をした。


「……何を言ってるの?」

「いや、だって……」


 俺は、正直に言った。


「お前、寂しそうだから」


 赤い瞳が、大きく揺れた。


 そして――彼女は、小さく笑った。


「……馬鹿ね。本当に、馬鹿」

「よく言われる」

「でも……」


 ベルゼビュートは、空を見上げた。


「悪くないかもしれない。少しだけ、あなたたちの温かさを見てみるのも」


 こうして。

 世界最強格の魔王は、敵でも味方でもない立場で、マコトの前に立った。

 戦いではなく、心で試される関係として。

 物語は、さらに深い領域へ踏み込んでいく。


「ぶもぉ……」


 プーコが、疲れたように鳴いた。


(これ、絶対面倒なことになる)

「……同感だ」


 リーネは、複雑な表情で俺を見ていた。


「マコトさん……大丈夫ですか?」

「……わからない。でも、やるしかない」

「はぁ……」


 アイシアが、深くため息をついた。


「やれやれ。こんな展開、誰が予想した」


 空は、まだ暗かった。

 でも、少しだけ――光が見え始めていた。

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