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神様、魅了の対象そこじゃないです〜魅了スキルをもらったのに、対象が動物と魔物だけでした〜  作者: たかつど
第1章「星空の死と、外れチート」

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33話:心で繋がる力

 戦いの翌日。


 王都の外れにある簡易治療所は、珍しく人間以外で溢れていた。


「……なんで俺が受付みたいなことしてるんだ?」


 目の前には、片耳の欠けた狼魔獣。尻尾に包帯を巻かれた小型リザード。どこか気まずそうな熊型魔獣。

 全員、昨日の戦場にいた者たちだ。


(人気者だな)

「お前は黙って撫でられてろ」


 プーコは、なぜか子魔獣たちに囲まれている。完全にモフモフ島ができていた。


(これは仕事だ)

「仕事って、撫でられるのが?」

(重要任務だぞ)


 子魔獣たちが、プーコの背中に乗って遊んでいる。プーコは嫌がる素振りも見せず、どっしりと構えていた。


「もふ……」


 モフも、俺の肩の上から治療所を見渡している。


「モフ、お前も行くか?」

(もふぅ……怖い……)


 心読で、モフの気持ちが伝わってくる。


「大丈夫。みんな優しいから」

「……もふ」


 モフは、俺の首にしがみついたまま離れない。


「マコトさん、これ終わったら次どうします?」


 リーネが、氷で冷やした湿布を渡してくる。


「……正直、わからない」


 俺は正直に答えた。


「俺の力、使い方間違えたら危ない」


 昨日も、少し気を抜けば全部聞こえて壊れそうだった。

 リーネは少し考えてから言った。


「じゃあ、聞くんじゃなくて、寄り添うのはどうですか?」

「寄り添う?」

「全部理解しようとしなくていい。ただ、隣にいるだけ」


 その言葉が、胸に落ちた。


「……そっか」

「うん。マコトさんは、いつも一生懸命すぎるから」


 リーネが優しく微笑む。


「もっと、力を抜いていいんですよ」


 そのとき。

 治療所の奥から、小さな鳴き声が聞こえた。


「……きゅぅ」


 そこにいたのは、まだ子供の魔獣だった。

 小さな、猫に似た姿。だが尻尾は三本に分かれている。

 震えている。怖がっている。


(捨てられる……?)


 微心読が、か細く伝わってくる。

 俺は、しゃがんだ。


「大丈夫。誰も追い出さない」


 手を伸ばすが、触れない。距離を保ったまま。

 子魔獣は、じっとこちらを見ている。


「……怖いよな。知らない場所、知らない人間」


 ゆっくりと、言葉を選ぶ。


「でも、ここは安全だ。約束する」


 しばらくして。

 小さな魔獣が、自分から一歩近づいた。


「……あ」


 触れた瞬間、言葉じゃないものが流れ込む。

 安心。ぬくもり。生きてていい、という感覚。


「……よかった」


 子魔獣が、俺の手に頭を擦り付けてきた。


(ありがとう)


 その様子を見ていたリーネが、目を潤ませていた。


「マコトさん……」

「ん?」

「すごく、優しい顔してる」

「……そうか?」


 アイシアが、静かに言った。


「理解したか」

「……うん」


 俺は、ようやく分かった。

 俺の力は、心を読むためじゃない。心と心を、繋ぐためのものだ。


「……なんか、世界を壊す力って聞いてたけどさ」

「ぶも?」

「案外、地味だよな」


 プーコが、誇らしげに鼻を鳴らす。


(地味でいいだろ)

「ああ、地味でいい」


 治療所には、穏やかな空気が流れていた。

 昨日まで、敵だった存在たち。でも今は、同じ空間で、同じ空気を吸っている。


 その光景を見て、俺は確信した。


 この力は――壊すためのものじゃない。繋ぐための希望だ。



 夕方近く、治療所の仕事が一段落した。


「お疲れ様です、マコトさん」


 リーネが、温かいお茶を淹れてくれる。


「ありがとう」


 外では、プーコが子魔獣たちと遊んでいる。


「ぶもー!」

「きゅー!」

「わぅ!」


 賑やかな声が響く。


「……いい光景だな」


 アイシアが、俺の隣に座った。


「マコト。お前の力は、まだ完全には開花していない」

「え?」

「今日、お前が子魔獣に触れた時、何を感じた?」

「……安心、かな」

「そうだ。それが、お前の本質だ」


 アイシアは、空を見上げる。


「魔獣狂化を解く力も、戦場で魔獣を止める力も、全て共感から生まれている」

「共感……」

「お前は、相手の心を理解しようとする。そして、寄り添う。それが、お前の魅了の真の姿だ」


 その言葉に、胸が温かくなった。


「じゃあ、俺の力は……」

「壊すためではなく、繋ぐため」


 アイシアが、珍しく優しい目で俺を見た。


「だから、恐れるな」

「……ありがとう」


 モフが、俺の膝の上に飛び乗ってきた。


「もふ!」

「どうした?」

(もふもふ……お腹空いた……)

「またか」


 リーネが笑う。


「モフちゃん、さっきおやつ食べたばっかりじゃないですか」

(別腹)

「別腹って概念、お前にもあるのか……」


 その時、治療所の扉が開いた。

 入ってきたのは、王国の魔術師団長だった。


「魔獣使い殿。お疲れのところ申し訳ない」

「いえ、どうしました?」

「実は、相談がありまして……」


 団長は、真剣な顔で言った。


「邪教団が、次の大規模な魔獣狂化を企てているという情報が入りました」

「……!」

「あなたの力が、必要です」


 俺は、リーネとアイシアを見た。

 二人とも、頷いている。


「……わかりました。協力します」

「ありがとうございます」


 団長が頭を下げる。


「ただし、条件があります」

「条件?」

「魔獣たちを、殺さないでください」


 団長は、少し驚いた顔をした。


「……それは、可能な限り、ということですか?」

「いえ。絶対に、です」


 俺は、真剣に言った。


「彼らは、被害者です。操られているだけ。だから、救います」


 しばらくの沈黙のあと、団長は深く頭を下げた。


「……わかりました。全力で協力します」


 団長が去ったあと、リーネが俺の手を握った。


「マコトさん……かっこよかった」

「え……」

「マコトさんは、本当に優しいね」

「……そうか?」

「うん。だから、私、マコトさん――」


 リーネの言葉が、途中で途切れた。


「……もっと私に頼って」

「え……」


 顔が、真っ赤になる。


「い、いや、その……」

「ぶもー」


 プーコが、ニヤニヤしながら近づいてくる。


(お前もやるじゃん)

「お前は黙ってろ!」


 アイシアが、呆れたように笑った。


「……やれやれ。世界を救う前に、恋愛沙汰か」

「違う! これは……仲間として意味で!」

「もふ?」


 モフが、不思議そうに首を傾げている。

 夕焼けが、治療所を染める。

 明日からまた、大変な戦いが待っている。


 でも、今日は確かに、何かが変わった。

 俺の力は、壊すためじゃない。

 繋ぐための、希望の力だ。


 そして――

 大切な人がいる。

 それだけで、前に進める。

 そう思えた、優しい夕暮れだった。

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