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3話:スキル授与と設定ミス

 目を覚ますと、まだ白い空間だった。


「……デジャヴ?」

「失礼だね。ここは仮設待機所だよ」


 昨日――いや、時間の感覚はよく分からないが――見た白いモヤが、今日もふよふよ浮いていた。


「お前さん、起きるの早いね」

「早いって……どれくらい寝てたんですか?」

「知らない。時間の概念、ここにはないから」


 相変わらず適当な神様だった。


「さて」


 モヤは、やけに事務的な声を出す。


「今日は説明と調整の日だ」

「調整?」

「そう。魂の行き先を決める前に、最低限の補強をする」


 補強、という言葉に嫌な予感がした。


「えっと……それって、痛かったりします?」

「しないしない。ただし、人生は多少変わる」

「それ、結構重要じゃないですか」


 モヤは無視した。


「お前さんの魂、このままだと持たない」

「持たないって……」

「だから、別の世界で生きることを提案したい」

「別の世界……」

「異世界。ファンタジーな世界。魔法とか魔物とかいるやつ」


 その言葉に、俺の心臓が跳ねた。


「異世界……転生、ってやつですか?」

「そう。お前さん、そういうの好きでしょ?」

「なんで知ってるんですか」

「だって、記憶ちょっと覗いたもん。休憩時間にスマホで異世界小説読んでたじゃん」

「うわああ、見ないでくださいよ!」

「いやいや、趣味を恥じることはないって」


 モヤはケラケラ笑った。


「で、どう? 行く?」

「え……いいんですか?」

「いいよ。というか、元の世界に戻しても多分また同じことになる」


 その言葉は、残酷なほど正しかった。


「……行きます」

「即決だね。よし、じゃあ準備しよう」


 モヤがパチンと指を鳴らすと――指はないはずなのに――白い空間に文字のようなものが浮かんだ。


「まず一つ目」

「魅了」

「……え?」

「人から好かれやすくなる。敵意を持たれにくい。第一印象が良くなる」

「いや、それ俺に必要ですか?」

「必要だよ。お前さん、人間関係で削れすぎ」


 ぐうの音も出なかった。


「これがあれば、異世界でモテモテだよ」

「モテモテ……」


 確かに、人生で一度もモテたことがなかった。


「次」


 文字が切り替わる。


「微心読」

「び、しんどく?」

「微妙に心が読める。考えてることが、うっすら分かる程度」

「怖くないですか、それ」

「安心しな。本音が丸聞こえになるほど強くない」


 それはそれで、逆に扱いづらそうだった。


「触れた相手の表層感情が、ちょっとだけわかる。便利でしょ?」

「まあ……便利かもしれませんけど」

「コミュ障のお前さんには必須だよ」

「コミュ障って……否定はしませんけど」

「素直でよろしい」


 モヤは満足そうに揺れた。


「最後」


 文字が再び切り替わる。

 モヤは、少しだけ得意げになった。


「魔法適性」

「……魔法!」

「そう。魔力を扱える素質。才能は高めに設定しておいた」

「高めって……どれくらいですか?」

「全属性使えるレベル」

「すごい!」

「でしょでしょ。これは私も自信作」


 モヤは胸を張った――胸はないはずなのに。


「火、水、風、土、光、闇。全部使えるようになるよ。まあ、最初は練習が必要だけどね」

「それでも十分すぎます!」

「三点セットだ。バランスもいい」


 モヤは満足そうに頷いた――ような気配を出した。


「よし、じゃあ反映――」


 そこで、ピタリと動きが止まる。


「……ん?」

「どうしました?」

「いや」


 白いモヤが、妙に静かになる。


「おかしいな」

「え、何がですか」

「数値がおかしい」


 嫌な沈黙が落ちた。


「魅了が……高すぎる」

「高すぎる?」

「いや、これ……設定値の三倍になってる」

「三倍!?」

「心読と魔法適性も、想定より跳ねてる」


 モヤは、慌てたように白い空間を操作し始める。

 見えない何かを、ばたばたといじっている感じだ。


「ちょ、ちょっと待って」

「何が起きてるんですか」

「設定スキル……」


 一拍。


「あれ?」


 モヤが言った。


「設定スキル、間違えたかも?」

「かも!? 今『かも』って言いました!?」

「いや、ほら。似た名前の魂がいてさ」

「似た名前?」

「生まれ変わり予定リスト、二人分まとめて開いちゃった」

「それ、致命的じゃないですか!?」


 モヤは気まずそうに漂う。


「高橋誠と、高橋真琴……あー、似てるわ」

「似てないでしょ!?」

「漢字が違うだけじゃん」

「それ、全然違いますから!」

「まあ……大丈夫だと思う」

「思う!?」

「ちょっと強めだけど、死にはしない」

「基準そこですか!?」


 白い空間が、再び揺れ始めた。


「修正、今からだと間に合わないなぁ」

「間に合わないって……」

「転送プログラム、もう起動しちゃってる」

「起動って!?」


 光が、足元から立ち上る。


「行き先で微調整しよう」

「行き先!?」

「大丈夫大丈夫」


 モヤは、やけに軽い。


「想定外は、だいたい面白くなる」

「それ、絶対に神側の感想じゃないですか!?」

「じゃ、健闘を祈る」

「ちょっと! 説明が――」


 言い終わる前に、視界が真っ白に弾けた。

 俺の体が光に包まれる。

 眩しい。温かい。そして――軽い。

 体が、浮いている。


「ああ、そうだ」


 遠くから、モヤの声が聞こえた。


「魔法適性は完璧だから! それは間違いないから!」

「それだけ!?」

「あと若返りと言語翻訳も完璧!」

「他は!?」

「た、多分大丈夫! きっと! 恐らく!」

「全然大丈夫じゃない!?」

「ごめんなさああああい!」


 モヤの悲鳴が、どんどん遠くなる。

 俺の意識は、光の中へと引きずり込まれていく。

 最後に思ったのは。


(……これ、本当に大丈夫なのか?)


 という、とても不安な予感だった。


 そして――

 俺の意識は、完全に途切れた。

 次に目を覚ましたとき、俺は異世界にいた。


 ――どうやら、俺の次の人生は。

 最初から、設定ミス付きらしい。

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