表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/39

21話:監視の目

 ギルドに戻ってから、視線を感じるようになった。

 それも一つや二つじゃない。


「……見られてる」


 ロビーの隅。

 酒場。

 掲示板の前。

 どこにいても、誰かが俺たちを見ている。

 モフが、俺の肩で小さく震えた。


(こわい……)

「大丈夫、モフ」

「マコトさん、気づいてますよね」


 リーネが、小声で言った。


「……うん」


 プーコも落ち着かない。


「ブモ……」

(いやなかんじ)


 ポチも、警戒している。


(なにか、おかしい)


 チビも、不安そうだ。


(まこと、だいじょうぶ?)

「大丈夫じゃない……」


 その日の朝、ギルドマスター直々に呼び出しがあった。


「君たちの行動は、現在――記録されている」


 老齢の男は、重く言った。


古代竜(ドラゴンレコード)の噂が出た以上、魔獣と心を通わせる君の存在は、無視できない」

「……監視、ですか」

「そうだ」


 否定はなかった。


「マコト。君はまだ自覚していない」


 ギルドマスターは、俺の目を見た。


「君は、均衡を壊しかねない力を持っている」


 胸が、冷える。


「……そんなつもりは」

「分かっている。だが、力は意思とは別に影響する」


 モフが、小さく鳴いた。


(まこと、わるくない)

「ありがとう、モフ……」


 その帰り道。


「おい」


 あの剣士が、待っていた。

 今度は、一人じゃない。三人。


「……何ですか」

「別に」


 男は、肩をすくめた。


「調査だよ。お前が、どこまで"使える"か」


 リーネが、一歩前に出る。


「マコトさんは、実験台じゃありません」

「ははっ。じゃあ証明してみろよ」


 男たちは、笑いながら去っていった。


 その夜。

 異常事態が起きた。

 ギルド近郊の森で、魔獣の暴走が確認された。


「……まさか」


 嫌な予感が、当たる。

 現場に向かうと、明らかに不自然だった。

 魔獣たちが、特定の方向へ追い込まれている。


(……誘導?)

「マコトさん、罠です」

「分かってる……でも」


 暴走している魔獣たちが、苦しそうに鳴いていた。


(たすけて)

(いたい)

(こわい)


 微心読が、頭に流れ込む。


「……俺が止める」

「マコトさん!」


 リーネの制止を振り切り、俺は前に出た。

 魅了が、発動する。

 魔獣たちが、次々と止まる。


(やさしい……)

(あんしん……)


 ――その瞬間。


「今だ!」


 声。

 敵対冒険者たちが、一斉に飛び出した。


「マコトさん、後ろ!」


 遅かった。

 剣が、俺に向かって振り下ろされる。


「ブモォォォ!!」


 プーコが、体当たりで弾き飛ばす。


「ワン!」

 ポチも、男に噛み付く。

(まこと、まもる!)


 だが――

 魅了が解けた魔獣の一体が、暴走したまま、逃げ出した。


「しまっ……!」


 その魔獣は、村の方向へ走っていく。

 追えない。

 俺は、足が動かなかった。

 モフが、叫んだ。


(まこと!おいかけて!)

「で、でも……」

(いかないと!)


 リーネが、俺の手を引いた。


「マコトさん、行きましょう!」

「は、はい!」


 でも――

 遅かった。


 結果。

 小さな村が、半壊した。

 死者はいなかったが、怪我人が出た。

 ギルドは、騒然となった。


「魔獣使いが暴走させた!」

「止めたんじゃないのか!?」

「結局、制御できてないじゃないか!」


 俺は、何も言えなかった。

 言い訳は、できる。

 罠だった。

 敵対冒険者の仕業だ。


 でも。

 ――判断を誤ったのは、俺だ。

 ギルドマスターは、厳しく言った。


「マコト。今回の被害は、君の責任でもある」


 胸が、重く沈む。


「……はい」


 リーネは、何も言わなかった。

 ただ、俺から少しだけ、距離を取った。

 それが、何より痛かった。

 モフが、俺の肩で小さく鳴いた。


(まこと、わるくない)

「でも、俺が……」

(まこと、わるくない)

「モフ……」


 プーコも、俺の足元に座った。

(まこと、まもった)


 ポチも、尻尾を下げている。

(まこと、がんばった)


 チビも、俺に寄り添ってくる。

(まこと、やさしい)


 でも――

 猫は、珍しく俺を見ていた。

(まこと、つよくなって)


 山羊も、草を食べるのをやめていた。

(めぇ……)


 監視の目は、さらに増えた。


 古代竜の噂は、もはや噂ではなくなりつつある。

 そして俺は、初めてはっきりと理解した。


 ――優しさだけでは、足りない。


 この力は、選択を間違えれば、確実に誰かを傷つける。

 その重さを、俺はようやく、背負い始めていた。

 リーネとの距離も、少しだけ遠くなった。

 それが、何より辛かった。


 でも――

 引き返せない。

 もう、取り返しのつかない一歩手前まで来ている。

 そんな予感がした。



気分転換に他の小説も読んで見てください。


ギャグ

●異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜

https://ncode.syosetu.com/n0668lg/


ホッコリファンタジー

●黒猫フィガロと、願いの図書館 〜涙と魔法に満ちた旅の記録〜

https://ncode.syosetu.com/n5860kt/


ホラー

●私を処刑した王子へ 〜死んだ公爵令嬢は呪いとなり、王国を沈める〜

https://ncode.syosetu.com/n3858lk/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ