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19話:Dランク昇格

「――マコト・リーネ・プーコ。前へ」


 ギルドのカウンター前で、俺は背筋を伸ばして立っていた。

 ……正直、落ち着かない。

 モフが、俺の肩で首を傾げた。


(まこと、きんちょう)

「わかるか?」

(わかる)

「そりゃそうだな……」

「今回の連続任務達成、および討伐速度と連携評価を鑑み――」


 受付嬢が、淡々と告げる。


「Dランクへの昇格を認めます」


 周囲が、ざわっとした。


「早くないか?」

「新人だろ?」

「魔獣使いの……」


 俺は、思わず首をかしげた。


「え……? あの、俺、まだ失敗ばっかりで……」

「それを含めての評価です」


 受付嬢は、はっきり言った。


「あなたは、仲間を守る判断を最優先にしています。それは、冒険者として重要な資質です」


 ……守る。

 その言葉に、胸が少し痛くなる。


(俺はただ、怖いだけなのに)

「おめでとうございます、マコトさん」


 リーネが、小さく微笑んだ。

 距離が、前より近い。

 それだけで、心拍数が上がる。


「……ありがとうございます」


 でも。

 胸の奥は、ざわついていた。


(俺がDランク……? 本当に?)


 喜ぶ資格なんて、あるのか。

 プーコが、嬉しそうに鳴いた。


「ブモォ!」

(まこと、すごい!)

「すごくないよ……」


 ポチも尻尾を振っている。

(わんわん!まこと、つよい!)


 チビも、喜んでいる。

(まこと、えらい!)


 猫は、相変わらず寝ている。

(zzz...)


 山羊は、草を食べている。

(めぇ)

「お前ら、相変わらず温度差激しいな……」


 そんな俺の背中に――


「ちっ……」


 露骨な舌打ちが飛んできた。

 振り向くと、腕を組んだ男が立っていた。

 鎧姿。剣士だ。Cランクのバッジをつけている。


「魔獣に頼るだけで昇格かよ」

「……」

「いいご身分だな、外れスキル」


 空気が、一気に冷えた。

 モフが、小さく震えた。


(こわい……)

「大丈夫、モフ」

「やめなさいよ」


 リーネが、きっぱり言う。


「マコトさんは――」

「はっ。氷魔法のお嬢ちゃんが庇うって? やっぱりな」


 男は、俺を見下ろした。


「どうせ、魔獣に魅了かけてるだけだろ?」

「……」


 言い返せない。

 事実、スキルに頼っている。


「人間相手には役立たずの能力で、よく冒険者やれてるな」


 胸が、ぎゅっと締めつけられる。


(……やっぱり、そうだよな)

「それに、女に守られてるし。情けねえ」

「……っ」


 リーネが、顔を赤くした。


「マコトさんは、私を守ってくれてます!」

「はいはい。そう言っとけ」


 男は、嘲笑った。

 そのとき。


「――ブモ、ブモモオォォォ!」


 低い声。

 プーコだった。


「ブモ!」


 俺の前に、どっしり立つ。

 男は、たじろいだ。


「……っ」

「プーコ、いい」


 俺は、そっと止めた。


「……言われても仕方ないです」

「マコトさん!?」

「俺、自信ないし。スキルがなかったら、何もできない」


 だから――


「でも」


 顔を上げる。


「それでも、仲間は守ります」


 男は、鼻で笑った。


「守れるもんならな」


 そう言って、去っていった。

 周囲は、静まり返る。

 ざわざわと噂する声。


「あいつ、マコトに嫉妬してるのか?」

「まあ、新人のくせにDランクだからな」

「でも、あの態度はないだろ……」


「……マコトさん」


 リーネが、心配そうに覗き込む。


「大丈夫です」


 嘘だったけど。


「でも……」


 彼女は、少し迷ってから言った。


「私は、マコトさんがDランクだと思います」

「……」

「いえ。もっと上でも」


 その言葉が、胸に染みた。


「……ありがとうございます」


 少しだけ。

 本当に、少しだけ。

 自分を信じてみようと思えた。

 モフが、俺の肩で鳴いた。


(まこと、がんばった)

「ありがとう、モフ」


 その時、ギルドマスターが現れた。


「高橋マコト」

「は、はい!」

「Dランク昇格、おめでとう」

「ありがとうございます……」

「ただし」


 ギルドマスターは、厳しい顔をした。


「評価が上がれば、妬む者も増える。気をつけろ」

「……はい」

「それと」


 ギルドマスターは、少し笑った。


「お前のスキルは、外れじゃない」

「え……?」

「魔獣を支配せず、信頼で従える。それは、並大抵のことではない」


 ギルドマスターは、俺の肩を叩いた。


「自信を持て」

「……はい」


 でも、自信なんて持てなかった。


 だって、俺は――

 まだ、弱いから。

 評価は上がった。

 噂も変わった。

 同時に、俺を妬む視線も増えた。


 でも。

 隣には、リーネがいる。

 足元には、プーコがいる。

 肩には、モフがいる。

 ポチも、チビも、猫も、山羊も。


 それだけで、前に進む理由としては、十分だった。


「よし、次の依頼行こうか」

「はい!」


 リーネが、笑顔で答えた。

 その笑顔が、少し近くなった気がした。

 距離が、縮まっている。

 それは、嬉しいことだった。


 でも――

 火種も、生まれていた。

 嫉妬。

 妬み。

 敵意。

 それが、俺を取り囲み始めていた。


 だけど、今は――

 前に進むことだけを考えよう。

 俺は、仲間たちと共に、ギルドを後にした。



お口直しに他の小説も読んで見てください。


ギャグ

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