18話:俺TUEEEの兆し
ギルドから正式な依頼書を受け取ったとき、俺の手は、わずかに震えていた。
「依頼内容:森の魔獣三体の討伐。危険度:低。パーティ:新規可」
「……新規可、だって」
俺が呟くと、リーネはにっこり笑った。
「ちょうどいいですね。練習に」
「ブモォ!」
プーコは胸を張る。
……胸、あるのか分からないけど。
モフが、俺の肩で鳴いた。
(まこと、がんばれ)
「ありがとう、モフ」
ポチも尻尾を振っている。
(わんわん!)
チビも、やる気満々だ。
(がんばる!)
猫は、相変わらず寝ている。
(zzz...)
山羊は、草を食べている。
(めぇ)
「お前ら、やっぱり温度差激しいな……」
森に入ると、すぐに魔獣が現れた。
狼型の魔獣が二体、背後から忍び寄ってくる。
「マコトさん、右!」
「プーコ、止めて!」
「ブモォ!」
プーコが地面を踏み鳴らす。
その瞬間、俺の中で何かが噛み合った。
「……今だ。風よ、集まれ」
俺は、魔法を放つ。
【風圧】
突風が、狼型魔獣の動きを止めた。
「出た! 魔法が出た!」
「そのまま凍らせます!」
リーネの【氷結】が、突風の流れに乗って広がる。
――バキン!
魔獣の足元が、一瞬で凍りついた。
「ブモォォォ!」
プーコの体当たり。
凍った魔獣が、まとめて吹き飛ぶ。
「……やった」
俺は、思わず呟いた。
初めてだ。
誰かと息を合わせて、ちゃんと勝てたのは。
モフが、嬉しそうに鳴いた。
(まこと、すごい!)
「えへへ……」
「……すごいです、マコトさん」
リーネが、目を丸くしていた。
「今の、完璧でした」
「え……?」
胸が、じんわり熱くなる。
「俺、今……役に立ちました?」
「当たり前です!」
即答。
プーコも、嬉しそうに鳴く。
「ブモ!」
(まこと、かっこいい!)
「か、かっこよくないよ……」
ポチも吠えた。
(わんわん!まこと、つよい!)
チビも、尻尾を揺らしている。
(まこと、すごかった)
……褒められた。
心の奥で、何かがほどける。
今まで、誰にも褒められたことがなかった。
元の世界でも、異世界でも。
でも、今――
「次、行きましょう!」
「は、はい!」
次の魔獣も、連携は崩れなかった。
俺が魔法で動きを制限し、
リーネが確実に仕留め、
プーコが守る。
完璧じゃない。
でも、前よりずっと、噛み合っていた。
「火よ、出ろ!」
俺の掌から、小さな火球。
狼型魔獣に命中する。
「ギャン!」
「そこです!」
リーネの氷の槍が、魔獣を貫く。
「ブモォ!」
プーコが、最後の一体に突進する。
――ドカァン!
魔獣が吹っ飛ぶ。
「……やった!」
俺たちは、三体の魔獣を倒した。
完璧な連携。
初めての、成功。
「すごいです、マコトさん!」
リーネが、駆け寄ってきた。
「魔法、ちゃんと使えてました!」
「え、ええと……まだ小さいですけど……」
「大丈夫です! これから大きくなります!」
リーネの笑顔が、眩しかった。
依頼完了。
ギルドに戻ると、周囲の視線が少し変わっていた。
「……あのパーティ、ちゃんとやれてるぞ」
「噂ほど変じゃないな」
「っていうか、連携良くない?」
俺は、聞こえないふりをした。
でも、心の中では――
(認められた……?)
少し、嬉しかった。
リーネは、報酬を受け取りながら言った。
「マコトさん、今日の連携、本当に良かったです」
「ありがとうございます……」
「でも」
リーネは、少しだけ視線を落とした。
「……私、前から誤解されやすくて」
「え?」
「冷たい、とか。感情がない、とか」
彼女は、苦笑した。
「本当は、怖いだけなんです。失敗したら、誰かが傷つくのが」
俺は、ゆっくり頷いた。
「……俺も、似たようなもんです」
だから、分かる。
リーネの優しさは、距離を取る形でしか表せないだけだ。
「マコトさん」
彼女が、こちらを見る。
「さっきの指示、すごく頼もしかったです」
「……っ」
心臓が、跳ねた。
「また、お願いしますね」
「は、はい!」
声が裏返った。
プーコが、ニヤニヤしている。
「ブモ」
(まこと、うれしそう)
「うるさいぞプーコ!」
モフも、笑っている。
(まこと、かお、あかい)
「黙れ!」
ポチが、尻尾を振っている。
(まこと、しあわせそう)
「お前もか!」
チビも、にこにこしている。
(まこと、いいひと)
「もう、何も言えない……」
猫が、目を覚ました。
(なに?おわった?)
「お前、最初から最後まで寝てたな!」
山羊は、相変わらず草を食べている。
(めぇ)
「お前も空気読んでないな!」
笑い声が、ギルドに響く。
まだ弱い。
まだ情けない。
でも。
――確かに、俺は今、前に進んでいる。
それが、何より嬉しかった。
その日の夜、俺は宿で一人考えた。
(魔法が、少しずつ使えるようになってきた……)
(リーネと組んで、連携もできた……)
(これって……もしかして……)
俺TUEEE……?
いや、まだ早い。
でも――
確かに、芽は出始めている。
小さな成功。
初めての肯定。
それが、俺を少しずつ強くしていく。
「よし、明日も頑張ろう」
モフが、俺の膝の上で丸くなった。
(まこと、がんばった)
「ありがとう、モフ」
俺の異世界生活は――
少しずつ、確実に、前に進んでいた。




