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17話:初パーティ結成

 ギルド掲示板の前で、俺は硬直していた。


「……またパーティ、一緒にしませんか?」


 リーネのその一言が、頭の中でぐるぐる回っている。

 モフが、俺の肩で首を傾げた。


(まこと、かんがえすぎ)

「考えすぎじゃないよ……」

「い、いえ、その……俺、弱いですし……」

「知ってます」


 即答。

 心に刺さる。


「でも」


 リーネは、プーコの頭を撫でながら続けた。


「マコトさん、逃げませんよね」

「……」


 逃げたい時ほど、逃げない。

 それは、俺自身が一番よく分かっていた。


「……よろしく、お願いします」

「やった!」


 リーネは、嬉しそうに飛び跳ねた。


「じゃあ、改めて自己紹介しますね」

「え、ああ……」

「リーネ・フォレストです。18歳。氷魔法が得意です」


 リーネは、真剣な顔で続けた。


「それと……動物が大好きです」

「……最後のが本音だろ」

「えへへ、バレました?」


 モフが、リーネに近づいた。


(りーね、いいひと)

「ありがとう、モフちゃん」


 こうして、マコト・リーネ・プーコの即席パーティが誕生した。


 ――が。


「右から来ます!」

「え!? 右!?」

「違う、左だ!」

「ブモォ!?」


 ぐちゃぐちゃだった。

 リーネの氷魔法はタイミングがズレ、

 俺の指示は遅れ、

 プーコは張り切りすぎて突っ込みすぎる。


「ちょ、ちょっと待って!」

「待てないです! もう魔獣が!」

「ブモォォォ!」


 プーコが、突進する。

 ――ドカァン!

 魔獣は吹っ飛んだ。

 でも、俺も吹っ飛んだ。


「うわああああ!」


 泥だらけになって、地面に転がる。


「マコトさん!」


 リーネが駆け寄ろうとして――

 つるっ。


「きゃあ!」


 転倒。

 プーコは、なぜか誇らしげ。


「ブモォ!」

(かった!)

「お前だけ無傷かよ!?」


 結果――

 討伐対象の魔獣は倒せたが、

 俺は泥だらけ、

 リーネは転倒、

 プーコはなぜか誇らしげ。


「……最悪です」


 リーネが、ぷいっとそっぽを向いた。


「す、すみません……俺の指示が悪くて……」

「違います!」


 声が強い。


「マコトさんが自分で突っ込むから!」

「だって、危なかったし……」

「守らなくていいんです!」

「でも……!」


 沈黙。

 気まずい空気。

 プーコが、二人の間をうろうろする。


「ブモ……」

(けんか……?)


 モフも心配そうだ。


(まこと、りーね、なかなおり)

「仲直りって……喧嘩してないよ」

「してます!」


 リーネが、きっぱり言った。


「……してる?」

「はい!」


 リーネが、ため息をついた。


「……私、マコトさんが嫌なんじゃありません」

「え?」

「ちゃんと、頼ってほしいだけです」


 俺は、胸がぎゅっとなった。


「……俺、誰かと組んだことなくて」

「知ってます」

「一人で失敗して、一人で責任取るのしか知らなくて……」


 リーネは、少し驚いた顔をして、それから微笑んだ。


「じゃあ、練習しましょう」

「……はい」


 その瞬間。


「おいおい! 見たか!?」

「喧嘩してたぞ!」

「仲直り!? 早くね!?」


 周囲の冒険者たちが、ざわつき始める。


「もうパーティ修羅場かよ!」

「爆速展開じゃねえか!」

「プーコ、証人だろ!」

「ブモォ!」


 完全に、誤解が加速していた。


「ち、違いますから!」


 俺は必死に否定する。

 顔が、熱い。

 耳まで赤い。


「マコトさん、落ち着いて」


 リーネは、なぜか楽しそうだった。


「正式に言いますね」


 彼女は、真っ直ぐ俺を見た。


「マコトさん。私と、正式にパーティを組んでください」

「……っ!」


 心臓が、うるさい。


「よ、よろしくお願いします……!」


 声が裏返った。


「マコト、照れすぎ!」

「顔真っ赤だぞ!」

「初々しすぎだろ!」


 俺は、その場にしゃがみ込んだ。


「……死ぬ……恥ずかしすぎて……」


 プーコが、俺の背中をぽん、と鼻で押す。


「ブモ」

(だいじょうぶ)

「……ありがとう……」


 モフも、俺の肩で鳴いた。


(まこと、がんばった)

「頑張ってないよ……」


 リーネが、笑いながら言った。


「マコトさん、可愛いですね」

「か、可愛いって!?」

「はい、可愛いです」


 即答。

 俺は、完全に顔を赤くした。


「……もう、何も言えない……」


 ポチが、尻尾を振っている。

(まこと、しあわせそう)


 チビも、嬉しそうだ。

(なかま、ふえた)


 猫は、相変わらず寝ている。

(zzz...)


 山羊は、草を食べている。

(めぇ)


「お前ら、温度差激しいな……」


 こうして俺は、初めての仲間と、初めてのパーティを手に入れた。


 弱くて、不器用で、でも、ちゃんと前に進む――

 そんな冒険が、ここから本当に始まった。

 周囲の冒険者たちは、相変わらずざわついている。


「あれ、本当にパーティ組むのか?」

「変な魔獣使いと、天才氷魔法使い……」

「意外な組み合わせだな」

「でも、なんか……いいコンビかもな」


 噂は、また広がっていく。

 でも、今回は少し違う。

 悪い噂じゃなくて――

 ちょっとだけ、温かい噂。


 そして、俺たちは――

 不器用トリオとして、伝説を作り始めていた。

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