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14話:噂が広がる

 噂は、思ったより早く広がった。


「聞いたか? 巨大魔獣を連れて歩く変な冒険者」

「従属契約なしだってよ」

「頭おかしいんじゃね?」


 ――全部、俺のことだった。


「……いや、そこまで言う?」


 ギルドの隅で、俺は小さくなっていた。

 視線が、痛い。

 好奇心。恐怖。嘲笑。

 全部混ざってる。

 モフが、俺の肩で首を傾げた。


(まこと、げんき?)

「元気じゃない……」

(だいじょうぶ)

「お前、楽観的すぎるだろ……」


 足元では、プーコが堂々としていた。


「ブモォ」

「堂々としすぎだろ……」


 ギルド内は、軽くパニックだった。


「魔獣、ギルドに入れていいのか!?」

「建物、壊れない!?」

「牙! 牙しまって!」


 しまえない。

 ポチが、俺の足元で吠えた。


(まこと、まもる!)

「ありがとう、ポチ……」


 チビも、俺の後ろに隠れている。


(こわい……)

「お前も怖がってるのかよ……」


 猫は相変わらず寝ている。

(zzz...)


 山羊は草を探している。

(めぇ)


「お前ら、温度差激しいな……」


 受付カウンターの向こうで、受付嬢さんが青ざめていた。


「……えっと」


 震える声。


「その……こちらの巨大魔獣は……」

「噛みません」

「信じられません!」


 即答だった。


「ですよね」


 俺は、素直に頷いた。


「でも、プーコは大人しいんです」

「プーコ……?」

「あ、仮の名前です。正式には……まだ……」


 プーコが、ゆっくり伏せた。

 床が、ミシッと鳴った。


「ひぃっ!」

「だから重いって!」


 周囲の冒険者たちが、ざわざわと噂している。


「変な魔獣使いだ!」

「支配もできないくせに!」

「どうせすぐ死ぬ!」


 心に、刺さる言葉もあった。

 モフが、心配そうに俺を見た。


(まこと……)

「大丈夫……慣れてるから……」


 でも。

 プーコが、俺の前に出た。


(わるく、いうな)


 空気が、止まる。

 プーコの心の声が、周囲に響いた……気がした。


「……」


 俺は、息を吸った。


「……プーコは、俺の仲間です」


 声は、震えていたけど。


「従属じゃない。道具でもない」

「一緒に、選んで歩いてるだけです」


 静寂。

 しばらくして、受付嬢さんが咳払いをした。


「……えー」


 書類を、取り出す。


「正式な分類が存在しないので……」


 紙に、さらさらと書く。


「《同行魔獣》扱い、ということで」

「え?」

「名前は、登録されますか?」


 俺は、プーコを見る。


「……名前」


(ほしい)

 少し、照れた心。

 俺は、考えた。

 巨大で、強くて、でも寂しがり。


「……プーコ」

「そのままかよ!」


 誰かがツッコんだ。


「いいだろ! 覚えやすいし!」

「適当すぎるだろ!」


 周囲が、笑い出した。


「プーコって……」

「豚じゃん」

「猪だけどな」


 プーコは、嬉しそうに鳴いた。


(ぷーこ!すき!)

「お前、気に入ったのかよ……」


 受付嬢さんが、にっこり笑った。


「では、登録します」


 ――魔獣名:プーコ

 種族:ブラッディボア

 所有者:タカハシ・マコト

 関係:同行魔獣(非支配型)


「正式加入、完了です」

「ありがとうございます!」


 その時、ギルドマスターが現れた。

「騒がしいな」

「あ、ギルドマスター……」

「タカハシマコト、だったな」

「はい……」


 ギルドマスターは、プーコを見た。


「……名前は決めたのか?」

「はい、プーコです」

「プーコ……」


 ギルドマスターは、少し笑った。


「単純だが、覚えやすい。良い名だ」

「ありがとうございます!」

「ただし」


 ギルドマスターは、厳しい顔をした。


「責任は、お前が取れ」

「はい!」

「それと……」


 ギルドマスターは、周囲の冒険者たちを見た。


「この男を、バカにするな」


 周囲が、静まった。

「魔獣を支配せず、信頼で従える。それは、並大抵のことではない」

「え……」

「お前たちには、できるか?」


 誰も、答えなかった。


「……失礼しました」


 ギルドマスターは、去っていった。

 周囲は、まだざわついている。


「やっぱ変だ」

「でも……ギルドマスターが認めたぞ」

「なんか、悪くない?」


 噂は、広がっていく。

 変な魔獣使い。

 バカにされる名前。

 でも。

 プーコは、誇らしげに鳴いた。


「ブモォ!」


 モフも嬉しそうだ。

(まこと、すごい!)


 ポチも尻尾を振っている。

(わんわん!)


 チビも安心したようだ。


(まこと、かっこいい)

「かっこよくないよ……」


 猫が、目を覚ました。


(おわった?)

「お前、最初から最後まで寝てたな!?」

 山羊は、相変わらず草を探している。

(めぇ)

「お前も空気読んでないな!?」


 俺は、苦笑する。


「……まあ、いいか」


 変でもいい。

 弱くてもいい。

 俺には、隣を歩いてくれる仲間がいる。

 それだけで、十分だった。

 その日から、俺の噂はさらに広がった。


「あいつ、プーコって名前つけたらしいぞ」

「適当すぎるだろ」

「でも、ギルドマスターが認めたんだって」

「マジか……」

「変な魔獣使いだけど、悪い奴じゃないのかもな」


 噂は、少しずつ変わっていった。

 バカにされることもあるけど、

 認められることも増えてきた。

 それは、小さな変化だった。


 でも――

 確かな、一歩だった。


「よし、今日も依頼受けるか」

(おー!)

(わんわん!)

(がんばる)

(zzz...)

(めぇ)

(ぶもぉ!)


 賑やかな仲間たちと共に、俺は今日も冒険者として歩き出した。

 弱いけど、誠実に。

 それが、俺のやり方だった。




気分転換に他の小説も読んで見てはいかがでしょうか。


ギャグ

●異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜

https://ncode.syosetu.com/n0668lg/


ホッコリファンタジー

●黒猫フィガロと、願いの図書館 〜涙と魔法に満ちた旅の記録〜

https://ncode.syosetu.com/n5860kt/


コメディー恋愛

●[連載版]悪役令嬢ですが、婚約破棄の原因がトイレ戦争だったので逆に清々しいです

https://ncode.syosetu.com/n2839ll/

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