12話:巨大魔獣・猪型との遭遇
今回の依頼は、簡単なはずだった。
「小型魔獣の討伐……」
掲示板には、そう書いてある。
危険度・低。
数・一体。
報酬・銀貨5枚。
「……よし、これにしよう」
俺は、依頼書を受付に持っていった。
「小型魔獣討伐ですね。場所は森の奥です。気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
モフを肩に乗せ、ポチを連れ、チビを足元に、猫を頭に、山羊を後ろに。
「よし、行くぞ」
(おー!)
(わんわん!)
(がんばる)
(zzz...)
(めぇ)
相変わらずの温度差だ。
森の奥へ進む。
静かだ。
……静かすぎる。
「……なあ」
(なに?)
「静かすぎないか?」
(しずか)
「嫌な予感がする……」
その時だった。
――ドォン!
地面が、揺れた。
「えっ?」
木々が、ざわっと揺れる。
何かが、近づいてくる。
足音。
明らかにデカい。
「……ちょっと待て」
(こわい!)
チビが、俺の後ろに隠れた。
(まこと、なに?)
モフも不安そうだ。
(わんわん!)
ポチだけが、警戒態勢に入っている。
草むらが割れた。
そこから現れたのは――
巨大な猪だった。
高さ、俺の背丈以上。
体長、三メートル級。
牙は丸太みたいで、毛は黒光りしている。
そして――
目が、妙にキラキラしている。
「……」
俺は、依頼書を見直した。
「……小型魔獣って書いてある」
(うそつき)
「同意する」
(これ、こがた?)
「どう見ても大型だよな!?」
猪は、俺を見た。
じっと、見つめている。
そして――
「ブモォォォ……♡」
「ハート付けるなぁ!?」
迫力満点の見た目なのに、声が甘い。
そして。
突進――
しなかった。
猪は、ずずずっと近づいてきて、
すりっと頭を俺の腹に押しつけた。
「重っ!?」
後ろに倒れそうになる。
ポチが必死に支えてくれた。
(まこと、ささえる!)
「ありがとう、ポチ!」
「ちょ、ちょっと待て! 距離感! 距離感!」
猪は、完全に俺に懐いていた。
鼻でつつく。
すりすりする。
尻尾を振る。
……全部、重量級。
「待て待て待て! 俺は撫でる専門じゃない!」
「ブモォ♡」
「返事が可愛いのが余計に困る!」
チビが、唖然としている。
(……でかい)
「それはそう」
(こわい)
「見た目はね」
(でも……やさしい?)
「え?」
チビの【微心読】が発動した。
猪の心の声が聞こえる。
(ひとり、さみしかった)
「……」
(だれも、ちかづいてくれない)
「……それは、お前がデカいからだろ」
(こわがられる)
「当たり前だろ」
(でも……このひと、こわがってない)
「いや、怖いよ!?」
(やさしい)
「……ああ、もう」
俺は、観念した。
恐る恐る、猪の頭に手を置く。
毛は、意外と硬い。
でも、温かい。
「……お前、名前は?」
(ない)
「じゃあ……プーコ(仮)で」
(ぷーこ?)
「見た目、豚っぽいし」
(ぶた……?)
「猪だけど、まあ似たようなもんだろ」
プーコは、嬉しそうに鳴いた。
「ブモォ♡」
「だからハートをつけるな!」
その時、モフが言った。
(まこと、これ……つれてかえる?)
「え?」
(なかま?)
「いや、こんなデカいの連れて帰ったら、ギルドが大騒ぎになるだろ……」
プーコが、俺を見上げた。
(いっしょ、だめ?)
目がうるうるしている。
「……くそ」
断れなかった。
「わかったよ、連れて帰る」
(やった!)
プーコは、嬉しそうに跳ねた。
――ドォン!
地面が揺れた。
「跳ねるな! 地震になる!」
(ごめん)
「謝るなら最初からやめろ!」
チビが、笑っていた。
(まこと、おもしろい)
「笑うな」
こうして、俺の仲間はさらに増えた。
モフ、ポチ、猫、山羊、チビ、そして――プーコ。
「……完全に、動物園を超えたな」
(どうぶつえん?)
(なに?)
(わんわん?)
(zzz...)
(めぇ)
(ぶもぉ?)
全員、意味がわからないらしい。
「いや、こっちの世界にはないのか?……」
俺は、ギルドに向かって歩き出した。
プーコが、嬉しそうについてくる。
ずしん、ずしん、と地面が揺れる。
「お前、もうちょっと静かに歩けないのか?」
(むり)
「即答かよ」
村人たちが、驚愕の表情で俺を見ている。
「あれ、巨大魔獣じゃないか!?」
「逃げろ!」
「待って! これ、俺の討伐の証拠だから!」
「討伐の証拠!?」
大騒ぎになった。
ギルドに着くと、さらに大騒ぎになった。
「何だあれ!?」
「ブラッディボアじゃないか!?」
「凶暴な魔獣だぞ!」
受付の女性が、青ざめた顔で俺を見た。
「マ、マコトさん……それは……」
「え、ええと……小型魔獣討伐の依頼で森に行ったら、こいつに懐かれて……」
「小型魔獣!?」
「依頼書、間違ってませんでした!?」
受付の女性は、慌てて依頼書を確認した。
「あ……これ、記載ミスです……本当は『大型魔獣・ブラッディボア』でした……」
「やっぱり!?」
周囲の冒険者たちが、ざわついている。
「ブラッディボアって、Bランクの魔獣だぞ……」
「あんなの、普通は手懐けられない……」
「どうやったんだ……?」
俺は、プーコの頭を撫でた。
「いや、懐かれただけで……」
「ブモォ♡」
「だからハートをつけるな!」
周囲が、笑い出した。
「なんだあれ」
「凶暴なブラッディボアが、完全にペットじゃん」
俺は、顔を赤くした。
「笑うな……」
でも、不思議と嫌な気分じゃなかった。
むしろ、笑えた。
怖いはずの巨大魔獣との遭遇は、
なぜか腹筋を削る展開で終わった。
――この時点では、
それが俺の運命を変える出会いだとは、
まだ知らなかった。
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