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10話:初任務はゴブリン

 ギルドの掲示板の前で、俺は固まっていた。


「……ゴブリン討伐」


 文字を読むだけで、喉が渇く。

 初任務。

 Eランク向け。

 危険度・低。

 報酬・銀貨5枚。


「危険度、低……本当か?」

(うそ)


 モフの心の声が、容赦ない。


「黙れ」

(でも、うそ)

「わかってるよ!」


 俺は、紙を剥がした。

 逃げる理由は、もうない。

 受付に持っていくと、女性が驚いた顔をした。


「……ゴブリン討伐ですか?」

「は、はい……」

「大丈夫ですか? 初心者には少し難しいかもしれませんが……」

「だ、大丈夫です! 多分!」


 全然大丈夫そうに聞こえなかった。


 森の入口までは、順調だった。

 問題は、その先だ。


「……静かだな」

(しずか)

(わんわん)

(zzz...)

(めぇ)

(こわい)


 チビだけが正直だった。

 俺は、慎重に森の中を進んだ。


 そして――


「……いた」


 ゴブリンは、三体。

 小柄だが、緑色の肌で、棍棒を持っている。

 牙が見える。

 心臓が、うるさい。


(こわい!)


 チビが、俺の後ろに隠れる。


(まこと、だいじょうぶ?)


 モフも不安そうだ。


(わんわん!)


 ポチだけが、戦闘態勢に入っている。


「……俺もだよ」


 正直すぎる独り言。

 それでも、逃げなかった。


「……行くぞ」


 声が震える。

 魔法を使おう。

 全属性魔法の才能があるはずだ。


「えっと……火よ、出ろ!」


 手を前に出す。

 しかし――

 何も起きない。


「あれ?」


 ゴブリンが、気づいた。


「ギィッ!」

「ちょ、待って! 今、魔法出すから!」

「火! ファイア! 燃えろ!」


 色々試してみる。

 でも――

 何も起きない。


「なんで!?」

(まこと、まほうつかえない)

「わかってる!」


 ゴブリンが、棍棒を振りかざして突っ込んできた。


「うわっ!」


 避けようとして、足がもつれる。

 ――転んだ。


「いてっ!」


 まただ。

 情けない転び方。

 ゴブリンが迫る。

 棍棒が、振り下ろされる。


「やばっ――」


 その瞬間。


(まもる!)


 チビが、俺の前に飛び出した。


「やめろ!」


 間に合わない。

 チビは小さくて、弱い。

 ゴブリンの一撃で――

 ――と思った。


 だが、棍棒は外れた。

 ゴブリンの動きが、一瞬止まる。


(……うるさい!)


 チビが、必死に威嚇していた。

 小さな体で、精一杯。

 弱い。

 でも、逃げてない。


「……くそ」


 俺は、歯を食いしばる。

 守ってもらってる。

 俺が、チビを守るはずだったのに。

 逃げるな。

 今度こそ。

 魔法なんて、考えるな。

 ただ、出せ。


「――出ろ!」


 掌が、熱くなる。

 ぽっ、と小さな火の玉。

 頼りない。

 でも、確かに。


「出た!」


 火球は、ゴブリンの足元で弾けた。


「ギッ!?」


 ゴブリンが怯んだ。

 その隙に、俺は立ち上がる。


「チビ、下がれ!」

(まこと!)

「俺が前に出る!」


 声を張る。

 ポチも吠えた。


「ワン!」

(まこと、まもる!)

「ありがとう!」


 ゴブリンが、もう一度突っ込んできた。

 怖い。


 でも。

 さっきより、足が動く。

 魔法を、もう一度。


「出ろ!」


 掌から、火球。

 今度は、ゴブリンの胸に当たった。


「ギャッ!」


 ゴブリンが、転ぶ。

 派手じゃない。

 一撃で倒れない。

 それでも、ゴブリンは怯んだ。

 残り二体も、様子を見て――


「ギィィ!」


 逃げ出した。


「……え?」


 森が、静かになった。


「終わった?」

(おわった)

(わんわん!)

(zzz...)

(めぇ)

(かった!)


 膝が、笑う。

 俺は、その場に座り込んだ。


「……勝った、のか?」

(たぶん)


 曖昧すぎる勝利。

 でも。

 仲間は、無事だった。

 チビも、モフも、ポチも。

 猫は最初から最後まで寝てたけど。

 山羊は草を食べてたけど。


「お前ら……ありがとう」


 俺は、チビを抱き上げた。


「お前、守ってくれたんだよな」

(まこと、だいすき)

「……俺も、お前のこと守りたかったんだ」

(まもってくれた)

「え?」

(まこと、まえにでた。こわかったのに)


 チビの心の声が、胸に響いた。


「……怖かったな」

(うん)

(でも、まけなかった)

「……そうだな」


 胸の奥が、じんわり温かくなる。

 失敗だらけ。

 格好悪い。

 魔法もろくに使えない。


 それでも。

 守ろうとして、立ち上がった。

 それは、確かだ。


「……少しだけ」


 俺は、呟いた。


「前より、マシになったかな」

(まこと、つよくなった)


 モフが、俺の肩で鳴いた。


(わんわん!)


 ポチも尻尾を振る。


「お前ら……ありがとう」


 その時、猫が目を覚ました。


(おわった?)

「お前、最後まで寝てたな!?」

(つかれた)

「何もしてないだろ!?」


 山羊は、相変わらず草を食べている。


(めぇ)

「お前も何もしてないな!?」


 でも、不思議と嫌な気分じゃなかった。

 むしろ、笑えた。


 森の風が、静かに吹いた。

 初任務は、情けない勝利で終わった。


 でも。

 俺は、確かに一歩、前に進んでいた。

 魔法も、少しだけ使えた。

 仲間を、守ることができた。

 それは、小さな成長だった。

 確かな、成長だった。


「よし、ギルドに帰るか」

(おー!)

(わんわん!)

(おなか、すいた)

(zzz...)

(めぇ)


 賑やかな仲間たちと共に、俺は森を後にした。

 初任務、完了。


 そして――

 俺の冒険者生活は、少しずつ動き始めていた。



気分転換に他の小説も読んで見てください。


ギャグ

●異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜

https://ncode.syosetu.com/n0668lg/


ホッコリファンタジー

●黒猫フィガロと、願いの図書館 〜涙と魔法に満ちた旅の記録〜

https://ncode.syosetu.com/n5860kt/


ホラー

●私を処刑した王子へ 〜死んだ公爵令嬢は呪いとなり、王国を沈める〜

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