第7話 報復と制裁(後)
「大変です!」
ノックもなしに使用人が部屋に駆け込んでくる。
「無礼者が! で、何の用だ?」
アクトーク子爵は不機嫌そうに答える。
「今朝に追放した無能者が帰ってきて、不思議な力で衛兵を無力化しながらこちらに向かってきています!」
「は?」
アクトーク子爵は固まった。
処分予定の無能者が自身の屋敷を襲撃しようとしている?
どうやって?
アクトーク子爵の頭の中は疑問で埋め尽くされていた。
「……他の異界からの来訪者はそれぞれの異能を有していた。もしかすると、あの異能者も異能を有していたのかもしれませんな」
側近魔術師ホロー・マギアンは冷静に分析する。
「なにぃ!? あの無能者が異能持ちだと!? クソッ! 兵を集めろ! あの無能者を迎え撃つ!」
「異界からの来訪者と戦うんですか!?」
アクトーク子爵の怒号に使用人は動揺する。
「何度も言わせるな! 無能者に良い様にされてたまるか!」
「わ、わかりました……!」
使用人は震える声で部屋を後にする。
アクトーク子爵邸内では、異界からの来訪者が攻めてきている。
アクトーク子爵は異界からの来訪者と戦う気でいる、という話が広がり、非戦闘員の使用人やメイドは圧倒的な戦闘力を持つ伝説の存在である異界からの来訪者との戦いを恐れて、アクトーク子爵邸から非難する。
アクトーク子爵邸に残ったのはアクトーク子爵の子飼いの私設武装団だけだった。
「いいか貴様ら! 相手は異界からの来訪者だ! 奴を討伐すれば戦士として最高の栄誉を得られるだろう! 報酬も弾む! 必ず仕留めろ! その首をワシの目の前に持ってこい!」
アクトーク子爵の命令に従い、私設武装団はケントとの戦闘に挑む。
◆◆◆
「出てこい豚野郎! 出てこなければ引きずり出すぞ!」
アクトーク子爵邸に向かってケントが怒鳴る。
しかし、アクトーク子爵からの返事はない。
「そうか、なら引きずり出すまでだ!」
ケンジは念動力を用いて屋敷を抉り、屋敷を半壊させる。
「そこまでだ無能者!」
「ん?」
アクトーク子爵邸に次の一撃を入れようとしていたところに、私設武装団が駆けつける。
「またか。ゴミが何人集まっても結果は同じだってのに……」
ケントは呆れた様子で吐き捨てる。
「お前を倒すと一生金に困らないんだ、恨みはないが死んでもらうぜ!」
私設武装団の剣士がケンジに向かって駆け出す。
ケンジは落ち着いて私設武装団を観察する。
剣士が1人、槍使いが1人、弓使いが1人、魔術師が一人の4人組。
「パーティーの遠近のバランスは取れている。一人一人相手をするのは厄介、か」
ケントは私設武装団を冷静に観察し、倒し方を考える。
「ごちゃごちゃと言ってんじゃねぇよ!」
ケンジは突撃してくる剣士を弓使いの方に向かって念動力で吹き飛ばして、剣士を弓使いにぶつけて2人を戦闘不能にする。
一瞬の出来事に呆気を取られた槍使いの懐に、自身に対する念動力の高速移動で懐に入り込むケンジ。
「しまっ……!?」
「遅い!」
ケンジは幻精剣で槍使いを刺し貫く。
「あひっ! あひょひょひょひょひょ!」
槍使いは発狂し、地に伏して一心不乱に地面を舐めている。
短時間で自分以外の3人が無力化され、残る魔術師は戦力を喪失していた。
「無理だ……! こんな化け物の相手が出来るか!」
魔術師はケンジに背を向けて逃走する。
「ぐわぁ!」
逃走する魔術師に魔力弾が直撃する。
「敵前逃亡とはいけませんなぁ」
「ホロー・マギアン……!」
「ほう、覚えていてくれたのですね」
「元凶を忘れるわけねぇだろ」
ホローとケンジは軽く言葉を交わす。
「お前も制裁対象だ、楽にイケると思うなよ!」
先に仕掛けたのはケンジだった。
念動力による吹き飛ばし攻撃。
ホローは結界を展開して念動力を防ぐ。
「む……!」
初めて自身の攻撃を防いだホローにケンジは警戒を強める。
「他の異界からの来訪者の能力は精神力を属性へと変換するもの。先ほどの戦闘でのあなたの不可視の攻撃。少し正体が見えましたよ」
ホローは武器の杖を構えながら語る。
「精神力そのものを力場として操作する能力。それがあなたの異能なのではないですかな?」
ケンジは眉を顰める。
ホローの分析は正確であり、ケンジの異能である“幻魔天操”を見抜いていた。
「であるなら、こちらもいくつか対策は立てられる」
ホローは結界を張りながら、魔力弾でケンジを攻撃する。
ケンジの念動力はホローの結界に阻まれて、ホローに干渉する事が出来ない。
だからと言って出力を上げて押し潰すなら、足を止めて集中する必要があり、ホローの魔力弾の的になってしまう。
「面倒だな……」
ケンジは迫りくる魔力弾を幻精剣で斬り払って防御し、互いに決定打の無い膠着状態へともつれ込む。
(このまま長引けば豚貴族が逃げ出すだろう。ここは勝負に出るべきか)
ケンジは勝負に出た。
ホローに向かって駆け出す。
ホローは接近してくるケンジに対して魔力弾で応戦。
ホローに近づくほど魔力弾の密度は高まり、ケンジは念動力でバリアを張って魔力弾を逸らし、幻精剣で魔力弾を斬り払って進むが、その密度から徐々に被弾していく。
「無駄ですよ」
ホローは結界と魔力弾で堅実にケンジを攻撃する。
被弾覚悟でホローに近づいたケンジは、至近距離で高出力の念動力を叩き込み、ホローを結界ごと上空へ吹き飛ばす。
「なんと……!」
その言葉を最後にホローは彼方へと吹き飛んでいく。
「殺すのが目的じゃない。どこかに行けばそれで良い」
ケンジはそうつぶやいて、こそこそと逃げようとしているアクトーク子爵に近づいていく。
「どこに行くんだ豚貴族?」
「ば、化け物め! いや、お前も立派な異界からの来訪者だったんだ! 今までのことは謝るから命だけは!」
「いいぜ、俺は殺しはしない。俺はな」
屋敷も財産も使用人も部下も何もかも失ったアクトーク子爵を見て、ケンジは気が済んだ。
「俺にはやる事がある。お前のせいで引き離された仲間を探さないといけないからな」
ケンジはそう言ってアクトーク子爵を放置して立ち去って行った。
(た、助かった……! ふん、甘いガキめ! この屈辱、忘れんぞ!)
「アクトーク様」
名前を呼ばれて振り向くとそこには、棍棒や鋤などを持ったアクトーク領の住民たちがいた。
アクトーク子爵は理解してしまった。
ケンジの『“俺は”殺さない』という言葉を。
「長年の圧政のお礼をどうか受け取ってほしい。その身で」
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