第5話 処刑と覚醒
独房の中でアカリから貰ったお守りを取り出すケンジ。
お守りは球形のクリスタルであり、クリスタルの中央に光が宿っていた。
光は炎の赤、水の青、風の緑、地の橙がの4色で移り変わる。
天文部メンバーの能力の色に対応した色であり、天文部メンバーがケンジを想って作ったお守りであることが伝わっていた。
「みんな、大丈夫かな……」
ケンジが一人呟く。
答えるものは誰もおらず、お守りも徐々に光が弱まっていき、光の消えた灰色のクリスタルとなってしまう。
「……っ!」
足音が聞えたのでケンジは急いでお守りを隠す。
「おい、出ろ」
ノックもなしに乱暴に扉を開けた兵士はケンジに率直に告げる。
ケンジは特に拘束はされていないが、四方を武装した兵士に囲まれており、とても逃げ出せる状態ではなかった。
連れ出されたケンジは馬車の荷台に乗せられる。
見張りの兵士も同乗し、逃げる事は出来ない。
ケンジは何も聞かされないまま馬車が出発する。
(何をしようっていうんだ……?)
困惑するケンジの事など無視して馬車は走り続ける。
馬車は村を出て、人里離れた山奥に到着する。
ケンジは嫌な予感がしていた。
「降りろ」
兵士に言われて馬車を降りるケンジ。
ケンジが馬車から降りると同時に兵士が斬りかかってくる。
寸前で避けるケンジ。
「何をする!?」
「お前はもう用済みなんだよ、ここで死ね!」
ケンジの言葉も聞かず、兵士は再び剣を振りかざす。
「こんなところで死んでたまるか!」
ケンジは山奥の方に走って逃げる。
「へっへっへ、狩りの練習にはちょうどいいぜ」
兵士はそう言って、ゆっくりケンジを追いかける。
(クソッ、何がみんなが帰ってくるまで身の安全は保障するだよ!)
ケンジは心の中で悪態を吐きながらも現状を冷静に分析する。
敵の数は7人。
剣士風の男が3人、槍持ちが1人、黒いローブが3人。
槍持ちを隊長として、剣士の前衛と魔術師の後衛で構成されたパーティーだとケンジは推測する。
(数が多い上に、飛び道具持ちまでいる……、逃げ切れるか!?)
ケンジが木陰に隠れてどう逃げるか考えているときであった。
足元に赤い光が生じるのに気づいたケンジは咄嗟にその場所から飛びのく。
瞬間、さっきまでいた場所に火柱が立ち上る。
「素人の癖に中々粘るな」
黒いローブの男が言う。
(もう追いつかれた!?)
ケンジは体勢を立て直して走り出すが、木陰から兵士が出てきて、慌てて方向を変える。
方向を変えた先には別の黒いローブがおり、ケンジが周囲を見渡すと完全に囲まれていた。
「サンダーストライク!」
一人のローブの男がケンジに向かって雷撃の魔法を放つ。
直撃したケンジは吹き飛ばされて、背後の木に激突する。
「ぐ、うぅ……」
ケンジはよろけながらも立ち上がる。
「ん?おかしいな?今ので死んでもおかしくないはずなのに、魔力の出力を間違えたか?」
ケンジがまだ動けることに疑問を感じるローブの男。
「へっ、ぶった斬れば確実だろ!」
そう言って剣を持った男がケンジに近づいてくる。
(なんで俺がこんな目に……! いや、俺に力があれば、みんなを危険な旅に出させる事も無かったんだ! なんで俺には力がない!? こんなところで死ぬのか!? 勝手に呼び出して、使い潰して始末する様なこんな世界で……!)
死の恐怖、己の無力への怒り、理不尽に対する怒り、アクトーク子爵への憎しみ、様々な感情がケンジの中で混ざり合い、そして何かが弾ける。
「な、なんだっ!?」
兵士が振り下ろした剣は見えない力に阻まれてケンジに届かない。
ケンジが軽く手を振ると、ケンジを斬ろうとした兵士は見えない力で吹き飛ばされる。
「なんだ!? 何が起きている!?」
他の剣士や魔術師も動揺する。
「落ち着け、奴をよく見ろ。恐怖で髪の毛が真っ白じゃないか。何を恐れる?」
槍持ちの隊長が動揺する部下を落ち着ける。
隊長の言う様に黒髪だったケンジの髪はストレスで白髪へと変化していた。
しかし——
「なんで俺がこんなところで死なないとダメなんだよ、お前らが死ねよ」
ケンジは手を前にかざして力を集中させ、青白いエネルギーの光剣を作り出す。
「ど、どうなっている!? 奴は無能力者だったはず!」
ケンジの光剣を見て、遂に隊長も動揺する。
「どうします、隊長?」
魔術師の一人が隊長に問う。
「数はこっちが有利だ。ここで仕留める! おい、いつまで寝てる気だ! さっさと来い!」
隊長は数の有利を活かしてケンジを仕留めるつもりでいる。
そして、ケンジに吹き飛ばされた兵士に激を飛ばす。
「勝てると思ってんのか? 馬鹿が……」
ケンジが左手を上げると、三人の魔術師が宙に浮かぶ。
「な、なんだ!? どうなってる!?」
急に空中に浮かび上がった魔術師に対して、隊長や剣士たちが動揺する。
ケンジが上げた左手を下すと、空中に浮かんでいた魔術師は一気に落下する。
それなりの高度に持ち上げられていた魔術師は高所から落下し、地面に激突して悶絶する。
「次はお前らの番だ」
ケンジは残った兵士を指さして告げる。
「ふ、ふざけんな! ガキがぁ!!」
一人の剣士がケンジに特攻する。
剣士の剣をケンジは光剣で受け止める。
剣士の猛攻に対してケンジは光剣で斬り結ぶ。
「飽きた」
ケンジがそう言い、左手をかざすと、特攻した剣士の動きが止まる。
「な、なんなんだよ!?」
動けない剣士にケンジは光剣を突き立てる。
光の剣に貫かれた剣士は動きを止める。
「キヒ、キヒャヒャヒャヒャヒャ!」
そして、突然、狂ったように笑いだす。
異様な光景に隊長や残りの剣士は言葉を失う。
ケンジは無言でもう一振りの光剣を作り出し、二人の剣士に向かって投げつける。
あまりの出来事で対応できなかった二人の剣士は光剣に直撃し、そして、片方は狂ったように笑い始め、片方は狂ったように泣き始める。
「な、何が……、何が起きているんだ……!?」
隊長は槍を手放して戦意を喪失していた。
魔術師の後衛は見えない力で上空から地面に叩きつけられ、前衛の剣士は光の剣に貫かれて精神がおかしくなっている。
「な、なんなんだお前は! ただの無能力者じゃないのか!?」
隊長は腰を抜かして後ずさりしながらもケンジに問う。
「ふん、冥土の土産に教えてやるよ。俺の能力を」
“幻魔天操”。
精神力を力場に変換して操る“無”の異能。
それこそがケンジの異能だったのだ。
「属性至上主義のお前らの吹き込みで無能者と勘違いさせられたぜ。だが、俺にもちゃんと異能はあったわけだ」
ケンジは後ずさりする隊長に歩み寄り、精神力を収束して形成したエネルギー剣の『幻精剣』を突き付ける。
「や、やめてくれ! 死にたくない!!」
「俺を殺そうとしたのに命乞いか? 都合の良い奴だな。だが、まあ、殺しはしない。殺人は日本じゃ重罪だからな」
そう言ってケンジは隊長に幻精剣を突き刺す。
「この幻精剣は一時的に発狂や狂気を引き起こす。一時のトリップを楽しんで来い」
ケンジが幻精剣を引き抜くと、隊長は素手で狂ったように穴を掘り始める。
ケンジは悶絶して動けない魔術師や狂った兵士たちに目も向けずに去っていく。
「散々人をコケにしやがって、待ってろよ豚貴族……!」
ケンジはアクトーク子爵領に向けて歩き出す。
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