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9話:開拓地最前線②

ヴァイツ vs シュタール&サクサリ&(アールー)


「それで?なんで竜殺しがここに?」


「貴様らドブネズミこそ。はるばるご苦労とでも言っておこうか。どうだ?餌はうまかったか?」


「……は!裏をかいたつもりが、引っかかったのはこちらか。くそが。お前が自分の娘すらも餌とするとはな。竜は貴様の阿婆擦れだけでなく倫理感すらも燃やし尽くしたのか?」


「なぜそれを――。ああ、”内通者”か」


「……勘の鋭さは相変わらずだな」


「なんだ、見られたのは分かっていたか。……まあいい。どうせここで貴様らは死ぬ。遺言は何にする?墓にチーズでも添えれば満足か?」


ヴァイツは自分の周りに何十ものマナの球体の塊を作り出す。


「アウストラリス!聞いていた通りだ。おい、どうする、サクサリ。アールーが来るまで耐えるか?」


「無茶言うなよ。そもそもこっちは星獣出してんだぞ。いくら覚星と言えど、ストックももうねえよ」


「だからあれだけ言っただろ。……はぁ、耐えれて二分だ。その間に何とかしろ。最悪切り札を切れ」


「分かった」


シュタールはヴァイツのように周りに金属のつららを作り出す。だが、ヴァイツのような数はなく、せいぜい10個の巨大なつららだ。


「サクサリ、お前も警戒しろ。覚星の内容までは分からん」


「ああ、分かってる。……アールーを探しに行ってもいいか?」


「今かよ。好きにしろ」


「了解」


ヴァイツはその、切り札、という言葉に引っかかったが、切り札を使わせない、という事で納得したようだ。


「いくぞ」


ヴァイツの周りの球体がすべてシュタールへと向かっていく。


「おっらぁあ!」


シュタールは金属のつららを投げ、その全てを相殺しようとする。だが、ヴァイツのマナに触れた全ての金属が爆発四散する。


「あ?……くそ、爆発か」


一体いくらのマナを制御しているのだろうか。シュタールの戦ってきたアウストラリス使いのマナの数は10個程度だった。しかしヴァイツはそれ以上のマナを”制御”している。これが正真正銘の化け物なのはシュタールには火を見るより明らかだった。それと同時に覚醒がマナの爆発だと確信する。それが触れた瞬間だけなのか、それとも意図的に起こせるものかは分からないが、どちらでもいいように、避けるのではなく防ぐことにシュタールは焦点を置くことにした。


シュタールは金属を花弁のように散らす。だが、その花びらすべての軌道が変だ。


「これは……」


ヴァイツだって敵の観察はする。アウストラリスの星術はいい意味でも悪い意味でも単純だ。敵の防御を避けるために小さいマナを作ってもそれは石ころ程度の攻撃しかできない。適当に数を増やして対処してもいいが、それでは必然的な隙ができる。そしてその花弁に触れたマナはすぐに相殺されるだろう。厄介な技術だ。……私以外には、だが。


「それもろとも破壊すればいい話だが」


ヴァイツは花弁を何十ものマナで相殺しながら、一個の、超密度のマナを手元に作り出す。


「……冗談だろ」


シュタールは冷や汗を掻く。だがその超密度のマナをまともに制御できないように、質量戦に切り替える。


「くらえ!」


シュタールはヴァイツの周りの花弁と作り出した金属のつらら、地面に生やした金属でヴァイツの周りを埋め尽くす。


「ああ、そうだろうな」


ヴァイツは超密度のマナを爆発させる。だが、これはシュタールの狙い通りだった。


「は。思い通りだ」


シュタールは自分の後ろに隠していた最後の金属のつららをヴァイツに向け、投げる。それは確かにヴァイツに当たった感覚をシュタールに与えた。


「……おい、まさか死んだんじゃないだろうな。案外あっけなかったな。竜というのもそこまで――」


「隙とは技術なのだよ。弱者」


そのあと、シュタールの視界の端に一個のマナが現れる。それはヴァイツのマナだった。マナは小規模の爆発を起こす。


「貴様ら弱者は隙を捉えるだけで精一杯だ。何故その隙が餌でないと言い切れる?見事貴様は隙に魅せられたのだ」


「……くそが」


煙が張れると、腕を失ったシュタールがかろうじて立っている。ヴァイツは確かに金属は刺さっていたが、マナでそれを小さく削り、刺さったふりをしたのだ。シュタールはそれを見ると、諦観したような表情で倒れた。


「飛ばした金属の感覚をつかめるのは素晴らしいが、そればかりに頼るなよ」


「説教どうも。それで?殺すの?」


「なぜ致命傷を外したと思ってる。尋問するために決まってるだろう」


ヴァイツは周りに三個のマナの塊を作り出し、シュタールの残った腕、両足に向けて放つ。


「ぐぁああああ!くそが!」


「少しは黙ってほしいものだな」


「ちょっと待ってくれ」


ヴァイツは第三者へと目を向ける。


「……確か、アールーというのだったな?そして、サクサリか」


「ああ、そうだ。アールーだ。頼みがある、竜殺し」


「……言ってみろ」


「お前はもう内通者について察していたな。その内通者の情報を渡す。そのかわりシュタールを返してほしい」


「ほう。まず聞きたいのだが、生殺与奪の権はこちらにある。そして私は貴様らを信用していない。どうすればその”情報”とやらを信頼すればいいのだ?」


「ごもっともだ。だが、それは聞いてからでも遅くはないだろう?」


少しばかり考えを巡らせ、ヴァイツは返事をする。


「一理あるな。情報とやらを聞かせてみよ」


「ああ。まず私たちは内通者の持っている情報を得るためにここへ来た。その内通者がクアラルの海岸の船の警備を緩和し、そこの間をくぐってここまで来た」


「その内通者の名前は?」


「残念ながら言えない」


そういうアールーが言うとヴァイツはシュタールの顔面を蹴り飛ばす。


「待て。頼む。待ってくれ。どうせ目星はついてるんだろう?」


「確証を得るに越したことはないだろう」


「なら、もしその内通者が一人じゃないとしたら?」


「ほう。興味深いな」


「だろう?今からお前にあるアーティファクトをやる。それはそのもう一人への道しるべになるはずだ。もちろんこのアーティファクトには細工なんてない。今ここでやってみてもいい」


そう言いアールーは立方体のアーティファクトにマナを込める。その立方体は鍵の形状へと変化した。


「まずそれを渡せ。……内通者は合計で二人か?」


「ああ、そうだ。その鍵はアーティファクトだが、マナを込めただけでは意味がない。こう言うんだ。”自由の名のもとに”。」


そういうアールーが言うと鍵はさらに変化する。そしてそのアーティファクトをヴァイツに渡す。


「二回目の変換は盗まれた時の対処だ。その合言葉を使用された状態の鍵が内通者の持っている金庫を開けることができる。ちなみにだがその金庫はアダマンタイトで出来てる。破壊は疎か、衝撃を受けた時点で爆発する」


「随分頑丈だな」


「ああ。これまでの集大成らしいからな。どうだ?」


ヴァイツは顎に手を当てる。その間三人は、どんな返事をするか、ヴァイツの一挙手一投足、さては息すらも見逃さないような姿勢を見せる。


「……貴様らに三択をやる。1、内通者の内一人でいい、名前を言え。2、いつそれは行われる?3、貴様ら全員を殺す。選べ。」


「2だ。内通者の情報は今年のクアラルの祝期、お前の娘が学校に滞在するころだ、多分、7月あたりに行われるだろう。」


「具体的な期間は?」


「分からない。一週間か、それ以上。もし一か月を超えれば任務は失敗したと認識される」


「……いいだろう。契約成立だ。貴様はアンタレスだろう?治さなければ死ぬぞ」


そういってヴァイツはシュタールを投げる。


「ああ、分かってる」


「だが、もし、私の前にまた現れるのであれば、それが最後の景色になるだろうな」


「肝に銘じておく」


そういうと三人、シュタールを担いだアールー、サクサリは逃げていった。


「……”自由の名のもとに”ねぇ。アストラムの真似事か?まあいい、いい収穫だろう。……アフトとカーラのもとに行かねば」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アフト


「カーラ!大丈夫か?」


「ええ、アフト。今なんとか防衛隊の人たちが抑えているけど、そろそろ限界かも」


「さっきヴァイツ様が来た」


「え?父様が?なんで――」


カーラは少し悩む様子を見せた。だが、こっちはこっちでやることがある。カーラを説得してみるか。


「今はそれどころじゃない。ヴァイツ様が主犯の人を抑えてくれてる。俺たちがやるべきはこの魔獣たちの始末だ」


「え?」


「カーラ。前線へ出るぞ。多分人が足りない。ついてきて」


「分かったわ」


何匹ぐらい居る?だいたい50か?


「カーラ。魅惑はできる?」


「無理。スピカの対象は人だけ。覚星したなら話は別だけど」


「分かった。カーラ、指揮を頼む」


「ちょ、ちょっと待って!」


カーラが俺の手を掴む。これが今じゃなければもう少し時間をかけて説得できただろうが、今はそうじゃない。少しぶっきらぼうに返事をしてしまった。


「何?今やばいんじゃないの?」


「そうだけど、なんでそんな冷静なのよ?」


その声には恐怖と、ほんの少しの怒気が混じっていた。涙目も、足の微かな震えも、確かにカーラは恐怖に飲まれていた証拠だった。なんでだ。これぐらいなら――いや、時間がもったいない。


「普通だろ」


「は!?アフト、あなたほんとにどこに住んでたの!?」


「分かんない。けど、俺たちはやるべきことがある。もし怖いなら、無理に動かなくてもいい。俺一人で行く」


「ま、待って」


「何?」


「……アフト。守ってくれる?」


「?当たり前だろ」


何当たり前のことを言っているんだ。


「!よし、行くわよ!」


「よし、それでこそカーラだ」


「知ったような口で言わないでくれる?」


「ええ。励ましたつもりだったのに」


だがそのテンションをだせるなら問題はない。さっさと現場に向かおう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

よし、カーラは指揮を執りに行った。正直、スピカをみんなの士気を上げるために使うとは思わなかったけど。まあいい。多分魔獣たちはみんなが抑えてくれる。俺は星獣をやる。


「すいません。前線へ出ます。下がって下さい」


「分かった。だが気をつけろ。星獣に何回も攻撃したが、傷ついてもすぐに再生する。多分弱点があるはずだ」


「分かりました」


よくよく思えばこの星獣、獅子みたいなやつ、見たことがある。そう、どこかで――いや、今はいい。あいつを殺せば全部終わりだ。


「行こうか。武器は……サイスでいいだろう」


アフトは鍬からサイスへと武器を切り替え、それを構える。そして、魔獣の中へ飛び込んだ。そのサイスには確かに星術が、CANCERが宿っている。アフトは他の魔獣を切り裂いた。そして、星獣も切った。だが


「やっぱり再生する。一応体半分は切り落としたが。……この白色の鬣。どこかで――」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『父さん!この図鑑の動物。なんていうの?』


『ああ、こいつか?こいつはな、ラサラスって言うんだ』


『ラサラス!かっこいい名前だね!強いの?』 


『ああ。強いぞ。父さんも戦ったことがある』


『ほんと!?どうやって勝ったの?』


『それはな。頭の上半分にある赤い宝石が弱点なんだ。そしてそれは(たてがみ)で隠れてる。しかもな、その鬣も、敵が鬣を狙ってきたら蛇に変わるんだ。その蛇は毒を持ってるんだ。危険だぞ』


『へぇ~!ねえ、父さん!僕、勝てるかな?』


『……ああ、きっと。だってお前は父さんの自慢の息子だぞ?』


『そうだね!父さんは最強なんだから、僕も最強だ!』


『ああ!俺たちは最強だ!』


『最強!』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ラサラス。弱点は、鬣の奥の赤い宝石」


この記憶は、昔のものだろうか。あんまり覚えてないけど。でも、これを利用しない手はない。


ラサラスの鬣は毒蛇へと変わる。アフトとの距離は、毒蛇の射程距離だ。毒は危険だけど、剣で、そして、この星術で、みんなを守って見せる。


「アフト!避けて!」


カーラの声が聞こえる。どうやら指揮は大丈夫そうだな。カーラは今何を――


「うおっ!危ねぇ!……正直こっちに来る魔獣のほうがめんどくさいな。でも、負ける相手じゃない」


アフトは毒をかき消し、近づいてくる魔獣を両断する。そして毒蛇の間に見える赤い宝石を、その赤い微かな反射を、アフトは見逃さなかった。


「見えた!」


ラサラスもアフトを避けられないと悟ったのか、アフトを喰いにかかる。ラサラスはアフトの持っている武器を破壊しようとした。だが、それは一向に壊れる気配はない。当たり前だ。それは、ほかの何物でもない、神器なのだから。


「大太刀よ!」


アフトが最後に選んだのはアフトの二倍はあろうか、巨大な太刀。ラサラスの中にあった神器は、容易に喉元を貫通した。アフトは向きを赤い宝石のある方へと変える。


「くらぇえええ!」


アフトは大太刀をラサラスのてっぺんへと斬る。それはラサラスの赤い宝石を悉く切り裂いた。ラサラスは白目をむき、縦に半分に切られた頭からは脳みそと思わしきものが垂れてくる。再生する様子は一向にない。


「よし!……ってあれ。魔獣に囲まれてるけど、これってヤバイ?」


いくら星獣とて、魔獣を率いてたにすぎず、魔獣は魔獣なのだ。アフト、唯一の誤算。絶体絶命のピンチ。そんな時だった。アフトの周りを破壊するようにマナの球体が現れたのは。


「よくやった!アフト、カーラ!」


「ヴァイツ様!」 「父様!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おい、アールー。いいのかよ。あの鍵渡して。だれも予備なんて持ってねぇぞ」


「あれが予備だったんだよ。そもそも俺たちは混乱を起こすのが任務だ。それに、最悪鍵ならお前が作れるだろう?」


「あの鍵結構作るの大変だぞ?時間はかかるし、マナもその分回復できない」


「お前は俺たちに借りを作ったからな」


「……はぁ。殿務めたのによぉ」


「命の価値よりかは低いだろう。……ここからは競争になるぞ。この作戦がばれればもう二度とクアラルはトリニティを入国はさせないだろう」


「だろうな。……ところで、そんな重要なのか?情報は?」


「ああ。トリニティの怨敵、リーゼンの皇帝のことがあるらしい」


「皇帝……ああ、あいつか。」


「『あいつ』って。まあいい。行くぞ」


「は?どこに?まだ足しか治してもらってねえんだが」


「動物には乗れるだろう?」


「冗談だろ。おい、サクサリ。お前もなんか言えよ」


「なあ、お気に入りの星獣死んだんだけど。慰めの言葉くらい言えよ」


「まじで?あれ、結構強いんじゃなかったっけ?」


「単体だと弱いけど、魔獣も弱いのは連れてなかったし、弱点まで見破られた。最悪」


「サクサリ。そんなのは後でいいから、”スピカ”の近くまで行くぞ。なんか覚星でだせ」


「首都まで?……はいはい。分かりましたよ」

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