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8話:開拓地最前線①

「君がアフト君かな?」


「?はい。そうですけど」


ジークさんに「ここあたりに集まる予定だったと思うよ」って言われたから来てみると、すでに誰かいた。


「よかった。僕はこの遠征を率いる、ホグだ。よろしく頼むよ。いやぁ、まだ誰も来てないのに早いね」


そういえばヴァイツ様から、指揮はアフトが知らない人が執る、とか言ってた気がする。この人か。若い

大人だ。筋骨隆々としていて、とても頼もしい印象がある。


「ホグさんですか。よろしくお願いします」


「ああ、こちらこそ。ジークから聞いてるよ。新星なんだってね」


ジークさんとは仲がいいようだ。その時だけ少しだけテンションが上がったのが声色で分かった。


「ジークさんとは友達なんですか?」


「ああ。同郷だからね」


「そうなんですか!もしよかったら、昔のジークさんのことを教えてくれませんか?」


「いいよ。別に隠すことでもないし。ジークはね、私にとっては掴みどころのない性格って感じだった。でも同郷の皆はジークのことを慕ってたし、頼ってたよ。ただ、いつの間にかいなくなっててね。だから開拓地の仕事をしてた時、ジークが居たのには驚いたよ」


「確かにジークさんは少し不思議な感じがありますが、頼れるのは間違いないです!」


「ふふっ、そうだろう?アフトからも聞かせてほしい、ジークはアフトにとってどう見える?」


「それはですね――」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ホグさんと喋り終わって、思ってた以上に時間は過ぎていたらしい、周りを見てると、結構な人数がいる。


「……はあ。うまくやってけるかな?」


「なに落ち込んでるのよ」


背中をバチンと叩かれた。ものすごく痛い。振り返ってみると、カーラが居た。


「いってぇ。カーラ、叩く必要あった?」


「いや、無いわ」


「じゃあなんで叩いたんだ……」


「ほら、さっさと並んで。ホグが困るでしょ。私もだけど。」


「ああ、そうだった。すっかり忘れてた。行こうか。……っていねえし」


自由奔放な性格だと思う。けどこれもカーラの魅力なのかと思うと、すんなりと受け入れられた……気がする。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ホグさんがみんなの前で喋ったのは、当たり前ながらも大切なことだった。ただ、俺にとって気を付けることはあまりなかった。しいて言えばもしかしたら3日ぐらいかかることぐらいか。できれば何事もなく1日で終わってほしいものだけど。


「てか、徒歩なんですね」


ホグさんも防衛隊なのか。武器ぐらいしか持ってないし。


「あくまでも調査だからね。移住するわけでもないし。大荷物じゃない限り、台車とかアーティファクトは使わないさ。……アフトこそ大丈夫?初めてにしては武器しか持ってないけど」


「まあ防衛隊ですからね。……実を言うと、ここにきてホグさんの説明を聞くまで日を跨ぐとは知らなくて」


「ああ、そういうこと。……ま、何とかなるでしょ。僕も今まで指揮を何回もしてきたけど。日を跨ぐのはなかったよ」


何とかなるだろうか。ま、ホグさんがそこまで言うなら大丈夫か。……ところで。


「そういえば、ホグさんの口調ってジークさんに似てますね」


「やっぱり分かった?子供のころね、ジークに少し憧れてたことがあってね。それの名残かな」


「なるほど」


「ま、今となっては笑い話だけどね。……ほら、目的地に着いたよ」


「え!?ここですか?」


「ああ。アフト。僕はこれから調査隊を指揮する。防衛隊はカーラ様が指揮するだろうから、カーラ様のところに会いに行くといい」


「分かりました。おしゃべりに付き合ってくれてありがとうございます!」


「ははっ。こっちこそ」


そういってホグさんは去っていった。カーラを探したいのだが、当たり前なことに大人が多いから、カーラの姿が見えない。


「アフト?どこ?」


そんなことを思ってると、カーラの声が聞こえた。声に対して返事をする。


「ここ!」


こんなことで分かるわけないか。


「見つけた!」


嘘だろ。


「なにボーっとしてるの!早く来て」


「はーい」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

やることは単純だった。調査隊の防衛と支援。この二つだけ。防衛隊は調査隊より人数が少ないから、見回りなどをしておけばいいと。ま、複雑なのは正直苦手だから、これでいいんだけど。この辺りは木が多い。俺が居た屋敷周りよりも動物も多い。ただ魔獣とかはいなさそうだし。しばらくは手助けに徹することになるだろう。


「ごめんそこの人、ちょっと手伝ってくれない?」


「は~い。今行きます」


「種を植えるのを手伝ってくれない?鍬を持ってくるの忘れちゃって」


「ああ、鍬ですか。ちょっと待ってください。」


この武器って鍬にもなれるのだろうか?……なった。便利だなぁ。


「いいけど、なんで……って、なんで鍬持ってきてるの?あなた、鍬で戦うの?」


「いや、そういうわけじゃないんですけど。必要とあらば鍬でも戦います」


「そう……ま、なんでもいいわ。耕してもらっていい?小さめでいいから」


「分かりました……因みにこれって何をしてるんですか?」


「いろいろな種を植えて、ここに合う植物を試してるの。まあ、あんまり土地の色とか触った感じも変わらないし、大丈夫だとは思うんだけど、念のためね」


「なるほど。ありがとうございます」


「どういたしまして。あ、それぐらいの大きさでいいわよ」


「は~い」


俺はこんな感じでほかの人の支援に回り続けた。調査が行われている間、魔獣も極端に危険なものはでてこなかったらしい。調査隊からはアフトの武器に感謝した。鍬、斧、シャベル……役に立ったのは言うまでもない。


「アフト。そろそろ終わりよ」


「え?もう?」


「ええ。日も暮れてきたし、調査も早く終わったしね。ところでアフト、あなた防衛隊なのに鍬持ってきたての?」


「まあそうだね」


「本当に?……まあいいけど。アフト、ホグが呼んでるわ。会いに行ったら?」


「分かった」


俺はホグさんの方へ走った。


「アフトか。よくやった。アフトのおかげで調査が早く終わった。ただ気になるのが、鍬、斧、シャベル……アフト、こんなもの持ってきてたか?」


「まあ、そうですね。持ってきてたっていっても過言ではないです」


「どういう事?……ま、なんにせよ助かった。もうみんなも帰る準備をしてる。アフトも準備……って、武器しか持ってきてないんだったな」


「ええ、残念なことに」


「まあ、いいさ。次来るときは気を付けてね。さ、みんながいるところに集まって。僕ももう少ししたら行くよ」


「分かりました」


その時だった。俺は見知らない人の姿を見る。明らかに見たことのない人が近づいてきてる。ホグにそれを伝えようとするが、すぐ甲高い叫び声がそれを簡単にかき消した。そして血生臭い匂いが強く漂い始める。直感が、この状況が不味いと伝えてくる。


「ホグさん!?何が起きてるんです!?」


ホグさんは何か喋ってるが、何も聞こえない。読唇術は持ち合わせていないので、もう一度呼びかける。


「なんです!?なんて言ってるのか聞こえません!もっと大きな声で!」


ホグには聞こえていないようだ。今度は耳を傾けてみると、ホグが何か言っているのが聞こえた。


「なんで……なんでユーシャルの星獣がここにいる?」


ホグの視線の先を見ると、一匹の魔獣が多種多様の魔獣を引き連れている様子が見えた。その一匹の魔獣こそユーシャルの星獣であると一目でわかった。また、その獅子の口には調査隊のだれかの腸と思われるものが口の両端からだらんと垂れている。その後ろを見れば、大量の魔獣が調査隊の人と思わしきものに集っている。こういう事には慣れているのか、とりあえず落ち着き、ホグさんに指示を仰ぐ。


「ホグさん!今はあなたが頼りです!指示をお願いします!」


俺の声が聞こえたらしい、ホグさんは周りを見て、口を開く。


「全員よく聞け!調査隊は防衛隊の後ろ下がれ!防衛隊は前へ!星獣を殺――」


「無駄だよ」


ここにいる誰でもない声が聞こえた。瞬きのあと、ホグさんの肺あたりを貫いている金属があった。ホグさんは時間差で吐血している。頭で考える前に、先に体は動いていた。この武器に星術を付与し、その金属を壊す。切れた先からホグの腹を貫通した金属は崩れ去っていく。


「お?これは……」


「おい、シュタール。なんで頭をつぶさなかったんだよ。再生するぞ」


「は、サクサリこそ。さっさと全員噛み千切ればよかっただろ」


「奇襲の意味がなくなるだろ?せっかくアンタレスで擬態してたのに。……あれ、アールーはどうした?」


「あいつ役目終わったって言ってどっか行ったぞ」


「嘘だろ?……はぁ。仕方ない。全員殺すか」


「はいはい」


「させると思うか?」


この声は俺にとっても聞きなれた声だった。声の聞こえたほうを見ればヴァイツ様がいた。ヴァイツ様の声をここで聞けるのは間違いなく安心できることだった。


「あ?……おい、まずいぞ、これ」


「なんで竜殺しがここに?」


シュタールとサクサリから聞こえた、竜殺しという聞きなれない言葉に蓋をして、ヴァイツ様を見る。


「アフト。星獣をカーラとやれ。お前ならできる。……安心しろ。誰も殺させはしない」


その声には確かに怒りが込められていた。普通だったら怖くなるその声が何よりも安心できた。おかげで俺はその言葉に胸を張って返事することができる。


「分かりました!」

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