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75話:記憶との対峙②

ある日、唐突にオルトスは俺に姉の部屋に行くことを勧めた。オルトスは特に理由は言わなかったが、記憶を取り戻すためだろう。


「いいの?姉の部屋なんて、許可なく入っていいものじゃ……」


「いいさ。それにソミナも、アフトなら遠慮なく入れてくる」


その言葉だけやけに自信満々だったのを覚えている。オルトスはそう言った後少し笑った。昔のことでも懐古しているのだろうか。


そのまま使用人に導かれるまま、姉の――ソミナの部屋へと向かった。本来だったら――というか今、書いている状況だったらこんなことしなかった。だがこの時は好奇心がまだあったんだ。結果から言えば藪蛇だった。言わなくても分かるだろう。だが載せておく。何度も言うし、これからも書くだろうが、これは贖罪なんだから。


「ここか?」


「ええ。鍵はこちらに」


いつも使用人がしている白い手袋から鍵を受け取った。錆は少しだけ目立つし、綻びも多少。だがそれ以外に目立った外傷はない。どうやらこれらの傷は昔、使われていた時についたものだろう。そして綺麗に保管されていたんだ。


そのままドアを開ける。


「うぉ……」


思わず手を振ってしまいたくなるような埃の舞い方だった。誰も入っていないんだろうか。幸運だったのは、この部屋に窓があったこと。窓を開け、空気を換気させる。


しばらくして、周りに置いてある家具を見る。埃があったせいで気づかなかったが、家具の配置自体は綺麗に置いてある。整理整頓はうまくできていたんだろう。他に書くに値するものと言えば、絵が飾ってあったことだろうか。額縁も何個かあった。絵を描くのが好きなのかは知らないが。ただ、どの絵も必ず人が描かれていた。


ある程度の絵画を見て、机に目を遣ると、机の上には一つの本があった。


「……?」


日記を開こうとしたが、鍵のようなもので施錠されていて開かなかった。ダメもとで使用人から預かった鍵で開けてみるが、結局意味はなかった。机には引き出しも何個かあったが、鍵がかかっていて開かなかった。


さすがにクローゼットみたいな、服が入っている物は開けていないし、開ける勇気もない。なにより開けたいとも思わない。


結局この時思ったのはそれぐらいだった。というか埃とか塵とか、そのあたりが多すぎて碌に手が付けられなかった。ただ留意すべきなのは、さっきも述べた、絵画には必ず人の絵が載っていた。正確に言えば二人以上。少なくとも男と女のペア。多分俺と姉だったんだろう。だが、この時は姉の顔辺りに常に靄のようなものがかかっていてはっきり見えなかった、とだけ言っておこう。


部屋を出ると使用人が待機していた。


「おや、どうなされましたか?」


「いや、掃除をしたくてな。雑巾とか箒があればいいんだが……」


「それならこの私にお任せください……と言いたいところですが、今回は、アフト様がやってみてはどうでしょう?」


「?ああ、そのつもりだが?」


そう言った時に、使用人のひどく驚いた顔が印象に残っている。


「……どうした?」


「!……いえ、普段アフト様から聞きなれないお言葉が耳に入ってきましたから」


「そうなのか?俺はそんなに優しくない男だったのか?」


「いえ、優しくないというか、自分という存在が必要な時のみ場に出るお人でしたから」


暫く話を聞いていた。どうやら俺は効率主義だったようだ。性格は現実主義を反映したような物で、情に訴えるような行為を酷く嫌っていたようだ。ただ人の心を蔑ろにしてまで行動を貫くような人ではなく、多きを救うために少なきを捨てるような人間だった、と言えばいいだろうか。姉を除いては、らしいが。


それと、神を全くと言っていいほど信じなかったらしい。今俺がこの日記を書いている時期は宗教が確立していた時期だったから、神を信じない人と信じる人は半々といったところだろうか。理由を聞けば、「神とは弱さの象徴。自身の非力を他者に、ましてや空想に縋るなど滑稽至極」だと。


「なぜそこまで俺のことを知っているんだ?」


「それは、私は常にアフト様の傍に仕えてきましたから」


「……名前を聞いたことはあるか?」


「いいえ」


「何年使えてきた?」


「アフト様が生まれてからですから……10年ほどでしょうか」


「……」


申し訳ないことをしたと思う。こんな苦労人に名前も聞かなかったのかと思うと、自身の冷酷さを恨む。


「名前は?」


「セニステラです」


セニステラ。10年使えているだけあって若くはないが、礼儀・作法に関しては一級品だと思う。キャンサーとして目覚めた時点でそんな風格はあったし。


「……俺って権力ってあるのか?」


「ええ。皇子ですから」


「じゃあ、セニステラの休憩時間でも増やしてもらおうか」


「……これは恐悦至極ですね。ですが、アフト様のお世話を、休憩が必要なほど嫌だと思ったことはありませんでしたよ。お気持ちだけ受け取っておきましょう」


そう言ってセニステラは雑巾と箒を取りに行った。今書いている途中でも言えるのだが、相変わらず素晴らしい人を持ったと思う。

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それと、もう少しで受験があるので、文字数が短くなったり、投稿できない日が出てくるかも?

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