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7話:新星

「アフト。ちょっと用があるんだが。今から私の部屋まで来てくれないか?」


廊下を歩いていると、急にヴァイツ様が俺を呼び止め、自分の部屋まで来てくれ、と言われた。特にやらかしてはいないと思う。……因みになんだが、こうやってヴァイツ様から言われるのは初めてだったりする。ジークさんと、カーラとの時間も終わって、俺はただ部屋に帰ってるだけだったので、行かない理由はなかった。


「分かりました」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「すまないね。こんな夜中に」


「いえ!もう今日やることはないですから」


「そうか。ところでアフト。現代語で喋れるか?」


来て早々か。けど練習してきたから、少しぎこちないかもしれないが、大丈夫だろう。現代語で喋ってみる。


「ええ。ある程度は」


「……問題なさそうだな。これからは現代語で喋ってくれ」


「分かりました」


「さて、そんなことのために呼んだのではない。知っての通りここは開拓地だ。そして600年経ってもいまだ人が住めないような環境が残っている。そこで、私たちは不定期に遠征をおこなっている。これは未開拓の領地を探索し、開拓地、つまり将来の人々の永住の地とするために行っている。そしてその遠征がもうすぐ行われる。そこでだ。アフト、君には遠征に加わってもらいたい」


「もちろん構いません。むしろこちらから志願したいくらいです。詳細を聞いてもよろしいでしょうか?」


「ああ。遠征は探索する領域にもよるが、50人から500人の規模で行われる。今回は100人でそれを行う。探索といえど、そこの生態系を壊すわけではない。あくまで遠征は先遣隊なわけだからな。そこの土地の特色を調べることが第一だ。魔獣、星獣はある程度殺さざるをえないだろうが。また、遠征隊にも各々役割がある。今回は防衛隊と調査隊だ。アフトは防衛隊に入ってもらう。これは現状アフトがどれくらい戦えるかを知りたいからだ」


「構いませんが、私、ここにきてから戦ったことないですよ?」


「大丈夫だ。遠征は今日を含めて4日後に行う。それまでジークに稽古をつけてもらえ」


「え」


「まあ話すこととしてはそれぐらいだ。……あ、ちなみにカーラも参加する。カーラは指揮の補佐をやってもらうつもりだ。いずれ、アネモス家を継ぐだろうからな。さて、ここまでで何か質問はあるか?」


「いえ、特に何も」


「そうか。初めてだからいろいろあるだろうが、カーラもいることだし、うまくやるだろう。あ、指揮をとるのはジークではないからな、念のために言っておくが」


「分かりました」


「以上だ。わざわざすまんな」


「いえ、住まわせてもらってる身ですから、当たり前ですよ。では、私はこれで」


「ああ。吉報を期待してる」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なるほどね。だから私のところに来たんだ」


「はい。ぜひとも指導お願いします。師匠」


「はは、先生の次は師匠か。まあ、いいよ。分かった。ヴァイツ様の命だしね。やりますか」


「はい!」


「まず、星術を使えるようになろうか」


「どうやって使うんですか?」


「自分のマナを自分に注いでみて。そして何も考えないで。目を閉じたほうがやりやすいかも」


「はぁ……」


言われた通りにやってみる。体にマナを注ぐ……だが、何も起きない。確かに俺のマナが減っているのは感じるのだが。何も起きないので少し目を開けてみて、ジークさんの反応を探る。


「……何にも起きないね」


「マナが減っていく感覚はあるんですけどね」


「……なおさら分かんない」


どうやら、ジークさんも困っているようだ。


「試しにさ、私の腕、つかんでみてよ」


「いいんですか?」


「いいよ。仮にやばいことになっても、すぐ再生するし」


「じゃあ……行きます!」


その時だった。俺がジークさんの腕を触ると、ジークさんの腕が吹っ飛んだ。正直に言って俺も何が起きてるか分からない。ジークさんを見ても、驚きを隠せていなかった。


「うお!まじか!」


だが、ジークさんは慣れたように弾けた部位をすぐに再生する。ここで言う「すぐ」というのは、最低でも俺が言葉を発してから目の前の状況をはっきりと理解できるまでの数秒を指す。


「ジークさん!腕……その、大丈夫ですか?」


「ああ。安心して。もう治った」


しばし沈黙が流れる。


「アフト。さては……」


何を言われるんだろうか。死刑宣告が行われるのかと思えば、出てきた言葉は俺にとって馴染みのない言葉だった。


「新星?」


「新星って何ですか?」


咄嗟に聞きなおしてしまう。ジークさんもすぐに応えてくれた。


「ああ、言ってなかったね。100年に一度くらい、今ある11の星術以外の星術が現れることが稀にあるんだよ。まあ、すぐいなくなるから彗星とも言うけど。……それにしても新星かぁ~。いいな~。かっこいい」


「……一応言いますけど、私、あなたの腕ぶっ飛ばしたんですよ?」


「ああ、別にいいよ。言ったの私だしね。……いや、今はそんなことはどうだっていい。アフト!星術の特訓をしよう!」


「は、はぁ」


ジークさんの目が今まで見たことないくらい輝いてる。この人は理知的に見えて結構子供っぽいところがある。ま、それもジークさんのいいところだろう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ジークから聞いたぞ。アフト、新星だったんだな」


「いや、一応言いますけど、知りませんでしたよ」


帰ってきたらいきなりヴァイツ様に連行された。ジークさんの件で怒られるかと思ったが、どうもそうではなかったらしい。


「だろうな。実はな、私の部屋からこそっと見てたんだが、ジークの腕が吹っ飛んだとき、恥ずかしながら紅茶を吹き出してしまってな。あそこまでびっくりしたのは久しぶりだ」


「すいません」


「いや、いいんだ。むしろ嬉しいのだ、こちらとしては。新星は最近聞いたことすらなかったからな」


「そんなに珍しいんですか?」


言っても物を破壊するだけだけどな。


「ああ。地方や国にもよるが、クアラルでは新星の誕生は吉兆の証なんだ。それがここで起きた。これ以上幸先の良いことはない」


「そうですか。ま、それでヴァイツ様が喜ぶのなら、それで大丈夫です!」


「これは王に報告だろう。いい土産話ができた。詳しく聞かせてくれないか?」


「もちろん!私の星術の特徴はまさに破壊に特化してます。距離に比例して星術の効果も高くなっていくようです。近距離では簡単に破壊できますが、遠距離はマナがすぐになくなってしまいます」


「アフトはあまりマナがないようだからな。増やすしかないだろう」


「?見れるんですか?人のマナって」


「いや、魔眼がないと見れない。逆に言えば魔眼の持ち主は相手のマナの大きさを見れる」


「へぇ~。そんなものもあるんですね」


「それで?星術の名前は何というんだ?」


「決めていいんですか?」


「ああ。アフトしか持ってないんだ。アフトが決めていい」


そうか。自分で決めていいのか。なら、あれにしようかな。


「それなら、CANCER(キャンサー)でいいですか?」


「……いいんじゃないだろうか。アフトの名字も私たちしか覚えていないのなら、ここで使うのもいいだろう。・・・CANCERか。いい名だ」


「ありがとうござます」


「これからも修行に励むことだ」


「はい!失礼しました!」

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