66話:デート②
「アフト。ご飯食べに行きましょ?」
「いいけど……この近くの店のことは、あんまり知らないぞ」
「実は私もなんだよね」
「え。じゃあ……どうする?」
「まあ、たまにはこういう冒険もいいんじゃない?」
シャルロットは俺と似ても似つかないところがある。俺は出来るなら完璧を求めたい。けどシャルロットは冒険的。俺は臆病でシャルロットは勇気がある。……時々怖くなる。シャルロットが、俺から離れていくんじゃいかって。それが醜い嫉妬心とか、独占欲なのは分かってる。
「……そうだな」
俺の今の顔がシャルロットに見られていたかどうかなんて分からない。だけど、見られているのなら、容赦なく言ってほしかった。だって――やめだ。こんなこと考えても意味がない。せっかくのデートなんだ。楽しまないと。そうだろ?
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「アフト。どうだった?さっきの料理」
「俺はあんまり好きじゃないかも。ちょっと味付けが濃ゆいかな」
嘘だ。美味しくなかった。めっちゃ濃ゆい味付けが今でも舌を焼いている。そして辛い。何の材料を使ってるんだあれ。見た目も毒々しいし。しかもシャルロットは平気で食べてるしね。俺がおかしいのかもしれない。……あ、なんか寒気もしてきた。やばいかも。しかも汗もかいてきた。
「あはは。そうでしょうね。アフト、しかめっ面で食べてなかった?」
「げ。もしかして見てた?」
「うん。面白かったわ」
シャルロットは口元を隠して笑っている。なんか反論する気も失せた。
「シャルロットは……ああいう料理も食べ慣れてるのか?」
「まあね。でも、結構この街にはこういう料理はあると思うわよ」
ん?
「……あ。もしかして、知ってて連れてきた?」
「あ、ばれた?」
そういうことか。だから余裕な感じを出して食べていたのか。
「はぁ……まあいいよ。で、なんでこういう料理はこの街にあるんだ?」
「さっきも言ったけど、この近くの街には秘境がたくさんあって、そこからいろんな材料が採れるの。その材料が一癖も二癖もあってね。きちんと調理すれば美味しくなるんだけど……」
「え。じゃああの料理は適当に入れてたってこと?」
「悪く言えばそうね。でも、その何癖もある料理を好む人もいるらしいわ。だからああいうお店は潰れないんだって」
「ふ~ん。なるほどね」
「あ、でも薬草とかも入ってるんじゃないの?」
「え。じゃああれ漢方じゃん。料理じゃない」
そのツッコミが何故かシャルロットのツボにハマったらしい、しばらく笑い続けていた。しかも俺の顔を見るたびに笑うから、どうリアクションを取っていいか分からなかった。余りにも笑うので、適当な公園を見つけて、そこのベンチで休むことにした。
「あ~面白かった!」
「そんなか?」
「うん!本当に面白かった。だってアフトが漢方を食べてるって思うと……あ、やばい」
また笑い始めた。その綺麗で白い顔は、一気に真っ赤に染まった。ここまで来るとドン引きせざるを得ない。そんな時、涼しい風が吹いた。俺にとってもシャルロットにとっても気持ちい風が。
「気持ちいいな」
「ね」
シャルロットは顔を俺の肩に乗せてきた。
「……もう笑うのはいいのか?」
「いや、これでも必死にこらえてる」
確かに俺の肩に顔を乗せてから変な表情をしてる。
「ちょっとアフト。何とかしてよ、これ」
関係なさすぎる。さすがにそんな力は……あ、そうだ。
「うん?どうしたのアフト。急に顔を近づけて――」
そのままキスをした。その綺麗な桜唇に。
「え」
そのままシャルロットは動かない――と思ったら急に顔が真っ赤になった。そして慌ててこっちを見る。
「ア、アフト!?」
「どうした?」
「ど、どうしたって……アフト、あなた自分が何したか――」
シャルロットの目は未だにぐるぐるしている。さっきの言葉も辛うじて出た言葉なんだろう。もう一回、その唇に――。
「……」
ついに何も喋らなくなった。顔を真っ赤にしながら、ずっと慌てている。口を開いて「ア」って言ったらすぐに閉じて、手振りも忙しなく動いている。時間も経ったから、シャルロットの手を握ってベンチを立つ。シャルロットは何の抵抗もせず、俺の後ろをついて来た。けど――
「……バカ」
その言葉だけ、ずっと脳内に残っている。けどシャルロット、君は知らないだろう。俺の顔の方が、何倍も熱く、真っ赤なことぐらい。君より先に立ったのは、この顔を見られるのが恥ずかしいからなんだ。
「……随分と熱々だね~」
「コーパス。もっと右に」
「え~。もういけないよ」
どうやら、ある双子には見られていたらしいが。
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夕陽の綺麗な時間だった。その太陽が眩しくて、手で太陽を隠すが、如何せん自分たちが通る道の先に太陽があるので、受け入れることにした。シャルロットは手を繋いだまま離そうとせず、その影が道路にクッキリと残っていた。
「あ!見てみてアフト」
「ん?」
シャルロットが指を指した先には、音楽のストリートライブがあった。
「見に行かない?」
「いいよ、行こうか」
たった一人で、ヴァイオリンを持って演奏する人。楽譜なんて見当たらない。目を閉じて演奏している。
「「……」」
そこに集まっている観客は、誰も喋らない。もちろん俺たちだってそうだ。そのアーティストを見ていると、ムジカさんを思い出す。彼の場合は一人で完結していたが、この人の場合は、他に誰かが居たほうがいい気が……余計なお世話か。
俺はシャルロットを置いて、アーティストの前に置かれている帽子に銀貨を何枚か入れる。そしてまたシャルロットの場所に戻ると、そのアーティストがウィンクをしてきた。この人が女性だったのがまずかったのかもしれない。シャルロットが腕を絡ませてきた。そして帰るまで、二度とそれが放されることはなかった。
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