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54話:小さな街〈セウェラーエ〉

アフトが連れ去られて二日ほど遡る。


「アフトが連れていかれた!?」


「はい」


そこにいたのはシャルロットとバイエル。シャルロットは走ってここまで来たのか、汗が頬を伝っている。髪も整えたのが風で少し崩れている。


「どういうことだ?そもそもアフトはただの素人にやられるほど弱く……いや待て。それならなんでシャルロットはここにいる?アフトが狙いだったのか?」


「分かりません。私がここに来たのはアフトを捜索してほしいからです」


バイエルはシャルロットの目を一瞥した。バイエルの表情は苦しそうだった。一息ついて話す。


「残念ながら無理だ」


「何故ですか!」


シャルロットが机を両手で叩いて叫ぶ。バイエルは驚くことはせず、諭すようにシャルロットに言う。


「アフトの貢献が私にとってでしかないという事だ。野党はアフト捜索に非協力的だろう。だから――」


バイエルはシャルロットの焦った表情の顔に指を指す。


「シャルロット。君がアフトを探すんだ。何人かは貸せる。そしてこれが成功すれば微力ながらも力を持っていることを示すことになる。それともシャルロットにとっては――」


バイエルは息を整える。


「どうでもいい人なのか?恩を返したいとも思わない人なのか?」


「……やってみます」


その苦悶の表情からでた言葉は、覇気は無くとも、その目は噓偽りではないことを示していた。


「ああ。それでいい。部屋で待ってろ。後で連絡する」


そう言われたシャルロットは部屋から去っていった。急いでいたのはただ焦っていたからか、それともこれからどうしようと思案するためか。どちにせよシャルロットは本気のようだった。バイエルは部屋にある窓へと視線を向けた。


「……ユークリッド。君は一体なにを企んでいる」


その呟きは誰にも聞き取られることなく、瞳は何も見ていなかったに違いない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――カエクス・グラヴィット。与党に属する。著名な人らしい。革新的な志向と効率を優先する姿勢は政治に対する見方を変えさせた。しかし当人は相当なタカ派であり、それは彼を守る手段にも表れていた。妨害工作には死でそれを償わせた。反対派には社会的な死を。まさに秩序そのものだ。


「お兄ちゃん。立ち読みは困るんだが」


「おっと。すいません。これもらえますか?」


「いいけどよ。お前さん、そんな本を立ち読みって、頭おかしいんじゃねえの?」


今俺が見ている本は政治的な物だった。ダースの政治についてよく載っている。中身もそれ相応にぶ厚く、少し中身を見てから買おうと思っていたのだが、この有様だ。どうやら10分以上読んでいたらしい。


「ええ。よく言われます」


笑ってみる。すると気味が悪かったらしい、苦笑いをされた。


「なんで今……まあいい、買うんだろ?それ」


「ええ。どれくらいですか?」


「これくらいだ」


店主が値段を見せる。そこまで高くはなかった。お金を払い、そのまま店を出た――いや待て。それは失礼なのではないか。立ち読みをしてしまったのに何もしないのは。もう一度店に戻った。


「?どうした?」


首をかしげる店主。まあだろうな。


「いえ。立ち読みしてしまったので。追加のお金をと思いまして」


「……やっぱお前頭おかしいよ。まあお金は嬉しいがいらねえ。ほら、見てみろ」


店主が指を指した先には剣を携えた人。いや、剣を携えるのは何ら不思議じゃない。問題はその服だ。統一されたデザインと色。それに腕に腕章をつけている。間違いなく憲兵だ。


「そこまでここは厳しいのですか?」


「ああ。残念なことにな。どんな礼品も、必要以上も以下も得れないんだ」


「厳しいですね」


ありきたりの言葉を返す。すると店主は肩をすくめた。


「ああ。間違いない。平和なのはいいが、面白くはないな」


「そうですね……では私はこれで」


店を出て、改めてこの街を見る。規模は小さい町だが、日常生活には困らないだろう。しいて――いや、間違いない欠点を言うのであれば、その自治の厳しさに他ならない。


「セウェラーエ……」


それがこの街の名前。カエクス・グラヴィットが統治する地域の内の一つ。俺がやることは単純な殺し。ただカエクスを殺せばいい。だが、殺して混乱が起きるのは不味い。それにここの生活も見ておきたい。この任務は一か月ほどで終わらせるつもりだ。前者を達成するのは時間をかけなければ難しい。それに何故殺せばいいのかもわかってない。つまり色々準備をしておきたいというわけだ。


「……宿に戻るか」


正直に言えばびっくりしている。シャルロットと別れたのに俺の心には何も浮かばない。ただの普通の心。いつもと変わらない視界。そう、俺には何の違和感も湧かなかった。


そのまま俺は宿に戻ろうと――いや、フードを買おう。顔を見られたくないし、この眼帯は目立つ。俺は宿に向いた足を回転させ、近くの服屋を探し始めた。


服屋を見つけた。が、その前で何か騒動が起きているようだ。少し野次馬として覗いてみるとしよう。


「待って!放してください!」


叫んでいるのは女性か?もう少し状況が欲しいな。身なりは普通――いや、遠目には普通に見えるが、服の端のほうが汚れたり擦り切れたりしている。ズボンもだ。女性が持っている服が綺麗なだけあって対比がある。それ以外は特にこれと言って変な状況には見えないが。


「喋るな。お前、盗んでいっただろ」


もう一人は憲兵か。手首を掴んでいる。野次馬は俺ぐらいだな。あまり珍しくないのだろうか。


「ちゃんと買ったんです!なんでお店の人に聞かないんですか!」


「お前のような身分の物がこんなもの買えるわけないだろ。それに店員ですらそんな記録は無いと言っていたぞ」


「そ、そんなわけありません。絶対に――」


「これ以上喋れば憲兵に対する妨害とみなすぞ」


ああ。そう言われると何も言えないわな。店員は何もなかったかのように接客してるな。目立つのは嫌だが、仕方ない。助けに――そもそもどっちが正しいのか分からないな。憲兵の言い方に棘はあるが、真実の可能性はまだある。店員に聞いてみるか。そう思って店に入った。


「失礼。ああいうことはここではよくあるんですか?」


そう聞くと動きが止まった。


「これは失礼。驚かす気は無かったんです。ところで、私に合うようなフードはありますか?」


そう言うと店員は無口に手招きをし、俺を案内した。するといくつかの硬貨を差し出す。見ると銅貨だらけだ。何より汚れている。


「これは?」


「先ほどの女性の払ったものです。これでは到底足りません」


「そうですか。……先ほど憲兵は身分の話を出していましたね。どんな身分がここにはあるんです?」


俺は店員が案内した場所にあったフードを鏡を見て試着しながら聞いた。


「旅の方ですか。主に二つです。ここの自治に賛成か、反対か」


「ああ。なるほど。そういうことでしたか」


「ええ。私には何故自分の生活を切りつめても意見を主張したいのかわかりませんが」


店員は苦笑いしながら俺に言った。


「……これをいただけますか?」


「少々お高いですよ。他のものと比べても」


「構いません。金貨何枚ぐらいですか?」


「一枚です。……裕福なんですね」


「そうじゃなきゃ旅なんてできませんから」


俺は苦笑いをしながらそういうと、店員も「そうですね」と苦笑いをして返した。俺は金貨を渡す。


「?これはクアラル金貨ですか。少々お待ちを。換金してきますね」


「ああ、そうでしたね。失礼。こちらを」


俺は店員を呼び止め、ダースの金貨を渡した。


「毎度ありです」


「ありがとうございます。それではまた」


俺はそのまま服屋を去った。もう騒動は無くなっていた。

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