52話:手紙
「さて、寮に戻ってきたわけだけど……シャルロット、これからどうするかは決めたか?」
今俺たちは寮に戻ってきた。理由としてはバイエル様の家の行くための準備と、これからのことを二人で相談するためだ。
「バイエル様は私の影響力を高めるために、どんな場所でもいいから表にでたらどうだ、って言ってたから……」
まだ悩んでるらしい。表舞台に立て、か。
「シャルロット、学校って学級委員とかないのか?」
「学級委員?あると思うけど、なんで?」
「こういうのは慣れだと思うんだ。学級委員になれば絶対前に立たないといけないし、いくらか人との繋がりもできるだろう?小さいことからやればいいんじゃないか?」
「理にはかなってるけど、学級委員はすでに決まってるわよ?」
「え」
そうか、それもそうか。……というか学級委員じゃなくてもとりあえず誰かと交流することが必要なんだよな。それを言った方がいいのか。
「ああ……学級委員っていうのは比喩でな。その、とりあえず練習として学校でいろんな人と交流してみたらどうだ?」
「あ~、なるほど。いいわね、それ。やってみようかしな。ただ、アフトもついて――いや、見守っててね」
「……ああ。そうするよ」
見守っててね、か。やっぱりシャルロットも成長してるんだな。
「アフトはこの後どうするの?」
「ああ、手紙を出しに行かないといけないんだ」
「そういえば何か書いてたね。……アフトが普通の人じゃないってのは分かってたけど、それでも王家と繋がりがあるなんて驚きよ」
「まあ王家との繋がりというか、王家の大切な家との繋がりがあるというか……」
「それでもすごいわよ」
「そうか?じゃ、行ってくるよ」
「ええ。待ってるね」
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ギルド。ここの管理は国が管理してるわけじゃない。多分手紙も出してくれる。クアラルのギルドマスターには貸しがある。本当はしたくはないが、状況が状況だ。しかたないだろう。足を踏み入れる。
「こんばんは――アフト様ですか。今回はどのような用件で?」
受付嬢。最初にギルドに言った時に会った人。俺は眼帯を取る。受付嬢は二つの意味で驚いている。何故今眼帯を外したのか。そしてその眼の異質さ。あまり目立つマネはしたくなかったが、おかげでいいものが見えた。やっぱり、俺の思ってた通りだ。金貨をその受付嬢に渡す。
「情報を。……いいかな?」
「……ええ」
少し戸惑いが見える。だろうな。だが仕方ない。このまま奥の部屋まで案内してもらおう。
「それで?今回はどんな情報――」
言わせない。俺は神器を抜き、受付嬢を壁際まで押し倒した後、剣の刃を首元に当てた。
「!な、なんです~~」
もう片手で口を押さえる。喋らせない。これ以上騒がれても困る。
「喋るな。喋ったら殺す」
首を圧迫したのが原因か、少し目が赤く涙目になっていた。受付嬢はなにも喋らない。やっと言いたかったことが言える。
「お前、誰だ?」
さすがに口を押さえたままでは意味が無いので口から手を外す。しかしそれと同時に剣の刃を首に血が少し出るまで押し込んだ。受付嬢は息を思い切り吸い、喋りだす。
「な……急に何を言い出すと思えば。ただのギルド職員で――」
さらに刃を押し込み、俺は言う。
「違うな。俺がお前に初めて話した時、ダースの政治について詳しく教えてくれたな。なぜそこまで知っていた?」
「そ、そんなもの誰も知ってますよ!だいたいそれだけで疑うのはおかしいでしょ!」
「ではもう一つ。”何故お前のマナは体全体を満遍なく覆っている”?」
「!」
やっぱり。いろんな人のマナを見てきたが、マナが体全体に器用に回っていることはなかった。体にマナが回るのはおそらくマナの使用時。そしてマナが体全体を覆っているという事は――
「アルフェルグ、だな」
「……これだから魔眼は苦手なんだ」
観念したかのようにそう呟いた。俺の腕に必死に抵抗していた手はだらんとしている。
「魔眼ではないんだがな」
「どっちにしろいいさ」
「さっさと変身を解いてくれ」
「はいはい」
受付嬢は変身を解いた。その姿は長い髪を持った女性。俺よりも背が高く、赤い髪を持っている。
「そんな口調なのか」
「だれが客の前でこの口調で言うかよ」
「それもそうか」
「それで?用は何だ?」
「要件はあるが……その前にお前の正体をと思ってな」
「ハミルトから来た内通者みたいなものさ。そう思ってくれて構わない」
「随分あっさり言うんだな」
「これ以上は言えない」
「別にいいさ。……この手紙をクアラルのギルドマスターに出してほしい」
「手紙?何故港で出さない?あそこだったら手紙を外国当てでも取り扱ってるはずだが?」
「検閲は避けたいのさ」
それに普通にギルドに依頼すれば断られるのが目に見える。
「そうか……だが、随分時間がかかるぞ?多分一か月後ぐらいになる」
「構わない」
「もししなければ?」
「命は無い」
「分かった。しておこう。証拠みたいなものは出した方がいいか?」
「あれば。……随分手際がいいな」
「無駄時にはごめんさ。相手のご機嫌をとるのはおかしくないだろ?」
その笑みから少し八重歯が見える。この状況に慣れてるな。何かあったんだろうが、突っかかる気もない。このまま穏便に済ませたいな。
「それもそうだな」
「もちろん私がここにいるのは誰にも言わないんだろうな?」
「このことを言わなければな」
「分かった」
「それじゃ」
俺はそのまま部屋から出た。これで手紙の件はうまくいった。後はシャルロットの支援だけ。……ふと依頼板を見る。そこにはいつものように依頼が貼ってある。ただそこにはいつもとは違うものがあった。その依頼の内容は何も書かれていない。おそらく依頼人に合わなければ分からないだろう。機密性の高いものはそういう手段で伝えることもあるらしい。だが、その依頼者が――
「ユークリッド?」
聞いたことのある名前だ。名字が書かれてないのが気になるが、それでも――
「……シャルロットになんとか言えば、時間は作れそうだ。なによりシャルロットも子供じゃない。それに俺のことが、ユピテルのことが少しでも分かれば、それ以上の価値はある。報酬が書かれてないのが気になるが……行くしかないだろう」
俺はその依頼の書かれた紙を依頼板から取り外した。制限時間も書かれてない。俺はこれを受付までもっていった。
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