5話:世界の常識・歴史
「おや。随分と仲良さげだな」
客室に昼食をもらいに来て、偶然会ったと思ったら、開口一番に言うことがそれですか。まあ、娘と手を繋いで帰ってきたらそんな反応もしますか。
「カーラがですね。その、手を離してくれなくて」
まあでも仕方ないよね。星術のせいだから。……正直に言えば嬉しかったけど。
「?もう解除してるわよ?」
「……」
なんで先にそれを言わないの?ねえ?怒っていい?
「……アフト。気持ちはわかるぞ」
ああ。今はヴァイツ様の思いやりが身に染みる。
「……アフト、カーラ。もう昼食の用意はできているから、二人で食べてきなさい。私たちは少し席を外す。……まあ、二人とも仲がよさそうでよかった。今後ともうまくやるように。ジーク。着いて来い」
「?二人のお世話はいいのですか?それに授業の件も」
「客室には別に使用人を呼んでおいた。ジークが行く必要はない。それにアフトが迷ったとしても、カーラが対処するだろう。問題ないさ。授業の件は……そうだな。二人でやれば何とか間に合うだろう」
「承知いたしました」
ああ、二人とも去っていく。まだ言いたいことがあったのに。まあ、後で聞いてもおんなじか。さて、そんなことより今日のご飯ですよ。今日のご飯は?パンに謎の肉料理に、副菜としてのサラダと。美味しそうですね。いつものことだけど。この肉料理はなんなんだろう。
「カーラ。この肉料理はどういう料理なの?」
「これ?ピカタっていうの。薄く切った仔牛の肉をバター焼きするの。私は結構好きよ」
ふ~ん。食べてみようか。
「グフッ、ゴホッ!」
ちょ、ちょっと待って!?これめっちゃすっぱくない!?これほんとにおいしいの?そもそも飲み込めるかすら不安なんだけど。
「……ねえ、カーラ。これめっちゃすっぱくない?」
「そりゃあ、レモンとケイパーを同時に飲み込んだらすっぱくはなるでしょ」
「レモンとケイパーって何?」
「それも知らないの?レモンはその黄色くて輪切りにされてるやつ。さっきも言ったけどかなりすっぱいわよ。ケイパーはその緑で丸っぽいやつ。それもすっぱいわよ。レモンと比べたらそんなだけど。……バターはさすがに知ってるわよね?」
「バターは知ってるよ」
「そう。ならいいわ」
二人とも会話が終わると、これ以上特に話すこともなかった。アフトが食べ終わるころ、カーラの代わりにジークが居た。
「ああ、ジークさん。来てたんですか。一言言ってくだされば」
「いやぁ、人がせっかく楽しみに食べているのを邪魔するのはねぇ」
「うっ。いつから見てました?」
見られてたか。ちょっと恥ずかしいな。まあ、レモンとケイパー食べてるところを見られてないならいいけど。
「んん?そうだね~。カーラ様が退出なさってからかな~」
よかった。あれは見られてなかった。……そういえば、ジークさんの職業ってなんなの?ヴァイツ様とカーラには今のところ敬語っぽいし。
「ジークさんの職業って何なんですか?」
「ああ、そういえば言ってなかったね。私はこの家の執事長みたいなものだよ。基本的には使用人をまとめ上げることが仕事かな。どうして?」
「カーラとヴァイツ様にだけ敬語なのが気になって」
「ああ。なるほどね。まあ、雇ってもらってるから、仕方ないね。私としてはアフトと喋るような感じが好きなんだけど」
「私もそっちのほうがいいです」
「分かった。じゃあ、このままにしようか。さあ、アフト、授業の時間だ。ついてきて」
「は~い」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――「ま、アフトも知ってる通り、アフトはこの世界の常識にかなり、というか全く知らないわけで。そこで、私がそれを最低限困らない程度までもっていこう」
「いよっ!頼みます!」
「まず、アフトと私たちの言語が違う」
「え?」
じゃ今までどうやって喋ってたの?てか今は?ヴァイツ様とかカーラはどうやって喋ってたの?
「驚くのも無理はない。アフトが喋っているのは神話語。神話語は神話時代にあった言語だ。一方、私たちが喋っている現代語は神話時代から時を重ねて変化してきた言語。まあ、これだけ聞いても何にも分からないと思うし、歴史から説明していくよ」
「は~い」
ま、教えてくれるならいいや。
「この国、クアラルでは、歴史は大まかに”神話時代”、”古代文明時代”、そして”現代”と区分される。神話時代の始まりを0年として、神話時代が0~1000年。古代文明時代が1000年~1500年。そして現代が1500~、となっている。ちなみに今は1600年だね」
「先生!一年って何日ですか!」
「ああ、それも知らないのか。一年は500日。一か月50日。週は一か月に5週ある。だから一週間は10日だ。一日は24時間。ただ、一週間は曜日っていうものがあって、初めの日から順に、陽曜日、水曜日、金曜日、地曜日、火曜日、木曜日、土曜日、天曜日、海洋日、冥曜日だね」
そう言われればそんなだった記憶もある。
「ありがとうございます!」
「じゃ、話を続けるね。ここからは各々の時代の特徴について話していくよ。まず神話時代。神話時代はどんな分野をとっても最も栄えていた時期だ。実際、今ある12――いや11か。11の国の起源はここにある。そして星術も」
なんかさ、ここまで星術のことについて焦らされると腹立ってくるんだけど。
「星術もですか?」
「ああ。”アストラム”。この世界の秩序を築いた者たち。国や星術については明日詳しく話すから、今は聞き逃してほしいんだけど、ほとんどの国の一番偉い人が王と言われて、その資格に星術の卓越した強さの条件があるのはアストラムの名残ともいわれている。星術はアストラムらが持っていた”シードゥス・ヴィア”の分配された姿だ」
うわー、めっっちゃ気になる。ここまでくるとわざとだろ。まあ、聞き逃すけども。
「アストラムらは完璧に近かった。人々を惹きつけるカリスマ。先読みの力。性格の良さもね」
「随分と褒めますね。そんなすごかったんですか?」
「現代で発見される神話時代の書物はアストラムが半分ぐらいあるんだよね。だからとりあえずアストラムがすごいっていうのは確定事項らしい」
「へぇ~」
「まあでも、星術が分配されてたり、いまアストラムがいなかったりしてわかるけど、アストラムらの統治してた時代は500年?ぐらいだったらしい。そこでアストラムはシードゥス・ヴィアを分配して、民に統治を任せたらしいよ。なんでも民が自由と民主体の政治を求めたかららしい」
「500年ぐらいなんですか?でも、神話時代は終わりじゃなかったんですよね?」
「ああ、その先も順調だった。ただ、”リーゼン”という国には皇帝がいた。その皇帝が神話時代を終わらせた」
「皇帝ですか?王じゃなくて?」
「ああ。正直、リーゼンについてほとんど情報がない。今確実に言えるのは、リーゼンのアストラムは皇帝と呼ばれていたこと。そしてリーゼンが神話時代を終わらせたこと。この二つだけだ。星術も皇帝のことも歴史も全く分からない。何ならリーゼンの星術とか見かけたことないし、聞いたこともない」
「そんな少ないんですか?」
「これは今リーゼンがイゼルーの王に間接統治されて事実上誰も入国できないからだね。……ごめんね。分からないことばかりだろうに。今は飲み込んでほしい。一日で説明するには時間が足りなくてね。」
「分かりました」
「さて、そんなアストラム公認の皇帝だったが、何を考えたのか、全世界の星術をほぼ0まで衰退させた」
「は!?話飛びすぎじゃないですか!?」
なんか急にとんでもない話ぶち込まれたんだけど。脈絡が全くないんだけど。
「ま、そんな反応にもなるよね。申し訳ないけど、これに関しては誰もわかんない。なぜ、どうやって、その全てが。今も調査は行ってあるけど、さっき言ったみたいにリーゼンはイゼルーの王が入国を事実上禁止してるんだよ」
「その”事実上”ってなんですか?」
「ええとね。リーゼンに行くにはイゼルーの王を倒さないといけないんだけど、これ、無理なんだよね」
「そんな強いんですか」
「うん。多分世界で最強なんじゃない?詳しくは明日ね」
「あ、はい」
「ま、そんなこんなで全世界の星術はほとんどない状態までなっちゃった。ここが神話時代の終わり、そして古代文明時代の始まり。古代文明時代の特徴はずばり一個。”アーティファクト”の開発」
「アーティファクト?」
「ああ。星術に頼らず何とかしようってなって作られたのがアーティファクト。不幸中の幸いか、マナは無事だったからね。マナを燃料としてアーティファクトは動くんだ。あとでアフトにも見せてあげるよ」
「は~い」
「そして年数を重ねるごとに、星術は回復していった。そして500年たったころ、国々は続々と古代文明時代の終わりを宣言していった。ここから現代に入る。そしてアーティファクトは今でも利用されて、世界を便利にしていっている。……あ、そうそう。アフトの言葉と私たちの言葉の相違だけど、あんまり複雑じゃないよ。現に私がこんな風に喋れてるからね。アフトもある程度常識を教えたら現代語を理解してもらうよ」
「ちなみに難しかったりしますか?」
「そんなに心配しなくてもいいよ。さっきもいったけど、すぐ使えるようになるよ。最低でも学校までには使えるようにさせるさ」
「頼もしいです!」
「ま、こんなもんかな。なにか質問はあるかい?あ、国、星術以外でね」
くそっ。先を読まれた。まあいいや。
「特にないです」
「あら、ほんとに?まあ、気になることがあればいつでも聞いてね」
「はい!」
「じゃあ、今日の授業はこれでおしまい。また明日会いましょう」
「ありがとうございました!」
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ちなみに夕食は貝、エビを使ったペスカトーレという料理でした。いつも通り美味でした。
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