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49話:南十字

「シャルロット。そろそろ行こうか」


「ええ。そうしましょう」


昼食を食べ終わって、これ以上話すこともなくなったから、シャルロットにそう告げた。もちろん満足しなかったわけじゃない。シャルロットの様子を見てそう言ったわけだ。


「シャルロット。ここからどれくらい時間がかかりそう?」


「う~ん……30分ぐらい?」


「長い……のか?」


「いいじゃない。私はアフトと喋れて幸せよ?」


「……それを言われると何もできないじゃないか」


「うふふ」


そんな会話をしながらしばらく――15分ぐらいだろうか、歩いて行った。もちろんその道中の景色もきれいだった。ダースが観光業が栄えていたと言われても別に違和感はない。そう、そんなことを思っていた時だった。


「アフト。そしてシャルロットだな」


不意に後ろから声が聞こえた。俺は急いでシャルロットを庇い、その声の主の方を見る。その主は周りに四つの、色がそれぞれ違う球体を浮かせていた。赤、青、黄、緑。長い髪の色は藍色。目つきは鋭く、俺から目を逸らそうともしない。おそらく女性だと思う。


「誰だ」


「メリーディ・クルックス」


その名前を聞くと、シャルロットがハッとして、小さく、独り言のようにこう呟いた。


――新星


その言葉を聞くとメリーディは口角を上げた。その言葉は俺にとっても少し馴染み深いものではあった。まあ、俺の星術は新星とかではなさそうだが。


「知ってるなら話が早い。野党に与するものは殺すべきだ。誰であろうともな」


メリーディはそう言うと、突然アフトに向けて赤と緑の球体を、シャルロットには青と黄色の球体を移動させた。俺はメリーディのことを知らない。防ぐしかなさそうだ。今赤と緑の球体は俺の体の前と後ろをお腹を貫通するように存在している。


「アフト!避けて!」


シャルロットの言葉の意味は分かったが、正直相手の星術の種を知りたいというのが本音だった。俺は神器を鞘から抜き、その球体を切ろうとするが――


「本当に私のことを知らないのだな……アクルックス!ガクルックス!」


そうメリーディは言うと、赤と緑の球体が同時に光始めた。球体を切ろうとするが、その前に神器がその線が繋がるのを防いだ。


「!?」


メリーディはこの様子に戸惑いを隠せていない。よし、このまま――そう思った時だった。


「アフト。動けばシャルロットを殺す」


シャルロットはもう一方の青と黄色の球にすでに囲まれていた。正直俺にとってこれが何を意味するかは分からないが、状況が不味いのは分かる。


「アフト……」


シャルロットは動けないし、戦いにも強くないだろう。万事休すと思っていた。その時だった。メリーディ向けて、幾つかの球――マナが飛んできた。おそらくこれはアウストラリスだ。色のついた球体は自分を守るためか、メリーディの方にすべて飛んで行った。メリーディは後ろに飛ぶ。


「メリーディ!こんな感動の再開は悲しいけれど、調子はどうだい!」


「!カウス!」


カウス――そう呼ばれた男の見た目は金髪。奇抜な服を着ている男だった。だが別にダサいわけではない。なによりイケメンである。少し悔しくなった。その軽快な声の調子が少し気持ちよく感じる。


「やぁ。君がアフトだね。そしてそこの青い髪の女の子がシャルロット。あってる?」


俺もシャルロットも「はい」と答える。


「よかった。死んでたら大変なことになってたからね。……それで、野党に入る――」


そう言うとメリーディは4つの球をこちらに向かわせてきた。


「おっと……今は聞く時じゃないようだ。アフト。戦えるかい?」


「ええ。行けます」


「よし!それじゃあ行こうか!」


カウスのやけに軽い声と


「まとめてぶっ潰してやる」


メリーディの重圧のある声が双方の性格をよく表していた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「カウスさん。メリーディの星術は「カウスでいい」……カウス」


「はは。ありがとう。敬語は堅苦しくて嫌なんだ。……メリーディの星術だったね。簡単に言えば赤と緑、青と黄色の球体が直線状に並べば、その線分上はすべてを断絶する領域になる。それと十字に結ばれてもだ。ただ、十字は領域じゃなくてその十字上の空間になる。だから十字だけは起こさせたらだめだよ」


「え?」


だからシャルロットは「避けて!」って言ったのか。なるほど。


「まあ、僕的にはアフトが防いでたのが驚きだけどね……その剣はどういう剣なの?」


「神器だ」


「……なるほど。クアラルでリヴァイアサンを神器で殺した人間がいるって聞いてたけど、アフトのことだったのかい」


「知ってるのか」


「ああ。なんせ倒したのがリヴァイアサンだからね。……アフト。シャルロットは僕が守る。メリーディを倒せるか?」


「ああ」


「よし!アフト、任せたぞ!」


新星と神器。分は均衡。……行くか。


走り出すとメリーディは早速赤と緑の球体を俺に投げてきた。メリーディの星術の発動を防ぐことはできない。俺の場合は神器があるが、それでも球自体を妨害することはできない。……遠距離では強いが、近距離だと空間把握が難しくなるだろ!


メリーディは俺が行くところを予測しながら四つの球体を二つに分けて器用に配置し、見えない領域を作り出してる。なにより死角からの攻撃がうざい。だが神器で防げるのは把握済み。――ほら、目に見えて距離が近くなっていく!このまま行けば――


「クルックス!」


そうメリーディは叫んだ。そうだ。失念していた。球体は二つでペアを組む必要はないことを。けど、打開する策はある。確かに領域は、空間は見えはしないだろう――普通の目ならな!


「サイス!」


眼帯を外す。十字架も、領域が見えれば、影響のある空間が見えれば怖くない!この場合サイスのような巨大な武器の方が空間を防ぎやすい!このまま行ける!


「メリーディ!」


「っ!」


そのまま、俺はメリーディの腕を切った。後ろからもカウスが近づいてくる音が聞こえる。俺はサイスをメリーディの首にかけた。


「アフト。待ってほしい」


「?カウス。どうした?」


「メリーディを逃がしてやってほしいんだ」


……何言ってるんだ?こいつ敵だぞ。なんでそんな表情で言えるんだ?実際メリーディも驚いてるし。


「なんでだ?」


「僕の友達だからさ」


友達?思わずメリーディの方を見る。するとメリーディは歯を食いしばっていた。


「……ふざけるなよカウス!」


「アフト。頼む」


……まあ、助けてもらったしな。俺はサイスを剣にして、鞘に戻した。


「ありがとう。感謝するよ」


「まあ、助けてもらったしな」


振り返ると、メリーディはすでにいなくなっていた。シャルロットも無事だし、結果的には大丈夫か。

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