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47話:古の記憶

目覚めた場所は家がポツンと建っている場所だった。地面にも整備された道のようなものは存在せず、人も斑にいるだけだった。なによりここはアフトが見慣れた場所ではない。つまり、


・・・夢か。


アフトは心の中でそうつぶやきながら、また自分が夢の中にいることを悟る。しばらくどうしようか考えてると、誰かが自分の方に来た。


「お久しぶりですね!」


「・・・君は。」


アフトはここで違和感を感じる。この声は今までの夢の中で聞いてきたような声じゃないこと、この言葉は神話語と少し差異があること、そしてそれを自分が聞き取れていることを。


「ええ!あの時はお世話になりました。ユピテル様!」


・・・ユピテル?・・・この記憶は俺の物じゃないのか?なんでユピテルの記憶が。


「よかった、無事で。・・・魔獣はもう大丈夫なのかい?」


「ええ。ユピテル様が全て殺してくれたおかげで、村への危害もなくなりました。」


「・・・わざわざそれを言うためにここに来たの?」


「それもありますが・・・お礼をと思いまして。」


その村人はユピテルに剣を渡した。


「・・・かなり上質なものだね。もらっていいの?」


「もちろんです!」


「ここまで遠かっただろうに。ありがとう。」


「ユピテル様が一言言って村から出てくれれば、こんなことにはならなかったんですけどね。」


「あはは・・・ごめんごめん。」


呆れたように村人は言う。もしかしたらこれは一回目ではないのかもしれない。


「・・・そういえば、ユピテル様の星術は見たことが無いですね。」


「そうかな?人と同じ数だけ星術はあるでしょ。」


人と同じ数だけ?11個じゃないのか?・・・これ、いつの時代だ?


「それでも少しは被るものなのです。特に世界にごまんとある共同体では。私はユピテル様のように美しい星術を見たことがない。」


共同体?国じゃなくてか?


「そう?気持ちはありがたく受け取っておくよ。」


村人はそれを聞くと、次の瞬間には暗い表情を見せていた。


「・・・ユピテル様は何故私たちのような者まで救ってくださるのですか?」


「・・・さぁ?僕は僕の信念に従っていくだけだからね。」


村人は未だに納得する表情を見せない。


「そうですか。・・・そういえば、もうすぐここを統治する人が来てくださるそうです。」


「統治する人?」


「ご存じないのですか?」


「うん。教えてくれない?」


「バルカンという名前です。なんでもかなり才能があるらしく、ここらの地域一帯は彼の支配下に入るそうですよ。」


バルカン!?・・・ここ、もしかしてダースなのか?それにしては家はともかく、人とかもあんまりいない。というか栄えてる様子が全くないんだが。というかバルカンが生きてる時代って、神話時代の最初だろ。ユピテルって、何者なんだ?


「へぇ~。よかったじゃん。・・・そろそろ僕は行こうかな。」


「また、旅を続けなさるのですか?」


「うん。僕はこの世界が好きだからね。」


「・・・そのお姿でですか?」


村人は歯を食いしばって言う。しかし、ユピテルはその表情に気づいていながらも、飄々としていた。


「うん。何か変?」


「変ですよ!気づかないんですか!?服はボロボロ、肌は傷ついて、髪だってぼさぼさです。ユピテル様の名を聞くときには、常に善人という言葉が付き纏ってる。しかし、その姿は・・・。」


「・・・ごめんね。」


アフトは改めて自分の姿を、ユピテルの姿を見る。その姿は、本当にボロボロだった。まるで敗残兵そのものだった。


「分かってるのなら、なぜ求めないんですか!?ユピテル様が求めれば私たちは何だってしましょう!ユピテル様は魔獣討伐のことしか口に出しませんが、治水をしたのも、農作物の植え方や刈り取り方も、全てユピテル様が教えてくれた!なのに、なんで・・・。」


「・・・僕は、もう行くよ。」


ユピテルの足はアフトの意思とは反対に動き出す。ユピテルがこの時どう思っていなのかはわからない。けれど、ユピテルが苦しい過去を担ってきたのは、間違いなかった。


「・・・ユピテル様。”あなたは人ではありません”。きっとバルカンというものは王になるでしょう。しかしあなたは王よりも異質だ。・・・私にはあなたのことが分かりません。」


村人がそう、最後にユピテルに言った。その時、場面が変わる。そこは豪華な会議場。場には自分を含めて9人。全ての者が豪華な装飾品や王冠、武具を備えている。ユピテルの服装は剣、首飾り、外套を除けば、全てが場違いである。アフトにはこの場所が全く分からない。その時、一人の巨漢が叫ぶ。


「ユピテル!?貴様何を言ってる!?”アストラム”を離脱するだと!?貴様も”ヒュムス”のように裏切るのか!?」


アストラム!・・・ユピテルはアストラムだったのか。けどなんで俺の記憶に。


テーブルにその巨漢が怒りのあまり乗り上げると、隣にいた一人がその巨漢を止める。


「落ち着け”パラス”!・・・しかし、私も同感だ。何故だ、ユピテル。」


「・・・僕は君たちのような”秩序”のあり方を認めることはできない。」


「!ユピテル、貴様!!!」


パラスがユピテルに殴りかかる、抑えていた人は呆気なく吹っ飛ばされる。ユピテルに向かった拳は、ユピテルに当たる寸前で止まった。ユピテルは動じない。


「・・・パラス。君はこの、抑圧で支配する秩序が正しいと思うのかい?」


「・・・何を言ってる?」


「僕は君たちとは違い、最初から嚮導者ではなく、最初は旅人として過ごしてきた。そのころは誰もが苦しみ、幸せを掴み取ろうとする姿勢を見てきた。だから僕はいろんな人を助けてきたんだ。そして君たちはそんな僕を、『世界中の人々が幸せになることはないけども、そうなろうと努力したい。もし君がその考えに賛成するなら、ついてきてほしい。』と。・・・覚えてるかい?”マルス”。」


「・・・ああ。」


「これは幸せではない。これはただの空虚な妄想だ。人の幸せを創るなど、馬鹿げてる。これはーー」


マルスがユピテルの言葉を遮る。


「ならどうすればよかったんだ?ユピテルが出す意見はすべてが普通じみていた。しかし我々は凡人ではない。ましてやユピテルのような考えの持ち主でもない。我々は王だ。天才だ。ユピテルはそれを分かっていない。人を導くには、必ず異端者が必要なのだ。だから我々はーー」


「秩序を創り上げたと?彼らは模型ではない。生きているんだ。僕たちと同じように。だからこそ僕たちは彼らと共に立ち、考える必要がある。」


そうユピテルがマルスに言うと、マルスはため息をついてこう言った。


「・・・ユピテル。お前は人々と一緒のように言っているが、全くそんなことはないぞ。お前は我々よりも人より遠い存在だ。”お前はすでに人ですらないんだ”。」


「・・・やはり僕たちは馬が合わないようだ。僕は君たちのような一等星にはなれない。しかも人にもなれないらしい。・・・僕は去るよ。自分の国で暮らすことにする。僕がこれからこの場にいないこと以外は今まで通りで頼むよ。」


「・・・ユピテル。」


「なんだい、マルス。」


「お前のことは、どう呼べばいい。」


「・・・そうだな。====と呼んでくれ。」


「分かった。じゃあ、さよならだ。」


ユピテルはその会議場を去る。戸惑いの様子を見せる者は一人を除いていなかった。


「ユピテル・・・。」


一人は名残惜しそうに言う。


「・・・またな。”ディアナ”。」


ユピテルはドアを開け、その会議場を出た。・・・会議場からは、また話し合いが聞こえてきた。そしてまた場面は変わる。そこは人は少ないが、ユピテル以外は慌てていた。


「何故ですユピテル様!もっとほかに手はあるはずです!これではあなたが常に苦しむだけではないですか!」


「大丈夫さ。この痛みはつまり世界の安寧を示すんだ。なら、この痛みも受け入れられる。」


「ユピテル様!」


「頼むよ。」


「・・・ユピテル様。私たちはあなたを恨みます。」


「構わないよ。・・・後を頼むね。」


「・・・やはりあなたは”人ではない”。私はあなたにずっと付き添ってきましたが、終ぞ理解することはできなかった。」


「・・・ごめんね。」


ユピテルがそういうと場面は暗転する。しかしその景色は一面水のようなもので、他に何もなかった。ユピテルは突然水の中に潜った。するとそこには、輪郭が見えないものの、誰かがおり、その人らしき者を、抱きしめた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はっ!・・・ああ、そうだった。夢だったな。」


アフトはベッドから目覚めた。その声とともになにか変な声が聞こえたかと思えば、転ぶ音が聞こえた。シャルロットだった。


「いてて・・・。アフト、起きたのね。随分うなされてたけど、大丈夫だった?」


「ああ。ごめん。ちょっとな。」


「そう・・・。どうする?今日学校には行かないって連絡したけど。」


「・・・シャルロットは行かなかったのか?」


「ええ。アフトが苦しんでるのに、そのままにはできないから。」


「・・・ありがとう。」


「どういたしまして。・・・朝ごはん持ってくるね。」


「ありがと。」


シャルロットはアフトから離れた。


{ユピテル。お前・・・。}


{どうやら、僕の記憶を見たらしいね。}


{ああ。}


{いろいろ聞きたいことがあるだろうけど、まずは一つだけ。}


{・・・なんだ?}


{僕はアフトをずっと見守ってるから、これから頑張ってね。}


{・・・は?待て、急に何をーー}


{大丈夫。アフトは一人でも歩いていける。・・・じゃあ、多分次会うときは、かなり時間が経ってからだと思うから。さようなら。}


{おい!待てユピテル!・・・ユピテル?}


アフトがどれだけ話しかけようとも、二度とユピテルはアフトに喋りかけることはなかった。アフトはユピテルのこと、そしてユピテルが最後に言ったことを、これから悩むほかになかった。なにより最後の景色は、記憶とは言い難く、アフトには皆目見当がつかなかった。

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