46話:街にて
昼 町
「へ~。こんな場所もダースはあったんだな。」
「ええ。首都じゃないけど、ここもかなりの賑わいがある場所だから。・・・クアラルはどんな感じだったの?」
「う~ん。あいにく首都ぐらいしか。あと港がある街とかか。どっちも建物は二階建てとか多かったし、首都に関しては6階建てとかのデパートとかもあったしね。」
「デパート!それならここにもあるかも。・・・さすがに6階建てはないかもだけど。」
「十分だろ。・・・何買うとかはもう決めたか?」
「うん!えっとね。まず服でしょ。それに必要なインテリアとかも。あとは入ってから決めるわ。」
「いいんじゃん。・・・家具とかは多分学校の許可がないとだめだと思うけど。」
「ええ。分かってる。・・・ほんとにいいの?アフトのお金なのに。」
「いいよ。特に使う気もなかったし。」
「・・・じゃあ、ありがたく使わせてもらうわね。」
「ああ。・・・じゃ、行こうか。」
アフトとシャルロットは一緒に手を繋いでこの街の中で大きいデパートに行った。
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デパートは人でごった返していた。シャルロットはこういう場所に行ったことがあるのか、シャルロットがアフトをリードする形になっていた。最初に着いた場所は洋服屋だった。
「シャルロット。ここまでついては来たが、お金を渡すから必要なものは自分で買ってきてくれ。」
「え?一緒に行かないの?」
「ほら、シャルロットは女の子だからさ。デリケートな物とかも買う必要があるんじゃないのか?俺男だし。」
「・・・結婚したのに?」
「そんな不満そうな顔しないで。俺はここで待ってるからさ。」
「・・・分かった。」
「ありがとう。」
アフトはシャルロットにお金を渡した。シャルロットが服を買いに行くとアフトは警戒したように周りを見始めた。何もないことを確認すると人気のない場所にアフトは移動した。
「・・・誰だ?」
「・・・ばれましたか。」
そこに現れたのは若い男だった。アフトにとっては名もしらない赤の他人であった。アフトは自分たちがこの街に入ってからつけてきていたのに気が付いたが、正体がばれたことに関して慌てもしない表情に少し訝しむ。
「ずっとつけてきていただろう。目的はなんだ?」
「目的ですか。そうですね・・・。簡単に言えば野党派への勧誘です。」
「シャルロットをか?」
「いいえ、あなたもです、アフト様。」
「・・・俺も?」
「ええ。シャルロット様の持つ影響もありますが、シャルロット様はアフト様なしには厳しいでしょうから。」
シャルロットの影響?なにかあるのか?・・・あとで本人に聞くか。
「よく知ってるな。」
「アフト様が思っている以上に私たちは調べておりますから。・・・それで、どうでしょうか。」
「勧誘の件か?」
「ええ。」
アフトは少し考える表情を見せた後、こう告げた。
「シャルロットがここにいない以上、いきなり決めるようなことはできないし、与党の内情も、野党の内情も詳しくは分からない。せめてなにか判断できる材料は欲しいな。」
「ええ。そういうと思っていました。」
その若い男は束になった紙を渡す。
「・・・これは?」
「野党に所属、もしくは野党を支援している家には公開される情報です。与党の物は残念ながらありませんが。」
「・・・いいのか?まだ俺たちは与党に所属する可能性すらあるのに。」
「これぐらいの情報なら与党も知っていますよ。」
「そうか。・・・一ついいか?」
「なんでしょう。私にお答えできるのであれば。」
「野党に入りはしないが、協力はできるかもしれない。」
「・・・ほう?つまり?」
「クーデターさ。」
この言葉には、冷静の様相を見せていた若い男も少しびっくりしていたが、それは一瞬であり、少し笑いながらアフトに言った。
「・・・与党を打倒すると?」
「分からない。これも今思いついたものだし。・・・まぁ、何がどうあれ俺はシャルロットに従うよ。」
「そうですか。」
「・・・どうするかが決まったら、どこに行けばいい?」
「野党の実質的なリーダーを知っていますか?」
「いや。分からない。」
「きっとシャルロット様なら知っているはずです。その家にお越しになれば大丈夫でしょう。これを渡します。」
若い男は二つの指輪を渡す。その指輪は見事な装飾がされている。指輪自体の材料も高価そうだ。
「これは?」
「これがあればその実質的なリーダーの家に行っても不審者としてではなく、立派な賓客として歓待されるでしょう。もう一つはシャルロット様にお渡しください。・・・もしくは結婚祝いと思ってもらっても構いません。」
「余計なお世話だ。だが・・・感謝する。」
「こちらこそ。いい返事を期待しています。それでは。」
そういうと若い男は颯爽と去って行った。
「・・・シャルロットに会いに行くか。」
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「もう、どこに行ってたの?」
「いや~。少しな。・・・あとこれ。」
アフトはシャルロットに指輪と紙の束を渡した。しかしシャルロットが思いっきり見たのは指輪である。
「え!?・・・アフト~。もしかしてさっきいなかったのはこれを買うため?」
「残念ながら違うんだな。」
「え?この紙って結婚関係のことじゃないの?」
「それにしては厚すぎだろ。・・・野党の人が来たんだ。」
シャルロットのさっきまでの喜ばしい表情とは打って変わって、野党という言葉を聞くと表情が硬くなった。
「・・・どんなこと言ってたの?」
「簡単に言えば勧誘だった。その指輪は、協力するなら野党のリーダーのところに行くことになるから、許可証みたいなものだと思う。・・・それと結婚祝いだそうだ。」
「・・・あら、思いのほか粋な計らいとかするのね。」
「粋な計らいか?・・・どうせなら二人で買いに行きたかったけどな。」
アフトは少し照れながらそう言う。それをシャルロットは見逃さず、調子に乗ってアフトに話しかける。
「・・・へぇ~。」
「なんだよ。」
「いや?なんでもない。アフトも照れるんだなって。」
「・・・まあな。」
「・・・ふふっ。じゃあほかの場所に行きましょう。」
「ああ。」
アフトとシャルロットはデパート内のいろいろなお店を見て回った。
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夕暮れ 帰り道
デパートから出て、大通りを歩く。いろんな人がそこにはいた。家族連れの人や、恋人と一緒に帰る人。友達と一緒に喋りながらどこかに向かう人まで。アフト達も違和感なくその仲間だった。
「あ~あ。暗くなっちゃった。もっとほかの場所にも行きたかったのに。」
「こればかりはな。・・・なあ、一つ聞いていいか?」
「なに?」
「野党の人が、シャルロットには影響力があるって言ってたんだ。でもさ、俺から見るとシャルロットってそんな影響力があるように見えないんだよな。」
「・・・失礼ね。」
シャルロットはアフトの脇腹をつねった。
「痛っ!・・・すまん。」
「・・・そんな顔しないで、冗談よ。・・・それで?」
「そのだな。・・・シャルロットって、昔何かしてたのか?」
その一言にシャルロットは一瞬足を止める。しかし、すぐに歩きだした。
「おっと。・・・どうした?」
「・・・私さ。お母さんがいたの。今がもういないけど。」
アフトは熱心に耳を傾ける。
「お母さんがすごい人でさ。所謂カリスマって言うものがあって、みんなを虜にしてた。お母さんが総主の頃が一番楽しかったわ。みんな幸せに生きてたし、お父さんもあんな感じじゃなかったし。でも変わったのはお母さんが亡くなってから。総主がお父さんに引き継がれた後、お父さんは平和に固執するようになったわ。」
「・・・お母さんはどんな風に亡くなったんだ?」
「お母さんね。反対派の人がいる場所にも行ったの。どんな人とでも分かり合えるって。でも過激派の人がお母さんを殺しちゃってね。私もそこにいて、かなり衝撃だった。今でも覚えてる。あの時はーー」
シャルロットが少しえずく。
「大丈夫か!?」
「大丈夫・・・。うん。ありがと。・・・あれ以来人と関わるのが怖くなっちゃって。それにお父さんが総主になってから過激な行動が多くなっちゃったから、いじめられることも多かったしね。・・・いじめって言っても、無視ぐらいだけど。」
「・・・そうか。」
「もしかしたらその野党の人は私とお母さんを重ねてるのかもしれない。でも、私にそんなカリスマは無いし。」
「・・・そう。」
「野党のことはアフトが決めていいわよ。私はもう・・・決断できないから。お母さんのように死ぬのも、お父さんのように狂うのも。」
「・・・シャルロットは。シャルロットはどう思ってるんだ?」
「?」
「お母さんのことは正しかったと思ってるのか?それともお父さんが正しいと?」
「私は・・・できるならみんなと一緒に幸せに暮らしたい。お母さんのように、皆が幸せに生きていけるような国を作りたい。けど・・・。」
「けど?」
「・・・私にはお母さんのように嫌いな人の手を握れる勇気も、お父さんのように何かの為に一生懸命に動く力も、知恵もない。だから・・・。」
「諦めるのか?」
「・・・うん。」
シャルロットは震えながら言う。
「・・・シャルロット。野党に会いに行こう。」
「え?」
「シャルロットが言っているのが間違ってるわけがない。俺だってそう思う。それに勇気が無くとも一緒に戦えば、力や知恵が無くとも一緒なら、実現できるんじゃないか?」
「アフト・・・。」
「本当は諦めていないんだろ?シャルロットがドロスに言いかけたのは、俺と、皆と仲良くするようなことなんだろ?今の話を聞いて分かったよ。シャルロットは諦めてなんかない。まだ探してるだけ。きっと大丈夫。一緒に会いに行こう。」
長い時間が流れる。それが何秒か、何分かは分からないが、アフトにとっては長い時間だっただろう。
「・・・少し、時間を頂戴。」
「ああ。何時間でも、何日でも待つよ。」
「・・・ありがとう。」




