45話:これからのこと
「・・・どこに行く?シャルロット。」
「う~ん?アフトの好きなところに。」
シャルロットは微笑みながらアフトにそう言う。アルバルダ家に行くまでとは打って変わってどこか嬉しさが滲み出ていた。
「いや、今はそういうことじゃなくてだな・・・。」
アフトが少し困ったような様子を見せると、
「ふふっ。アフトも困るときあるんだ。」
「いや、あるだろ。」
「え~?だってさっき、私の家で・・・あ。もう私の家じゃないか。てへへ。」
「・・・。」
{会話が進まねぇ。}
{・・・う~ん。まさか結婚か。さすがの僕も驚いたね。}
{そうか?俺にとっては最善手だったんだが。}
{ちなみにアフトはなんでそう思ったの?}
{分かんない。・・・けど、それがシャルロットを守るためなら、仕方ないと思ってな。それに・・・シャルロットは助けてほしい、って言ってたから。}
{ふ~ん。・・・仮にそれで自分が傷つく結果になっても?}
{傷つくのは嫌さ。・・・でも、俺の大切な人が傷つくのは、同じくらい嫌だよ。}
{・・・いいじゃん。}
アフトはしばらく考えたあと、アフトにとって窮余の一策だったが、仕方なさそうに言った。
「いったん俺の家・・・ていうか寮に行くか?」
「え!いいの!?」
シャルロットはアフトに前のめりになってそう言った。
「ちょ、ちょっと待って。俺の寮だぞ。・・・ほんとにいいのか?」
「うん!だって私アフトの婚約者だし!」
「あ~。・・・そっか。じゃ、行くか。」
「うん!」
シャルロットはアフトの手を離すまいと、アフトはシャルロットの冷たい手を温めるように、互いにどちらも放そうとせず、しっかりと握りしめながらアフトの寮へと向かった。
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「ドロス様。本当によかったのですか?」
アフトとシャルロットが出て行ってから、ドロスの近くには一人だけいた。
「・・・さあ?もう私には分別はつかないのかもな。」
「・・・僭越ながら申し上げますが、ドロス様はここまでよく頑張ってきたと思います。・・・不器用ではありましたがね。」
「そうか。・・・お前はずっと私のそばにいたな。」
「ええ。私はドロス様の信念を、”秩序”を信じております。秩序は誰しもを結果的に救いますよ。ドロス様には秩序を一から組み立てる力がある。ドロス様が一声上げれば・・・”双子の王”は応じるでしょう。それはそうと、花束を買ってきましたよ。」
「双子の王だけだろうがな。・・・そうか。もうそんな時期だったか。」
「ええ。奥様が好きだった花束、全てそろっております。」
「・・・できればシャルロットと行きたかったがな。」
「いずれシャルロット様も分かってくださいます。私は陰ながら応援しております。」
「・・・お前にはいつも迷惑をかけるな。」
「滅相もございません。」
ドロスの傍らにいた者は、今はドロスを除いて、誰にもわからない。
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「ここがアフトの部屋?」
「ああ。特に何もないけどな。」
「へぇ~。ここが・・・。」
シャルロットはアフトの部屋を見渡していた。アフトにとっては何の変哲もない部屋だったが、シャルロットにとっては特別に見えたようだ。アフトはその好奇心旺盛は様子のシャルロットを見ていたが、ここでアフトは一つ思い出す。
「あ、そっか。・・・シャルロットってさ、これからどこに住むんだ?」
「え?」
「え?」
暫しの沈黙。両者とも互いの目を見つめる。先に言ったのはシャルロットからだ。
「ここじゃないの?」
「え?てっきりほかの寮を借りるのかと思ってた。」
「・・・アフトは、私と一緒は嫌だった?」
シャルロットはアフトを上目遣いで見つめる。シャルロットの目がうるうるとなっていることに気づいたアフトは、急いでさっきの言葉を訂正した。
「あ、ああ。そうだよな。ここに住むよな。はは・・・。・・・ん?ならシャルロットの道具とか買わないといけないのか。」
アフトがそういうとシャルロットは慌ててそれを訂正する。
「大丈夫だよ、そこまでしなくても。アフトのことだけ考えていいんだよ。」
アフトは、そう悲しく言うシャルロットの言う通りにするわけなどなく、
「明日って学校休み?」
「ええ。そうだけど。・・・なんで?」
「じゃあ買いに行こうぜ。一緒に。」
「・・・え?」
「だめか?」
「そんなわけ!・・・でもいいの?お金とか。」
「全然大丈夫だ。お金なら余裕あるし。」
そういってアフトはシャルロットに今あるお金を見せる。
「え!?何このお金!?」
シャルロットはアフトとそのお金を交互に見る。
「アフト・・・まさか盗んできたんじゃ。」
「違うわ。・・・これでもクアラルでは上手くやってたんだ。」
「じゃあなんでここに?」
「あ~。自分探し的な。」
「ほかの国でもよかったんじゃ?」
「恩師がこの国と繋がりがあってな。ちょうどよかったんだ。」
「へぇ~。」
「ま、シャルロットに会いに来た、って言っても嘘じゃないんだけどさ。」
「・・・///。」
それを聞いたシャルロットは顔を赤くした。
「お~い。シャルロットさ~ん?」
アフトはどうやらシャルロットをからかい過ぎたらしい。1時間ほど口をきいてもらえなくなった。しばらくすると、シャルロットが床で寝ると言い出したので、アフトは、いや俺がそこで寝るよ、と言いそうになったが、シャルロットが悲しくなる未来が見えたので、一緒に寝ることにした。が、アフトがこのまま眠れるわけもないので、これからについて考えてると、ユピテルが話しかけてきた。
{アフトはどうなるんだろうね。}
{分かんない。・・・これからどうしようか。}
{アフトが決めてね。僕ができるのは助言だから。}
{そうだよな・・・。案外野党と組んでみてもいいかも。与党に協力するつもりだったけど、総主があれじゃな・・・。なにか理由はあるのかもしれないけど。どうせならそれぞれの目標とかも知りたいんだよね。}
{それもそうだね。・・・僕的にはシャルロットがドロスに言おうとしてた言葉が気になるけどね。}
{『前に言ったようにーー』だったな。・・・時間があれば聞いてみるよ。}
{分かったよ。・・・あ、そうだ。}
{どうしたの、アフト?}
{・・・そろそろ俺の過去とか話してみてもいいんじゃないか?}
{・・・どうして?}
{俺はまだ学生で、俺の言葉遣いや態度が行き過ぎてるのは分かってる。その理由ぐらいは知りたくてな。}
{う~ん。そうだな。しいていうなら・・・アフトはそれ以上の苦しみを経験させられてきたじゃないか。}
{・・・どういうことだ?}
{これ以上は言えない。でもアフトは間違いなく誰よりも苦しみ、そこから生き抜く術を考えてきた。アフトの超常的な理性はそこから来ているはずだ。アフトの精神は、対価の為に封印されていた600年もの間、成熟に成熟を重ねていたんだよ。あの不安定な封印は、アフトが理性を極限まで成熟させなければ、アフトを殺していただろうね。}
アフトは、アフトを殺していただろう、という言葉に少し驚きながらも、意味のない質問をまたユピテルにした。
{・・・なんでそこまで知ってるんだ?}
{さあね。なんででしょう。}
アフトはいつもの意味深な言葉を聞くと、いつも通りその言葉について考えようとしたが、そうするにはあまりにも疲れすぎていた。




