42話:総主の娘
アフト 夜 寮にて
{子供らしくないかな?俺。}
アフトがずっと気になってた疑問をユピテルに問いかける。
{言葉遣いがね。・・・でも、アフトはそういう態度がしたいんだろう?}
{まあしたいというか、誰かにそうしろって言われたような、体が勝手に覚えててたというか。}
{別に悪いことじゃないしいいんじゃない?それよりもさ、ルクバトにペンダントを見せてよかったの?}
{ああ。多分大丈夫。それに確証も得られたしね。・・・それで?星眼ってなんなんだ?}
{魔眼の上位互換、って思ってくれたらいいよ。}
{また含みのある言い方か。}
{仕方ないね。}
{俺今まで星眼持ちは見たことないんだが。魔眼はあるけど。}
{そうだね。僕も今まで11人ぐらいしか見たことないや。}
{随分具体的な数字だな。そんなに印象的だったのか?}
{うん。二度と忘れられないほどにね。アフトとは違うけど。}
{ふ~ん。・・・星眼の能力ってマナの大きさと流れが見えるだけじゃなかったのか?}
{まぁね。でもアフトのは違う。そう、それだけじゃないんだ。}
{それが威圧か。}
{そう。・・・まぁ威圧というか覇気というか。まあ、能力も強いから、使い時を間違えないようにね。}
{分かってるよ。}
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「彼が今日からこの学校に転校してきたアフト君だ。皆仲良くするように。」
「アフトって言います。よろしくお願いします。」
クラスの人の拍手が響く。
{みんなを見たら分かるけどさ。アフトの恰好ってすごい奇抜だよね。}
{まあ、眼帯はいつか外したいけどな。}
{いつかね。}
「じゃあアフトは・・・そこの席に座ってもらおうか。」
「分かりました。」
「じゃあ後は自習だ。転校生と喋ったり勉強したりしてろ。」
「「は~い。」」
アフトが席に座ると、さっそく隣の子がアフトに話しかけてきた。
「ええっと。これからよろしくね。アフト。」
「ああ。君の名前は?」
「”シャルロット・アルバルダ”。」
シャルロット。青い髪は長く、縦ロールに巻かれている。少し恭しくアフトに話しかける。しかしそれ以上に、恭しい理由には礼儀以上にほかの理由がありそうである。会話はしたものの、全く期待をしていないような、冷たく、青い目でアフトの目を一瞬見る。
「これからよろしくな、シャルロット。」
「うん。」
{多分この子が総主の娘かな?}
{だろうな。}
アフトはシャルロットの周りを見て、アフトが来た時のようなお祝いムードががらんと変わったことに気づいた。さっきまでアフトに話しかけようとうずうずしていた子が急に歩くのをやめ、ほかの子らと話し始めたのである。
{・・・いじめか?}
アフトがユピテルに言う。
{だろうね。多分シャルロットも気づいてる。}
シャルロットはアフトが変な目線に気づいて、慌ててアフトにこう言った。
「・・・無理に話しかけなくてもいいからね。」
「・・・あまりそういう冗談は好きじゃないな。せっかく隣になったんだから、世間話でもしないか?」
「でもーー」
シャルロットが否定の言葉をつぶやく前に、アフトが前のめりに話しかける。
「俺さ、ここに来たばっかりであんまり詳しくないんだよね。だから住む場所もなくて寮に住んでるんだけど。シャルロットはどこに?」
「・・・ええっと。ここら少し遠い場所に。」
「どの方向?」
「あっち。」
シャルロットが指を指す。
「へぇ~。てことは東門から出るの?」
「ええ。・・・アフトは?」
「俺は学校の寮だからね。ここだな。」
アフトは下に指を指した。
「そうだったわね。」
んふふ、とシャルロットが少し笑みをこぼす。しかしすぐにその笑みを消した。
{・・・。}
ユピテルは何も言えなかった。これをアフトに示すのは同じことを二度言うことに等しいことと、その笑みは、あまりにも儚く、言うのすら憚られたのだ。アフトの表情は笑みを浮かべていたが、固く握り震えるその手は、他の誰が代弁しても、怒りだっただろう。
アフトがシャルロットと話をしてると、チャイムが鳴った。昼休みだったらしく、クラスのみんなはすぐにほかの場所へ行った。アフトはシャルロットがどこに行く様子もないことを確認し、シャルロットに話しかけた。
「なあ、もし何もなかったら一緒に食べない?」
「!・・・いいの?」
「なんでそんな怯えてるのさ。友達だろ?」
「!・・・もちろん!」
しばらくアフトとシャルロットがご飯を食べながらしばらく無駄話をしてると、三人のクラスメイトがアフトに会いに来た。シャルロットはその三人を見ると、すぐに顔を伏せた。
「なぁ。アフトだろ?ちょっといいか?」
「なんだ?用事か?」
「まあ、そんなもんだ。」
「今から?」
「できればな。」
アフトはシャルロットを一瞥し、あえてシャルロットに話しかけず答えた。
「いいぞ。どこに行けばいい?」
「あ~。校舎裏とかでどう?」
「いいよ~。」
アフトは軽いノリでその三人組に返事をした。アフトはもちろんこの意味を知らないわけがない。
「というわけで、ちょっと行ってくるわ。」
「・・・ええ。」
その声は、確かに震えていた。
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アフトは約束通り校舎裏に来た。今アフトは三人に囲まれている。
「なあ。シャルロットに話しかけないでほしいんだよ。」
「・・・なんで?」
「ほら。あいつ総主の娘だろ?今は野党の時代さ。あいつがいると邪魔なんだよ。」
「・・・あ~。なるほどな。・・・ちなみに話しかけたら?」
「・・・まともな学校生活はできないだろうな。それこそシャルロットみたいに。」
「ほ~ん。」
「それで?どうなんだ?」
{・・・アフト。どうするの?ここで宣戦布告か。それとも嘘をついて穏便に?}
{大丈夫。分かってるよ。ユピテル。}
もうすでに何もしないという選択肢はなかった。
「・・・ははは。」
アフトが笑みをこぼす。
「あ?お前どうしたーー」
「本当に滑稽だよ。本当に・・・素晴らしい茶番だ。」
アフトは一人を蹴り飛ばし、もう一人を神器を用いた峰内で気絶させる。
「なー」
最期の一人は言葉を発する間もなく胸倉をつかまれる。アフトは眼帯を外し、その恐ろしい右目で覗き見る。
「上等だ!やってみろよウジ虫共が!所詮いじめでしか戦えない小心者が!」
「っ!お前!!」
アウストラリスの星術が発動し、アフトを囲もうとするが、ヴァイツとは比べることすら烏滸がましいその稚拙なマナは神器を抜くまでもなくその鞘で潰される。アフトは神器を鞘から抜き、そのきれいな太刀で脅す
「これは宣戦布告だ。貴様のような低劣な遺伝子が残れたのはシャルロットの家族のおかげだったと思い知る日が来る。・・・それまで精々みっともなく吠えてろ。負け犬が。」
アフトは鞘で最後の一人を気絶させ、そこには倒れた三人だけが残った。
{・・・いいね。気味がいい。}
{だろ?ユピテル。}
{随分と荒れそうだけどね。アフトの学校生活。}
{前もそんな感じだったけどな。・・・ひとまず戦う理由は決まったな。}
{そうだね。アフトの信念に従ってやってみたら?}
そうしてアフトは眼帯をもとに直し、校舎裏から去っていった。




