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41話:学校案内

アフトは今学校に向かっていた。


{ユピテル。今更だがダースに行く目的は何なんだ?}


{前にも説明したと思うけど、今アフトが必要なのは記憶と資格。記憶は時間経過だけど、資格はいつでもできるからね。}


{資格っていうのはどうすればいいんだ?}


{詳しくは言えないけど、アフトが一体何のために力を振るうのか、っていうのが大まかな資格の内容。}


{それをこの旅で見つけていけばいいのか?}


{うん。そしてそれを見つけると、自然とクアラルに残してきた大切な人との接し方も分かるはずだよ。}


{・・・そうか。}


{うん。}


暫しの沈黙。


{それにしてもこのペンダントは、本当に調停者の物なのか?}


{さぁ?ギルドの人はそれっぽいことは言ってたけど、確かめてみないと分かんないしね。}


{学校の人とかに聞いてみたらいいのか?}


{いや、だめだろうね。もし調停者のペンダントだったら、周りの人がアフトを何とかしようとするだろうし。ヴァイツ様によれば学校でもなんか起きてるらしいしね。アフトは与党と野党の様子見をして決めるんでしょ?}


{ああ。}


{なら自分で調べるしかないね。まあ、信頼できる人ができたらその人に話してみてもいいけど。}


{信頼できる人ねぇ・・・。}


{自分で見つけるんだよ。}


{だよな・・・。あんまり深入りはしたくないな。}


{それはアフトが決めるんだ。}

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ちょっとお待ちを。ここは学校です。無関係者は立ち入り禁止ですので、お引き取りを。」


「これをどうぞ。」


アフトは警備員に紙を渡す。


「・・・なるほど!留学生の方でしたね。」


「ええ。すいません。どこから入ればいいのか分からなくて。」


「いえいえ。構いませんよ。事務室まで案内します。」


「ありがとうございます。」


アフトは警備員に連れられて事務室まで行く。アフトはその道中学校の運動場で遊んでいる生徒を見ていた。アフトはクアラルの学校では昼休みで外に遊ぶ人はいなかったので驚いた。


「気になりますか?」


「・・・ええ。クアラルでは外で遊ぶ人を見かけることはなかったので。」


「今、クアラルでは動乱が起きているのでしょう?大丈夫でしたか?」


「ええ。なんとか大丈夫でした。・・・動乱もあと数か月したら終わるでしょうが。」


「そうなんですか?」


「はい。私がいた時には、時間はかかるけどなんとか終わるだろう、という感じでしたから。」


「そうですか。さすがクアラルですね。」


「・・・ええ。そうだと思います。」


警備員が急に止まる。


「事務室、つきましたよ。」


「案内ありがとうございました。」


「いえいえ。これも仕事ですから。」


アフトが学校内の事務室に入ろうとすると、学校の生徒が出入りする玄関が近くにあるからか、そこにも少し生徒がおり、アフトを物珍しそうな目で見る。アフトは少し戸惑ったが、仕方ないだろうと納得し、事務室に入った。


「お待ちしておりましたよ。アフト殿。どうぞ座ってください。」


そこには緑の髪の若い男性が椅子に座っていた。テーブルにはお茶が二人分おかれている。


「どうも。・・・あなたは?」


「”ルクバト・ハール”と申します。どうぞ。お茶を。」


「・・・貴族の方?」


アフトはお茶を取りながら訪ねる。アフトは貴族がダースにいないということは分かっていた。だが、ここで名字がこの国でどういう意味を表すのかを知りたかったのだ。


「いえいえ。たしかにクアラルでは名字は貴族の証でしたね。この国では誰しもが名字を持っているんです。”家族の絆”を示すために。」


「家族の絆ですか。」


「ええ。」


「・・・あまりいい印象は聞こえませんけどね。」


「ええ。そう思われるように言いましたから。」


「いったいどういう意味が?」


「単純ですよ。ある者が裁かれるときに、その家族が誰かなのかを特定しやすくするためです。」


「・・・なるほど。話したかったのはこれですか?」


「まさか。話したいことは別ですが、先に自己紹介を。”ルクバト・ハール”。この学校の校長です。」


「はぁ。」


「・・・やはり何も動じませんか。一応校長がわざわざ一介の生徒に直で会うのはすごいことなのですが。」


「生憎慣れてるので。」


アフトはお茶を取ろうとする。が、


「でしょうね。神獣殺しともなれば私とは比較にならない高位の者とも会うことになったでしょうからね。」


その言葉にアフトの表情は一瞬強張る。


「・・・知っているのですか?」


「ごく一部の者が。そもそも私は竜殺しからの推薦を処理した張本人ですからね。さすがに完全に不明瞭な人を入学させることはできませんよ。」


「・・・それもそうですね。」


「アフト殿は名字は名乗らないのですか?」


「ええ。ここにいる間は。」


「そうですか。」


「それで?話したい内容は?」


ルクバトは姿勢改めて、アフトに視線を向ける。


「このことは他言無用でお願いします。」


「・・・ええ。」


「説明する前に、今のダースについてどれだけ知ってますか?」


アフトはギルドの職員から聞いたことを話した。


「・・・随分知っているんですね。」


「ええ。金貨を数枚渡しましたから。」


「・・・それについては損をしたと言うべきでしょうか。」


「いえ。早く知れば知るほど時間は稼げます。覚悟を決めるには十分な時間が。」


「・・・本当に子どもですか?」


「さぁ?私が知りたいですね。」


「・・・訳アリですか。追及はしませんよ。しかし知っているなら話が早い。アフト殿。与党に与していただけませんか?」


「・・・私は代表者ではありませんよ?」


「いえ。私があなたにしてほしいのは総主の娘の護衛です。」


「・・・なぜ?私は一介の生徒ですか。」


「生徒だからいいんですよ。私は与党派ですが、生憎校長は博愛でなければなりませんから。変に誰かに与するのはまずいんです。それにアフト殿は年に見合わない胆力と力がある。」


「・・・対価は?」


「アフト殿が望むものを。」


アフトは少し思案した。


「・・・与党に与するかはともかく、その総主の娘というのが私にとっての正義に反していなければいいでしょう。それまでは見守ってはおきます。」


ルクバトはこれに少しほっとした表情を見せた。その後アフトが対価について述べる。


「しかし二つしてほしいことがあります。」


「なんでしょう。」


「一つは、この国の歴史の本をできるだけたくさんくれませんか?とくにバルカンの記述があるものを優先的に。」


「・・・よかった。無理難題を言われるのかと思ってましたよ。喜んでしましょう。もう一つは?」


「・・・今から私が話すことを誰かに知られてはいけません。たとえそれが総主でも。もしそうなればあなたを殺します。」


「・・・なんでしょう。」


ルクバトはアフトの鋭い視線に冷や汗をかきながら言う。


「このペンダントについて、知ってることを教えてください。」


アフトは老人から与えられたペンダントを渡す。


「・・・!何故アフト殿がこれを!」


「静かに。」


「・・・失礼。しかしなぜアフト殿が調停者のペンダントを?」


「船で来ている途中にある老人から渡されました。老人の行方はすべてが終わり次第私が追求します。そこはお任せを。・・・次の議会はいつですか?」


「5か月後です。」


「随分長いですね。」


「議会を召集できるのは与党の特権ですから。今の状況では野党がどうせ勝ちますしね。」


「なるほど。・・・野党は何故そこまで与党に攻撃的なんです?」


「恐らく・・・私怨かと?」


「・・・は?」


{アフト。怒りを抑えろ。星術はなく、マナも今まで通りだとしても、アフトには星眼がある。星眼はマナの流れを見るだけじゃなく、相手を威圧させるぞ。ルクバトが怯えてる。}


{・・・先に言えよ、それ。てか、眼帯意味ないじゃん。}


{星眼は見るだけでも相手に毒だからね。隠すのに意味はあるよ。}


{・・・あとで星眼について詳しく。}


{うん。分かった。}


「・・・失礼。興奮してしまいました。」


アフトが咳ばらいをしながら言う。


「・・・いえ。お気になさらず。」


「それで、この条件はどうでしょうか?」


「構いませんよ。・・・ただ、そのペンダントは使用する気があるんでしょうか。」


「ええ。もし本当に野党が暴政を働いていた場合は。・・・与党の場合も同じことが言えますが。」


「分かりました。護衛の件はこちらから総主に伝えておきましょう。情報はどのくらい伏せましょうか。」


「配慮痛み入ります。私のことは”クアラルで実力のある一介の留学生”とお伝えください。」


「分かりました。住む場所はありますか?ここには寮がありますから、その利用もありだとは思います。」


「では寮を利用しましょうか。」


「分かりました。」


「護衛の件に具体的な要望はありますか?」


「いいえ。おそらく守ることができれば大丈夫でしょう。」


「分かりました。」


「ほかに聞きたいことは?」


「特には。できればその総主の娘と同じクラスが望ましいです。」


「もちろん。・・・非常に言うのが憚られますが、よき学校生活を。」


「ええ。そちらこそ。」

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