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40話:ダースの政治

今更ですがこの世界の硬貨はシンプルに銅貨、銀貨、金貨の三種類あります。主なレートは、銅貨1万枚=銀貨百枚=金貨一枚です。ただ、各々の国によって硬貨の種類が分かれており、クアラル金貨一枚がダース金貨二枚の価値があったりします。銅貨、銀貨も同様です。ただ、価値の差があってもダース硬貨とクアラル硬貨の差が二倍もあるのはおかしいです。普通は1.1倍とかです。ダースに何があったんでしょうね。

アフトはダースの港についていた。


・・・人が少ないな。ヴェネットやダース行きの時にいた港のような人のやかましさはないな。


{財政難っていう言葉が気になるね。}


{あの老人が言ってたやつ?}


{うん。・・・昔はもっと栄えてたはずなんだけどね。}


{そうなのか?}


{うん。ここの大陸は他の二つの大陸と比べて珍しい植物、食べ物、生き物、景色が多いんだ。だから観光業が栄えてたはずなんだけど・・・。}


{その港があんなになってるのか。}


{あの時はもっと喧騒とかが起きてたんだけどね。}


アフトは港にいる受付嬢に会いに行く。


「・・・すいません。ここから近い学校ってどこにありますか?」


「学校ですか?・・・地図を用意しますので、少々お待ちください。」


「分かりました。」


{いきなり学校に行くの?}


{ほかに行く当てもないしな。}


{せっかくだし景色とか見て行ったら?あとギルドの登録とかしてないでしょ。}


{景色はともかく、ギルドはなんで?}


{ダースはね、ギルドの規模が世界で一番大きいんだ。多分しないと後々面倒くさいことになる。}


{・・・ギルドは後で登録してくる。}


「こちらが地図です。銅貨10枚です。」


お金が必要なのか。

「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


{先にギルドから行くか。}


{それがいいよ。}


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ギルド


「すいません。冒険者登録をしたいんですけど。」


アフトが受付嬢に向かって言う。


「初めての方ですか?」


「ええ。」


「では10級からになります。級は依頼をこなすごとに上がりますので。」


「分かりました。」


「名前は何と言いますか?」


「アフト・・・です。」


「分かりました。アフトですね。ギルドカードを作ってきますので少々お待ちを。」


「分かりました。」


受付嬢が奥の部屋に入っていった。アフトが近くにある椅子で待っていると、受付の人が『アフト様。』と大きな声で言うので、アフトは受付の場所に行った。


「こちらがギルドカードでございます。さっきも言いましたが10級からです。級が上がれば上がるほど受ける恩恵は大きなものとなりますので、ぜひ上を目指してください。」


「ありがとうございます。」


「では金貨一枚を。」


「・・・思った以上に多いですね。」


「ギルドに所属すれば依頼は円滑に進み、個人を確かに証明するものとなりますから。それに、それだけをして依頼をこなさない者もいますので、それの対処だとでも思ってください。」


「なるほど。・・・どうぞ。金貨一枚です。」


「ありがとうございました・・・。おっと。クアラルの金貨でしたか。」


「だめでしたか?」


「いえ。ここと少し価値が違うので。ダース金貨一枚のお釣りです。」


「なるほど。」


{・・・ふ~ん。}


心の中のアフトは少し怪訝そうな表情をしていた。アフトはギルドを出て行った。


{どうかしたのか?}


{国の金貨が他国の金貨の半分の価値になるとかありえない。ダースは大分大変なことになってるみたいだね。}


{昔は違ったのか?}


{うん。そもそも国の金貨の価値なんてどこでも同じだった。変な混乱を起こしたくなかったからだと思う。でも、その不利益を踏まえて金貨の価値を国によって変えるのは、それ以上の利益があったはずだ。・・・もしかしたらダースっていう国自体の存在が危ういのかもしれない。}


{・・・金を出したら話を聞けるかもな。}


{やってみて。}


{条件として、本当の名前教えろ。}


{アフトじゃダメ?}


{俺の名前がアフトだからすごい呼びにくい。}


{・・・”ユピテル”だ。そう呼んでくれ。}


{分かった、ユピテル。}


アフトはまたギルドに戻ってきた。


「いらっしゃいませ・・・。まだ何か用がありましたか?アフト様。」


受付嬢がアフトを面倒くさそうな顔で見る。アフトは受付の近くに行き、その人にクアラル金貨を2枚与えた。


「・・・これは?」


「ダースの現状について情報をくれないか?」


アフトは小声で受付嬢に話す。それにつられて受付の人の声も小さくなる。


「・・・どんな情報をお望みですか?」


「なんでもいい。役に立つならな。特に知りたいのはなぜダース金貨の価値がここまで下がっているのかだ。あと、今のダースの政治のことについても聞きたい。もしかしたら色をつけるかもな。」


「・・・奥の部屋へどうぞ。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アフトは受付嬢に案内され、奥の部屋にいた。その道中、周りには冒険者のような人が一人もいないことから、これが特別な状況だということが分かった。最初に喋ったのは受付嬢からだった。


「最初に言いますが、私は一介の受付嬢にすぎませんからね。知っている情報も当たり前のものが多いですよ。」


「構わない。むしろそっちの方がいい。」


「そうですか。分かりました。では、まず何故ここまで硬貨の価値が下がったか、でしたね。」


「ああ。」


「価値が下がった原因は単純に政治の仕方が悪かったと”言われています”。」


「・・・二つ聞こうか。まず表のその理由から。」


「ダースが民主政治なのはご存じですね。」


「ああ。民が政治を決めるんだろ?だから王のような絶対的な権力が無い。」


「そうです。ただ、選ばれたものが政治を握りますから、絶対的な権力がない、とは言えないですね。」


「・・・先に政治について話してもらってもいいか?」


「当然です。民は二つの意味で政治を握ります。一つはダースの政治を握る”総主”を決めること。これは二年に一度、選挙があり、そこで決まります。二つは政治の方向性です。一年に一回、民は総主に、これをして欲しい、という”願書”を提出することができます。これを総主は在位内に必ず達成しなければなりません。」


「しなかったら?」


「処刑です。」


「・・・ほう。その願書の内容はどうやって決まる?」


「投票です。総主が政治の権力があるからと言って、全部を担うわけではありません。政権を握るのは主に三派閥です。総主寄りの派閥の”与党”。これは総主が変わるごとに与党の派閥の人選ができます。これは議会に参加する代表者の3分の1選ばねばなりません。34人です。」


「代表者?」


「民によって地方ごとに選ばれた政治を担う人のことです。合計の数は必ず100人です。総主は代表者からさらに選挙を行い選ばれます。」


「なるほど。」


「次に”野党”。これは33人です。与党と相反する意見の代表者が選ばれます。」


「残りの33人は?」


「これが少し複雑でですね。”調停派”と呼ばれます。このグループは政治にはよほどのことがない限り介入しません。通常時には議会を統制する議長のような役割がグループに与えられます。要するに進行役です。」


「通常時には?」


「ええ。このグループの目的は与党の暴走を止めることです。与党は必ず野党に過半数で勝つようになっています。これは政治を円滑に進めるためですが、与党が暴走すれば野党は何もできません。そこで野党は調停派に依頼し野党として参加することができます。」


「与党には参加できないのか?」


「できます。が、今まで起きたことはないです。そもそも与党の暴走を止めるために作られたものですからね。そしてこの党は総主と同じ立場の”調停者”がいます。調停者は他の党にはない唯一の特権を持っています。」


「それは?」


「”調停者の暴政”とよばれる権力があり、この権力使用時、調停者は調停派と同じ投票権を持ち、ほかの調停派の代表者は投票できない、というものです。これを使用すれば調停派は総主が在位内二度と議会に参加できなくなります。これは野党が調停派と常に手を組むことを防ぐために、調停者は与党が決めた者のみ参加できる、ということから発展してできた特権です。」


「なるほどな。」


「ただ、今その調停者がいません。」


「それ大丈夫なのか?」


「だめです。おかげで今は野党が暴走して与党がその責任を取るということになってます。」


「なるほど。それが裏の理由か。」


「ええ。表の理由は与党の政治の仕方の問題。裏はこれだと思われています。この実態を知るものは少ないでしょうけど。」


「調停者は選べないのか?」


「総主が在位中は。それに調停者はある特定のアクセサリーを持ってなければなりません。それが無ければ調停者として認められませんから。」


「・・・そうか。」

・・・これじゃないよな。


アフトはペンダントを改めて見た。そのペンダントは天秤を模っている。


「アクセサリーはダースの政治で受け継がれてきたものです。すぐには作れないのですよ。」


「なるほど。」


「それでどうでしょう。ほかに聞きたいことは?」


「今ダースはどんな政策を行っている?」


「何も。与党の妨害くらいでしょうか。野党が何も考えず散財するばかりなので何もできないでしょうがね。さすがに何に散財してるかはわかりませんが。」


「なるほど。ありがとう。」


アフトは受付嬢に金貨を5枚渡した。


「随分と多いですね。こちらとしても職務を中断した甲斐があります。豪遊できます。」


「それならよかった。ではまた会おう。」


「ええ。楽しみにしています。」


アフトは外を出た。


{どうする?アフト。干渉するのか?}


{与党の様子を見てからだな。本当に野党が正しければ何もしないが。そういうことはないだろう。・・・はぁ。あの老人なんてものをくれたんだ。}


{あはは。アフトの学校生活は楽しくなりそうだな。}


{皮肉か?それ。まともに学校生活を送れない気しかしない。}

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