4話:小さな手の魔法
のちに詳しく述べますが、この世界の一年は500日です。現実でいえば大体15歳ぐらいです。
「そういえばこの部屋って、ほかに服とかあるんだろうか」
貰った服でも十分なんだけど、やっぱり外見は気になる。きっとクローゼットが――あった。これか。
「うお。結構あるなぁ。ちょっと驚き」
扉を開けてみると、中身は全部綺麗に整えられていた。おそらく使用人のおかげだと思う。……これで少し汚かったら、それはそれで嫌なんだけど。
そんなことを考えてたら、扉から三回ノックする音が聞こえた。仕方ない、クローゼットの中の服を見るのをやめ、扉の方に返事をする。
「は~い。今行きます」
一応剣も持って行ってるけど、いらないことを願いたい。
ドアを開ける。思った通り目の前にはカーラがいた。カーラが着ていたのはベージュを基調としたドッキングワンピースだった。カーラの髪の色に良く似合う。やっぱり見れば見るほどかわいい。
「?どうしたの?いかないの?」
「ああ、ごめん。見惚れてた」
「え?今なんて?」
「いや、なんでもない」
危ねぇ。最初から引かれるところだった。
「そう。分かったわ。ついてきて」
「は~い」
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俺たちは屋敷から離れ、最低限整備されている道に沿って歩いていた。ここあたりは開拓地とはいえ、遠くにある程度の、簡易的な木造建築が建てられており、人もまばらではあるが、働いている様子はしっかりと見えた。
「ねえ。アフト。私たちって互いに何も知らないじゃない。簡単な自己紹介しましょ?あ、私と喋るときは普通の感じがいいわ」
「ああ。いいよ。全然。俺もそっちのほうが楽だし」
敬語使うのって案外疲れたりする。まあ、慣れればいいんだろうけど。それにしても自己紹介かぁ。あんま言えることないんだよな。しいて言えばトマトが好きだったことくらい?さてはトマトが嫌いとかいうんじゃないんだろうな?
「じゃあまず私から。私の名前はカーラ・アネモス。アネモス家の長女ね。まあ、一人っ子なんだけど。趣味は絵を描くこと。年齢は11歳よ。はい、アフトの番」
11歳かぁ~。そういえば俺って何歳だっけ?
「えっと、俺の名前はアフト・キャンサー。まあ、アフト・アネモスって言ってもいいか。正直これぐらいしかわからない。趣味もこれから作ることになると思うし、年齢も分かんない。しいて言うならトマトが好きなこと?」
「それ、わざと言ってる?……まあいいけど。それにしても年齢がわかんなのは不便ね。私と身長ほとんどおんなじだから、11歳にしたら?」
「そんな簡単な感じでいいの?」
「まあ、あんまり年齢が関係するものってないし。しいて言うなら学校ぐらいかしら」
「学校?そんなものもあるの?」
「ああ、それも知らないのね。聞かなかったことにしてちょうだい。どうせジークが教えるでしょ」
「はーい……一つ聞いていい?」
「いいわよ。なんでも聞いて」
「星術って何?」
「……そうね。百聞は一見に如かずっていうし。右手出して」
「いいけど、右腕とるとかやめてよ?」
「そんなことしないわよ!てか、まだそこまでうまくないし」
ん?最後なんか不穏な雰囲気残していったな。
「ほら、触るわよ」
「お、おう」
すげえ、女の子の手ってこんな感じなんだ。……いや、違うわ。こんなこと考えてる場合じゃなくて。そんなことを思ってると、右手の感覚がなくなっていった。
「はい。いいわよ」
「おう。なんか違和感はあるけど、特に何も起きてないぞ」
左手の感覚はないけど、それぐらいだし。特に何もないね。
「んふふ。じゃあアフト。”手を繋いで”」
その瞬間、体よりも、意識よりも、右手だけが俺の意思よりも先に動いていた。これに気づくのに少し時間を要した。
「ん!?なにこれ!?」
なにこれ!?なんか体が、いや、体というか右手だけが勝手に動いたの!?どうやって?ちょっと怖いんだけど。
「んふふ。驚いたでしょ。これが星術の力ね。私のは”スピカ”っていうの。まあ、まだ練習中なんだけど。」
そんなしたり顔で言われても……まあ、カーラが喜んでるならそれでもいいっか。
「へぇ~。不思議だ」
しかし驚かされたな。それにちょっと神秘的。いまだに信じられないや。
「でしょ。最初はみんなそんな感じなの。さあ、そろそろほかの場所にも向かいましょ」
「え!このまま?」
ちょっとこのままだと俺の心臓が破裂してしまいそう。
「なに~?嫌なの?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあいいじゃない。さあ、しゅっぱ~つ!」
「まじか……。まあ、いいか」
うれしい反面、結構なんか、その……いいや、なんかこんなこと思った時点で負けな気がする。あんまり今の顔をカーラには見せたくないな。
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