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39話:不吉な予感

「・・・気持ち悪。」


アフトは今海の真ん中に浮かんでいた。海の揺れは船を容易に貫通し、肉体派のアフトの弱点が船酔いだということをアフト自身に気づかせた。


{アフト。船酔いする人だったんだね。意外。}


{俺も驚いてるよ。}


{あはは。ま、そうだろうね。・・・僕も船に乗る機会はあんまりなかったなぁ。}


{そうなのか?}


{うん。一回は旅行としてほかの国に行きたかったんだけどね。いかんせん忙しくてさ。}


{そう・・・。}


「失礼。お一人ですかな?」


そういってアフトに話しかけてきたのはスーツを着た老人だった。片手には杖を持ち、整えられた髭を持っている。


「・・・ええ。一人です。」


「話をしませんか?」


「構いませんよ。」


「ありがとうございます。では、あなたは何故この船へ?」


「・・・行先のことを聞いてるんですか?」


「ええ。」


「私の知り合い・・・と言いましょうか、先生と言いましょうか。その方がダースに繋がりを持たれていたので、それに肖ってこの船に乗せてもらったんです。」


「ご理由は?」


「まぁ・・・自分探し、とでも言いましょうか。」


「通りで、そんな辛気臭い顔をしてらっしゃったのですね。」


「・・・貶してますよね、それ。」


「そう思われるのであればそうでしょう。」


「何が言いたいんです?」


「結論は急かしてはいけません。それはせっかくの結論を歪めてしまいますから。」


「・・・はぁ。」


「ですが貶したのは本当です。お詫びと言ってはなんですが、これを差し上げましょう。」


それはロケットペンダントだった。しかし、普通ロケットには写真を入れる物だが、そこには何かの紋章が入っていた。


「きっと役に立つはずです。」


「・・・私はこんなに良いものを得るような善行をしてきてはいません。恩師を捨て、友を捨て、この道を選んだんです。」


「ならなおさらこのペンダントを受け取るべきです。これはあなたにとっての贖罪へと導くカギになるでしょうから。」


「はぁ・・・。では遠慮なく。・・・ところであなたは何故?」


「私ですか?私は久方ぶりに故郷にでも帰ろうかと思いましてね。ほら、クアラルでは動乱が起こったではありませんか。言い方が悪くなりますが、ちょうどよい帰郷の機会になりまして。」


「ダースが故郷なんですか?」


「ええ。初めてですか?」


「はい。」


「・・・ダースは故郷ですから、ある程度は知っています。もしよろしければ、いくつかお教えしましょうか?」


「・・・お願いします。」


「分かりました。」


「とは言っても、あまりクアラルとは変わらないのですが。決定的な違いは警察や騎士といった国の治安維持部隊が”今は”いないことです。」


「今は?」


「ええ。ダースは民によって政治の方向が決まりますから。」


「しかし、治安維持部隊がいないのは不味いのでは?」


「・・・ダースは今財政難なのですよ。国が治安維持部隊すら作れないほど。今は地域ごとに自警団がいます。」


「・・・それは相当まずいのでは?」


「ええ。現在のダースは二つの派閥が対立しています。それはまあ、行ってみたら分かるでしょう。」


「そうですか。」


「・・・あまり驚かないのですね。」


「まあ、聞いてましたから。治安維持部隊がいないのには驚きましたけど。」


「それを知ってここまで来たのですか?」


「ええ。」


「・・・あなたは変な人だ。まるで火中の栗を拾うようなもの。本当に理由は自分探しですか?」


「あなたも性根が腐ってると思いますが。」


「・・・それもそうですね。失礼。聞かなかったことにしてください。」


少しばかりの沈黙。


「私は留学生です。」


アフトが言う。


「・・・それは時期が悪かったとだけ言っておきましょう。学校も、今や安全とすらいえませんから。」


「その時はなんとかしますよ。」


「そうですか・・・。では、最後に。余計なお世話だと思いますが、気を付けてください。ダースはきっとこれから変わっていくでしょうから。」


「・・・ご忠告、痛み入ります。・・・このペンダント、本当にもらっていいんですか?」


「ええ。私はただの旅行客ですからね。のんびりと故郷で死にたいのですよ。・・・面倒ごとに巻き込まれますがね。」


{アフト。どうする?}


{どっちがいいんだ?}


{だめだ。これはアフトが決めるんだ。}


{・・・はぁ。分かったよ。}


「はぁ・・・。相変わらず私は運が無いようです。」


そういうとアフトはペンダントを強く握りしめた。


「そうですか。あなたはあなたにとって意味のない苦難を取るんですね。」


「いえ。誰かを助けるんですよ。この選択をすればきっと誰かは助かります。」


「・・・なぜ?利益もないのに?」


「直観です。これをすべきだと私の直観は、心は言うんです。」


「・・・そうですか。分かりました。では、私はあなたの描く物語を見るとしましょう。」


「ストーカーですか?」


「比喩ですよ。・・・その眼帯、似合ってますよ。」


「ありがとうございます。」


その老人は去っていった。


{アフト。本当によかったの?}


{ああ。・・・若干後悔してるけど。}


{今でも捨てれるよ?}


{いや、いいよ。きっとこの行為で、将来誰かが救われるならね。}


{アフトの恩師と友は捨てたのに?}


{ああ。俺は人を救うことはできても、導くことはできないから。}


{・・・どういうこと?}


{そうだな。・・・俺といても友は苦しむだけだろうし、恩師には迷惑をかけてしまうからな。・・・要するに俺は王にはなれないんだ。助けても導けない王に意義はないからな。}


{なんで王なの?}


{助けるっていうのは上位者ができる特権だからじゃないか?}


{・・・そう。でも、きっとその考えは変わるよ。}


{なんで?}


{僕の・・・大事な友達がそうだったからね。}


{・・・どうだろう。それは歩いてみないと分かんない。}


{・・・そうだね。歩いてみるといい。その足で。}


{ああ。そうしてみるよ。・・・どうした?}


心の中のアフトは一縷の涙を流していた。


{なんでもない。ただ、懐かしくなったんだ。}


{・・・そう。}


海は、まだ青かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

場所:???


そこには二人の男がいた。片方は眼鏡をかけ、もう一人は全く分からない。


「それで?クアラルはどうなった?」


「シュタールとアールーは私と共に脱出しています。アラネアはまだいるそうです。」


「そうか。サクサリは?」


「死にました。」


「そうか・・・。」


「ええ。・・・質問いいでしょうか?」


「なんだ。」


「なぜ鍵のような面倒なものを作ったのです?情報なら人を集めるだけで十分だったと思います。」


「鍵・・・というか情報があるということ自体が囮だ。情報があると分かれば兵を割くだろうと思ったからな。鍵はその整合性を立てるためのものだ。それに本当の目的は達成された。」


「確かにクアラルは今不安定です。元に戻るのに最低でも10年は稼げます。」


「アラネアにはしばらくしたら戻るように伝えろ。」


「アーテル・リリウムはどうしますか?命令違反を起こしてはいますが。」


「いや、なにもするな。どれだけ優秀な者も失敗はする。成功した数で競うべきだ。」


「了解しました。」


「サクサリには約束通り家族全員に金をやれ。」


「かなり多いですが、大丈夫でしょうか。」


「あいつはよくやってくれた。ここで報わなくてどうする?そもそもリヴァイアサンを出せた時点で成功したも同然だ。よくあのマナの技術でリヴァイアサンを出せたものだ。相当決意を固めていたのだろう。」


「・・・しかし、神器持ちがいなければもっと長く持たせることができたしょう。」


「いや、神器持ち・・・アフトを止まらせることができた時点で役割を果たした。」


「そうですか。・・・しかし、リヴァイアサンも案外呆気ないものでしたね。」


「・・・まさか。サクサリには悪いが、リヴァイアサンを出すには、マナも技術も全く足りてない。本来ならここからリヴァイアサンが見れるほど巨大で、化け物なのだ。その体躯は空まで届き、ひとたび動けば地震を起こす。」


「・・・なるほど。グランドール家はどうしますか?」


「・・・ああ。あいつらか。・・・ほっとけ。」


「いいのですか?」


「ああ。そもそもウートガルザ家だけでやるつもりだったしな。グランドール家がクアラル王家に反感を買っていたのは知ってたから呼びかけてはみたが、まさかシュタールたちの準備が整った瞬間に参加表明するとは。おかげでシュタールたちの辻褄合わせに時間がかかり、急いで出発させたらアネモス家に漂着し、裏切者の存在がばれた。しかもグランドール家も雑に準備をしたから、余計に計画が露見した。これに関しては失敗したな。」


「なるほど。・・・ほかにすべきことは?」


「引き続き”カンケル”皇帝の情報は全て集めろ。どんなものでもいい。」


「またほかの国に工作はしますか?」


「いや、いい。ほかの国も厳戒態勢だろう。しばらくは様子見だ。」


「了解しました。」

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