36話:騎士道
「・・・お前。なんで戻ってきた。」
「来ないと後悔するから。」
「死んだら後悔する暇すらないのに?」
「ああ。それは死んでも嫌だから。」
「・・・意味が分からないな。生きるよりも大事なことなどないのに。」
「あるよ。」
「・・・それは?」
「矜持・・・名誉・・・いや、”騎士道”だ。」
「それはルプにも言ったな。やはりお前らの考えは分からん。・・・はぁ・・・。怒られるのは嫌なんだがな。」
イグナは目をまた赤くする。そして銃を構え、
「ここで殺す。」
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「アフト。・・・お前、このまま逃げるのか?」
「・・・それ以外に方法はなーー」
「あるだろ。」
下を向いていたアフトはオレアのその言葉を聞いてオレアを改めて見る。オレアは悔しそうに噛みしめていた。アフトはその表情をまじまじと見ることしかできない。
「アフト。さっきからルプの方を気にしてるだろ。」
「分かるの?」
「ああ。簡単に。カーラも分かるだろ?」
「ええ。それはもうはっきりと。」
「・・・。」
「なぁ、アフト。お前、やりたいことあるんじゃないのか?」
「それは・・・。」
「アフトはできないからってやめるような人間かしら?」
「・・・。」
「もしアフトが情報を伝えることが大事だというのなら、それは俺たちがやろう。」
「・・・いいのか?」
「ええ。・・・でもアフトはそこより、きっと自分が負けて私たちに迷惑をかけることの方が嫌なんじゃないかしら?」
図星だった。
「ま。そうでしょうね。その表情を見れば分かるし。」
「・・・俺はこの怒りをぶつけたい、ルプの敵討ちをしたい。・・・俺が死んでも文句言うなよ。」
アフトの目つきが変わる。
「・・・ああ。そうだ。アフト。お前にはその目つきが似合う。」
「オレア。カーラ。もし俺が死んだら・・・いや、この話はしないでおこう。後を任せる。」
「ばっちこい!」 「ええ!」
カーラとオレアは去っていった。
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イグナの弾丸がアフトめがけて放たれる。しかし、アフトは神器と星術でこれを難なく防ぐ。
イグナを殺す条件は二つ。1、一対一であること。2、相手よりマナが少ないこと。俺はどっちも満たしている。・・・ただ、身体能力を上げれるほどのマナを持ってない。どうやってイグナを殺せばいい?
迷いは動作になって現れる。イグナはそれを見逃すほどのバカではない。弾丸を二発放つ。アフトはこれを防ぐが、その隙をつきイグナはアフトに肉薄し、アフトを吹っ飛ばす。
「・・・この程度か?・・・おい、なんだその目は。」
イグナがまた口角を上げようとした時だった。イグナは少し驚く。
・・・あ?これは・・・。
アフトに異変が生じる。アフトの右目は星を宿す。
これが・・・魔眼か?いやでも、魔眼は先天性のものじゃ・・・。いや、この際利用しよう。
魔眼が見えない者は一体どうやって戦うのか。魔眼がなくともマナの圧は分かる。その圧が高ければ高いほどマナが多いと人は思い、そこから逆算してマナの大きさを推測する。では魔眼持ちは?マナとは星術の燃料。それが分かれば星術をどのタイミングで、どんな出力で使うがわかる。それは魔眼を持つものに優位を与える。
銃にマナが籠ってる。・・・多分、もうすぐのタイミングで・・・来た!
アフトは魔眼を利用し、マナの流れを読んで初めて弾丸をよけることに成功した。
「・・・マナの流れが読めるのか。」
イグナはこれに当惑する。
「・・・なんでそんなに不思議そうなんだ。お前も持ってるだろ。」
「魔眼はな。・・・お前のは魔眼じゃない。」
「は?」
「それは・・・。それは星眼だ。」
星眼。それは魔眼の上位互換。魔眼はマナの大きさを見ることしかできない。しかし星眼は、マナの流れすらも読むことができる。
「くそっ!なんでこのタイミングで星眼が・・・。」
イグナは悪態をつきながらも正確無比にアフトを狙う。その射撃はマナの流れを読めるアフトにとっては避けやすいものだった。
「仕方ない。」
そうイグナは言うと、素のエスカマリの星術を使う。イグナは覚星に目を行きがちだが、一級を難なく殺せる以上、星術の扱いに長けてるのは明確だった。イグナはエスカマリでアフトのただでさえ少ないマナと、その身体能力を選ぶ。アフトは肩で息をしながらも、虚空を見つめている。アフトの目は星に王冠を冠し、アスチルベが星を支える。
「やはりその目は・・・。俺たちにとっての”解放者”か。それとも彼らにとっての”反逆者”か。・・・だが残念だ。どちらにせよここで殺さなければ。」
イグナは体力がなく倒れているアフトに向けて銃を構える。アフトはイグナを見ると、アフトは立ち上がった。
「”何を言っている。戦いはここからだろ。” 」
その声はアフトの声とは思えないほど圧がかかっていた。アフトのマナはとんでもないほど膨れ上がる。
「これは・・・くそっ。」
魔眼が使えない。マナが多すぎる。・・・なんだ?なにがトリガーになった?何が記憶を引き起こすトリガーに?なにがアフトを怒らせた?
アフトは一瞬で肉薄する。その姿は覚星があるイグナでも目で追えない。アフトの拳は容赦なくイグナに突き刺さる。その衝撃でソニックブームが発生する。イグナが地面にめり込んで、立ち上がろうとすると、誰かがやってきた。
「・・・おい。何を。した。」
「・・・不信か」
「何を。した。」
「・・・わからん。」
「ふざけるな。あのお方は。言った。双子の王に。アフトが。会うまで。何も。するなと。」
「すまない。いつもの嘲笑癖が出ていたようだ。」
「・・・治したのでは。なかったのか。」
「戦うときはそうはならないらしい。」
「・・・アフトを。対処しろ。」
「俺一人でか?」
「・・・ああ。」
「無理だ。あれはもう、手に負えない。」
「あれほど。あのお方は。アフトの。対処に。気をつけろと。言ったのに。」
「・・・もし放置すればどうなる。」
「国が。崩壊する。」
「クアラルが?」
「ここの。大陸の国。全て。」
「・・・だめか?」
「あのお方は。無意味な。人殺しを。拒絶する。」
「だよな。・・・愚鈍は?」
「多分。もうすぐ。来る。」
そう不信、フィト・アプネアが言うと、フィトの近くに隕石のように落下してきたものがいた。愚鈍である。
「おいイグナ!何をした貴様!」
愚鈍、ティティア・コルティオは落下した瞬間イグナの胸倉をつかむ。
「これは大罪だぞ!」
そういうとティティアはイグナを数発殴る。イグナは何も反応しない。
「不信!どう対処する!」
「全身。全霊で。アフトを。殺さないように。生かす。できれば。気絶が。いい。」
「勝率は!」
「全員。死んで。1パーセント。」
「十分だ!」
「なあ。殺しちゃダメなのか?」
「あのお方は。時が。熟さなければ。アフトと。戦っては。いけないと。言った。私たちは。あのお方の。望みどおりに。そもそも。殺せるなど。夢の。また夢。」
「・・・分かった。」
「星術は。使えるか。」
「ああ。今はな。」
「・・・分かった。ティティア。前線を。張れ。もし。なにか。あれば。すぐ。引け。」
「分かってる!」
コルティオは自信満々に答える。
「イグナ。私は。覚星が。単体に。不向きだ。できるのは。手助けのみ。お前が。主戦力に。なれ。」
「ああ。」
ここで、暴走したアフト対アーテル・リリウムの三騎士が始まった。




