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35話:怯懦

「ルプさん。次の場所ってここですよね?」


「ああ。だが、ちょっと敵が邪魔だな。・・・やるか。」


「え?」


「オレア。あのあたりの敵、全部水で攻撃できるか?」


「氷じゃダメか?」


「覚星してるのか。・・・ま。そうか。そうだよな。分かった。氷で全員一度に殺せ。」


「は?一気にか?それは少してこずるぞ。それに距離があるから氷が完全にできるかも分からない。」


「まあ練習だと思ってやれ。さっき教えたとおりにやれば案外行けるはずだ。・・・もし失敗したら俺とアフトが突撃する。カーラはオレアの近くにいろ。」


「はい!」 「分かったわ。」


「じゃあオレア。やってみろ。」


「分かった。」


オレアは敵が集まっているところめがけて氷を作る。大体の敵は氷漬けにされ身動きができないか、死んだが、位置がずれていたせいで数人生き残ってしまった。


「アフト。行くぞ。」


「分かりました・・・って早!」


アフトが走り出しているときにはルプはもう敵に肉薄していた。


「おい!こいつ誰だーー」


あるものは首を掻っ切られ、


「殺せ!早く誰かに伝えろ!誰でもーー」


あるものは貫手で顔面に穴が開いていた。しかし、ルプの背後にもう一人の兵士がいた。


「死ねぇええ!」


その兵士は、後ろにいるアフトに腹を槍で貫かれた。まだもだえ苦しんでいる。ルプはそれに気づくと、間髪入れずに足で頭部を破壊した。


「いくら何でも容赦なくないですか?」


「それはお前だ。」


「え?」


「なぜ腹を貫いた?背後にいながら重傷を負わせ、命を取らなかった。頭や心臓を貫く余裕はあっただろう。余裕がない時はともかく、余裕があれば即座に命を取らねば、相手をただ苦しませるだけだぞ。それはただの殺人に変わりない。」


「・・・。」


アフトはこの言葉に無言を貫き通した。


「・・・沈黙は反省していると受け取る。次からは気をつけろ。」


「はい。」


ルプとアフトが敵を倒し終わり、オレアとカーラが近づいていた。その時だった。


「よう。」


アフトとルプは彼に全く気付かなかった。髪は女性でもしないような長さで、髪留めすらもせずにそのままになってある。髪は下に近づけば近づくほど汚れているように見える。


「誰だ!」


ルプが言う。


「お前らが最も探していたやつだ。・・・自己紹介をしよう。アーテル・リリウム、怯懦を司る騎士。イグナ・ミューシス。星術はエスカマリだ。」


イグナの目が赤く光る。


「なんで自己紹介を?」


「冥途の土産というやつだ。俺の星術も、覚星もあとで教えよう。喜べよ?」


イグナの口角が上げ、笑った。いや、嘲笑と言った方が正しいだろう。


「どっちもマナは少ないな。なら・・・先にめんどくさい方から殺ろうか。」


目をつけられたのはルプだった。


「っ!アフト!逃げろ!こいつはお前には手に負えない!」


ルプが一瞬で肉薄され、力負けする。


「ああ。待て待て。どうせそいつは殺せないんだ。そういう命令だからな。だからせめて俺の覚星を聞いてから逃げろ。それの方が役に立つだろ。」


アフトはイグナの言葉に内心疑うが、ルプがやられるならどうせ自分もやられるのだからと、仕方なく聞くことにした。


「ああ。それでいい。俺の覚星は、一対一の時、敵のマナが多ければ俺も相手もそれぞれに無敵になる。ただ、相手のマナが自分より少なければ、身体能力とマナが上昇する。どうだ?単純だろ?」


アフトとルプは衝撃を受けていた。なぜならこれが示すのは、一人の弱者が一人で強者に勝たねばならぬという理不尽であったからだ。なにより多人数での協力も意味をなさないのだから。


「理由は・・・まぁ。その表情が面白いからな。ほら、逃げていいぞ。・・・ま、帰るころには二人が貴族を連れて侵攻してるだろうが。」


「・・・ルプさん。」


アフトは自分が悔しかった。アフトが全く太刀打ちできないというのがイグナの圧から分かるのだ。なによりこんな人間に自分が負けているというのがどうしても認められなかった。


「アフト。」


何をすべきかを言われなくても、アフトには何をすべきか分かっていた。


「・・・分かりました。」


ルプはアフトがオレアとカーラを連れて行くのを確認する。


「・・・やるぞ。卑怯者。」


「卑怯者?・・・そうか。お前にはそう見えるのか。」


「ああ。ただの卑怯者。殺人鬼。覚星がそれを物語ってる。」


「よく言われるよ。・・・逆に聞きたいのだが、同じ力のものと戦ったことがあるか?」


「あるさ。ないわけがーー」


イグナは手に持っていた銃ーおそらくアーティファクトだと思われるーでルプの顔付近を貫いた。ルプの頬から血が流れている。掠るというより、ほんの少し抉れていた。


「っ!」


ルプが急いで手を当てようとするが、手を当てたところで抵抗する手段をなくすだけだと気づき、すぐにやめた。ルプの傷は少しだが治っている。


「亜人特有のマナとは別の治癒能力か。たしかにマナをつかう治癒は身体強化の何倍もマナを必要とする。そう考えると合理的だ。」


またイグナは銃を放つ。しかしこれは弾かれた。


「ほう。・・・アルデバランか。亜人はただでさえマナが少ないのだ。ここで使っていいのか?」


「余計なお世話だ。」


「そうか。・・・話を戻そう。なら何故お前はここにいる?お前はただ弱者を甚振り、成長を感じているだけ。俺と何の違いがある?」


ルプはイグナに突然とびかかる。が、イグナは余裕の表情でそれをよけ、銃でルプを叩いた。


「ゴホッ!・・・。」


ルプは睨んでイグナの方を見る。ルプは背中を叩かれた勢いでルプの唾が地面に落ちる。


「前言撤回だ。お前は成長すらしてないようだ。感情に身を任せていいのは子供だけだと分からないのか?」


イグナはルプの頭を踏む。ルプは立ち上がるために相当な力を込めてるらしく、地面の振動からそれが伝わってくる。しかし、イグナはそれすらも容易く抑える。


「確かお前はさっき一撃で人を殺さねば殺人と変わりないと言っていたな。・・・お前は騎士か?ただの冒険者だろ?そのゴミのような矜持は捨てたほうがいい。本当に滑稽だ。」


そういうとイグナはルプを蹴って吹き飛ばした。


「どうする?戦うか?・・・今降参すれば奴隷として生かさせてやる。お前が今までやってきたような殺しではなく、生かすのだ。弱者を俺は助けよう。それが俺だ。怯懦だ。優しさだ。」


ルプはよろっとしながらも立ち上がる。


「お前のどこが怯懦だ。ただの・・・狂気じゃないか。」


「・・・まさか。人の感性を馬鹿にするのか?それにこの言葉をつけたのは私ではない。”あの方”はきっと俺のことを見据えているのだろう。」


「あの方?・・・誰だ。」


「ここで言うのも憚られる存在だ。・・・余興はもう十分だろ。」


「ああ。もういい。」


ルプが最後に言った言葉は、覚悟か、それとも諦めか。どちらにせよ、たくさんの鈍い音が響いた後に、一つの銃声が鳴り響いた。

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