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33話:港町

「いや~。疲れた。」


「お前なんもしてねえだろ。」


「な、周りの警戒はちゃんとしてたぞ。」


「それただ景色を楽しんでただけじゃないか。しかも途中からプロセラ領に入ってたし・・・カーラ。もうすぐ検問所だ。書類の提出用意をしておけ。」


「大丈夫。もう用意してるから。」


「ならいい。アフトは・・・なにもしなくていい。というか何もしないでくれ。」


「はいはい。分かってますよ。」


三人をのせた馬車は徐々に検問所に近づく。


「すまない。身分証明のできる者を提出してくれ。じゃなきゃここを通らせることはできない。」


衛兵が言う。


「分かった。カーラ。」


「はいはい。・・・どうぞ。」


「ふむ。・・・!おっと。ユーゲント家からの使い・・・いや?これは・・・援助ですか!ということは

そちらにいる黒髪の方が神獣殺しですね。」


「あれ。もしかして俺って有名?」


「ええ!なんせ神獣を殺したというのは竜を殺すよりも難しいのは火を見るよりも明らかですからね。神獣を殺したものがいるというのは他の町や領でも噂になっているはずです。その姿も黒髪ですから、すぐ分かりますよ。」


「そこまで言われると照れるなぁ・・・。でも、これだけは心に留めておいてほしいのですが、勝てたのは私だけの力ではありませんから。仲間がいたからこそ、倒せたのです。」


「ご謙遜を。・・・ですが心に留めておきましょう。どうぞ。お入りください。クアラル最大の港町、”ヴェネット”へ。」


「ありがとう!またね!」


「ええ。また会いましょう。」


三人は検問所を過ぎる。門を通り過ぎるとそこはやはり港町であった。微かに香る磯の香が鼻腔をくすぐる。港だからか、店、というか屋台の賑わいもかなり激しい。アフトが首都で見たことのない商品もあった。また、そこにいるのは人だけではない。亜人もいるのだ。アフトにとって亜人は初めてだから、好奇心をあまり抑えきれなかった。


「さすが港町だな。人の賑わいも首都と同じぐらいだな。」


「オレアはこういうところに憧れを持ったりとかしなかったの?」


「あったさ。ただ、俺からしたらそんなことを言うのは烏滸がましいにもほどがあったからな。・・・だが、やっぱり海の匂いはいいな。」


「そう?私はちょっと・・・苦手かも?」


「ま、人それぞれだろうな。アフトはどうだ?この匂いは?・・・アフト?」


「アフトはさっき馬車から降りて近くの屋台に行ったわよ。」


「・・・はぁ・・・。ほんとに自由だな、あいつは。」


「まあ、今はいいんじゃない?」


「プロセラ家までの道をアフトが知ってたらな。」


「・・・呼び戻してくるわ。」


「分かった。」


一方アフトでは


「これください!」


「はいよ。まだ熱いから気を付けなよ。」


「はい!」


「・・・あんた、ここじゃ見たことないね。」


「分かるんですか?」


「ああ。この場所はヴェネットの唯一の出入り口だからね。どこから来たんだい?」


「スピカからです。」


「・・・おや?じゃあ避難かい?だったら運が悪かったね。」


「?なんでですか?」


「今この町は革命派の奪取予定地なんだ。」


「それにしては活気がいいですけどね。」


「逃げられる場所がないからな。どうせならここで戦って死のうってやつが多いのさ。」


「・・・なるほど。あ、今食べてるやつあと三つください。・・・ちなみに避難ではないですけどね。」


「はいよ。・・・え?今なんてーー」


屋台の店主がアフトに対して何か聞こうとすると、カーラがやってきた。


「アフト!どこほっつき歩いてるの!今から公爵家まで行くんでしょ!ただでさえ時間が無いんだから!」


「分かった分かった!・・・すいませんね。また会いましょう。」


「お、おう。・・・公爵家?重要な人物なのか?」


屋台の店主はひっそりとつぶやいた。


「・・・オレア。これうまくない?」


「・・・うまいな。」


アフトは二人に買ってきた食べ物をあげた。

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「ついたぞ。」


「ん?マジ?早いな。」


「アフトさっきから食ってばっかりだな。ほかに買うのあったんじゃないのか?」


「やっぱ食欲には逆らえないね。」


「はいはい。二人とも降りるわよ。」


「てか、門番とかなかったよな。よく入れたな。」


「なんか門番の人が開けてくれた。もしかしたらもうプロセラ家には分かってるのかも。」


「なるほどね~。入ろうか。」


「おい、そそくさと逃げるなよ。ほら、荷物だ。」


「くそ、ばれたか。・・・なんか俺だけ荷物多くない?」


「まあ、さっきまで何もせずに食べてたばっかりだったし。仕方ないわね。」


「うえ~。・・・まあ、甘んじて受け入れますよ。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ようこそいらっしゃいました。オレア様。カーラ様。そしてアフト様。・・・それとも神獣殺し様、と言えばいいでしょうか。」


「・・・それ、流行ってるんですか?”アモル”様。」


アモル・プロセラ。クアラルの貴族の中ではかなり早く公爵家に上り詰めた才媛。なによりまだ若く見えるのが三人を驚かせた。


「あら。アフト様はこの呼び方は嫌いでしたか?」


「その言葉はザニア様やムジカ様に充てられべきです。私一人ではできなかった。」


「ですが、アフト様でなければできなかった。そうでしょう?」


「・・・。」


「そう卑下なさらないでください。ユーゲント大公からのお手紙でもアフト様の実力はお墨付きが与えられていましたよ。・・・確かにアフト様はまだ弱いのかもしれません。しかし、あなたには可能性がある。ここでぜひ成長なさってください。」


「・・・そこまで言われると、肯定の返事しかできませんね。」


「ええ。それでいいのです。」


「さて。三人には早速ですが働いてもらいます。今私たちが置かれている状況は最悪です。」


アモルは三人に地図を見せる。


「私の領は広いですが、その分境界は広いです。海があったのが幸いでしたね。しかし、ユーゲント大公から聞いたとは思いますが、私の領は革命派に囲まれております。正確に言えば四人の貴族です。しかし、爵位が低いので、あまり兵が多いとは言えません。」


「なら、なぜ私たちを?」


「ええ。そうです。もし数が必要なのであればユーゲント家や王家から兵を募れば・・・。」


カーラとオレアが言う。


「・・・三人は”アーテル・リリウムの三騎士”というのを聞いたことがありますか?」


三人とも何も言わない。知ってる人はいないようだ。


「誤解を招かずに言えばトリニティが全世界から雇った三人の騎士たちです。近年は活動がまったくなかったのですが・・・。三人の名前はそれぞれ、”不信のフィト。フィト・アプネア”。”愚鈍のティティア。ティティア・コルティオ”。最期に”怯懦(きょうだ)のイグナ。イグナ・ミューシス”。情報も全く分からず、はっきりと分かっているのは順に、クアラル、バステフ、ゼストの出身だということ。」


「どれくらいの強さなんですか?」


「・・・千の兵を使わせたのですが、一人だけ退却し、『たったの一人にやられた。気をつけろ。』といい、息絶えました。」


「・・・千人でも勝てないと?」


「ええ。お恥ずかしながら。だからお三方を呼んだのです。」


「なるほど。・・・なぜその、アーテル・リリウムだと分かったのですか?」


「・・・自己紹介をしたらしいですよ。」


「え?」


「詳しくは分かりませんが、病院に行って、そこで息絶えるまでに事情聴取を行ったのですが、そこで、当人がアーテル・リリウムの一人だった、と言ったらしいです。・・・今思えば逃げた、のではなく生かされた、のでしょうけどね。残念ながら三騎士の内誰かは分かりませんでした。」


「なるほど。」


「早速ですが明日から三人とあと一人で偵察を行ってもらいます。今のところ四人の貴族たちは攻撃は確認されておりません。ですが十分お気をつけて。アーテル・リリウムの誰かと遭遇する可能性はあり得ますから。」


「あと一人、ですか?」


「ええ。実力は申し分ないですよ。明日になれば分かります。」


「分かりました。」


「部屋は自由に使って結構です。食事も、お金も用意はありますから。」


「心遣い、感謝します。」


「ええ。ではまた明日会いましょう。」


アモルは去っていった。


「・・・オレア。」


「言わなくても分かる。・・・どうやら、だいぶ状況は不味いらしいな。」


「明日までに準備とかもできないしね。」


「・・・まあ、三人で屋台巡りでもするか。」


「え?いいの?」


「せっかくだし、なにか思い出作りでもしようぜ。じゃないと後悔まみれで明日行くことになるぞ。」


「まあそうか。・・・カーラもいい?」


「ええ。いいわよ。」


三人は各々の部屋に行き、荷物を置いて、屋台のあるところまで行くことにした。

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