30話:悩みと星々
「アフト!よくやった!」
帰って早々、メシエ様に握手され、その手を上下に何回も振られた。
「メ、メシエ様。少し落ち着いてください。」
「これが落ち着いていられるか!アフトは神獣を撃破したんだぞ!逆になんでそんな落ち着いていられる?」
「私のおかげではありませんよ。カーラ、ザニアちゃんにムジカさん。どれも欠けてはいけなかった。」
「それはお前も同じだろ?アフト。」
「・・・まあ、それはそうですが・・・。」
「今日と明日はゆっくり休みなさい。明後日からまた本格的に動いてもらう。」
「・・・今の戦況はどうなっているんですか?」
「まだ膠着状態言っていいだろう。ただ、お前たちのおかげで首都の戦力がかなり動かせることになった。これで斑にある守護派の貴族にも支援ができる。時間はかかるだろうが、守護派が次第に優勢になっていくはずだ。・・・特に何もなければな。」
「そうですか。なら・・・よかった。」
「・・・疲れているだろう。私なんかと喋ると余計に疲れるぞ?休んだり、オレアにお見舞いに行ったらどうだ?」
「そうですね。・・・では、今回はお言葉に甘えて。」
「ああ。それでいい。」
アフトは部屋を出る。
・・・先にオレアにでも会いに行くか。
アフトはオレアがいる部屋に向かう。
「おい。入るぞ。」
「アフトか。いいぞ。」
「・・・オレア。体の具合は?」
「まあまあだな。ポーションを使ったから体の外傷も、腕もなんとかなったけど、体はまだきついな。」
「だろうな。・・・メシエ様から話は聞いたか?」
「ああ。聞いたよ。休みのことだろ?アフトも休めばいいのに。」
「いや~。遺言ぐらいは聞いとかないといけないなって思って。」
「おい。まだ死なねえよ。」
「そんな反応ができるなら大丈夫か。・・・明日、何もなければ一戦どうだ?」
「おいおい、まだ病み上がりだぞ。」
「でもそのままだと体が鈍るぞ?」
「・・・ま、明日になったら考えるわ。」
「分かった。また明日な。」
「ああ。また明日。・・・あ。」
「?どうした。」
「ヴァイツ様がアフトに会いたがってたぞ。なんか伝えたいことがあるって。」
「?分かった。もしあったら聞いてみるよ。」
「おう。またな。」
「じゃ。」
アフトはオレアの部屋を出て行った。
ヴァイツ様が俺に伝えたいこと?皆目見当もつかないな。・・・ま、明日にでも聞けばいいか。・・・特に何もやることとかないし、寝てもいいんだけど。まだ体力もあるんだよな。どうしよ。
「あ。アフトじゃない。」
「カーラ。どうかしたの?」
「ちょうどよかったわ。今から首都を散策しようかなって思って。一緒に行かない?」
「え。今、夜だけど。」
「だからいいんじゃないの?で、行くの?行かないの?」
「う~ん。じゃ、行こうかな。暇だし。」
「アフトならそういうと思ったわ。」
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「ここあたりはそんな散らかってないな。」
「被害が顕著なのはリヴァイアサンが通ったところだけだからね。特に首都内で人同士の戦いは起こらなかったわ。・・・ただ、その代わりリヴァイアサンが通ったところは地獄よ。そこにいた人は建物の破片と内臓が混じってたり、原形がない代わりに血だまりだけがあったり。実際アフトたちが来るまで何人の兵士が犠牲になったか。」
「・・・そうか。」
「・・・ねぇ、アフト。」
「どうした?」
「なんで、革命派の人たちはさ。私たちを裏切ったんだと思う?」
「・・・分からない。でも、分かったところで、この戦いは終わらないと思う。」
「アフトはそう思うのね。・・・うん。至極真っ当な意見だわ。」
「カーラ。なんか様子が変だぞ?何があった?」
「・・・私がアフトのキスをした場所、あったでしょ?」
「・・・ああ。あったね。それが?」
少しアフトは頬を赤くする。しかし、アフトはカーラの真剣な表情を見て、変な感情を捨てた。
「そこにさ。顔すら分からない死体があったの。その人ってさ。誰にも覚えられることなく死んでいくわけじゃない?それってすごく寂しいことだと思うの。最期ぐらい、自分の好きなように生きたいはずなのに、それもできないなんて。」
アフトはカーラの意味深な言葉に耳を傾ける。
「・・・私さ。できるならだれも殺したくなんてないの。それがたとえの自分を守る最後の手段だったとしても。もちろん私は死にたくなんてないし、きっとそういう場面に出会えば容赦なく殺すでしょうね。・・・ねえ、アフト。どうして戦いって起きるの?なんでアフトはそんな残酷なことを許容できるの?」
アフトはこの言葉にすぐに反応できなかった。すこし時間が経って、話し始めたのはカーラからだった。
「あ。もちろんアフトのことを貶してるわけじゃないの。・・・ちょっといきなり過ぎたわね。忘れてーー」
「待って。カーラ。もう少し考えさせてほしんだ。」
「・・・分かったわ。」
アフトとカーラ、どちらも喋らない時間が続く。カーラはその間、近くの建物を見ていた。
「・・・きっとさ。俺たちって戦うこと以外で、対立すること以外で自分の正しさを証明できないんだと思う。」
アフトがそうつぶやく。
「もちろんこれはすごい残酷なことだし、認めたくない気持ちもある。けど、それは目を逸らす理由にはならない。」
「アフトはそれを許容してるの?」
「・・・どうだろう。認めたくないけど、心のどこかで認めてるのかもしれない。・・・でも、変えてはいけるんじゃないかな?」
「変える?」
「うん。例えばさ、自分の思いの丈を相手に伝えてみたり、何をしてほしいのか聞いてみたり。そんな些細な、けれど大きなことでその残酷なことは変わっていくはずさ。」
「・・・じゃあ、そのためには、自分を守るためには人を殺せるの?」
「いいや。それは自分の為じゃない。きっと、自分の大切な人のためじゃないかな?」
「大切な人、ね・・・。」
「うん。自分のために生きたら、自分が何をしているのか分からなくなる。きっと、自分っていう立場は誰かのおかげで、相対的になって初めて分かるんだ。」
「なるほどね。・・・なんか変な空気になっちゃったわね。」
「誰にでもそんな時はあるよ。感傷的になってしまうことはあるよ。」
「・・・そう。・・・ねぇアフト。あの星見て。すごい綺麗じゃない?」
アフトはカーラが指で指した星を見上げる。その星はどんな星よりも輝いていた。
「・・・ああ。そうだな。・・・でも、俺はその星より、ああいう星の集まりの方が好きだな。」
アフトが指したのは星々が一面に輝く、ただの星の集まりだった。
「珍しいわね。なんで?」
「一人で誰よりも輝くより、みんなと一緒に輝いた方が楽しいに決まってる。」
「・・・なんだかアフトらしいわね。」
「そう?」
「ええ。・・・ねぇ、アフト。こっち向いて?」
「ん?」
カーラはアフトの唇にキスをした。
「・・・おっと。」
「えへへ。これはお礼よ。ありがとね。」
「・・・また悩んだら、いつでも聞いて。」
「あら。いいの?」
「うん。だって毎回キスしてくれるんでしょ?」
「・・・さぁ?どうかしら?」
カーラは少し意地悪な顔をする。
「・・・さ、かえって休もう。めっちゃ眠い。」
「実は私も。一緒に帰りましょ?」
「喜んで。」
空は未だに、一面の星と、一等星が輝いていた。




