29話:首都包囲戦
「・・・アフト。お前がここにいるってことは・・・。」
「ああ。リヴァイアサンは死んだ。だから俺も心置きなく参戦できる。」
「・・・リヴァイアサンを殺したの?」
アラネアはすこし動揺しながら聞く。
「・・・ああ。」
「は・・・はは・・・。まさかね。あれは神獣だよ?・・・やはり神器持ちは危険だ。私達の計画の変数だ。ここで殺す。」
アフトはアラネアから怒りを確かに感じた。
「オレア。下がってて。」
「ああ。ただ支援は少しはできそうだ。もしなにかあったら遠慮なく言えよ?」
「・・・その姿で?」
「ああ。もちろんさ。」
「・・・犬死だけは勘弁願いたいな。」
「分かってるよ。」
アラネアはアフトに向けて炎を吐く。
「炎!?」
「アフト!少し下がれ!」
アフトがアラネアの吐く炎に驚いていると、オレアがアフトの前に広がる炎に水をかける。
「竜って炎吐くんだな・・・。知らなかった。」
「嘘だろ・・・。アフト。炎は俺がどうにかする。接近戦はアフトに任せる。」
「ああ。分かった。」
アフトは剣を構える。しかしアラネアの竜はすでに体の傷を全て癒している。竜を対処する点で一番困らせるのは間違いなく、飛べる、という点だった。アラネアはアフトに火球を十発ほど放つ。アフトはこれをぎりぎり対処できた。しかし、アフトの戦い方の性質上、アフトの服は少し焦げている。
「治るの早すぎだろ。・・・オレア。俺だと殺すのは無理だぞ。遠距離は正直無理だ。」
「こっちもきつい。まだ戦場に雨を降らす必要があるから本気で戦うとアンタレスに行動を許すことになる。あと普通に厳しい。」
「・・・あはは!君たち竜を殺せると本当に思ってるの?竜はね、あらゆる動物の頂点なんだ。そんな動物の王に軟弱な人間がどうやって勝つのさ?しかもこの竜は神話時代から生きてるからね。そんじょそこらの竜でも勝てないのさ。」
本当に助かったよ。アフトが遠距離も攻撃出来たら、いくら竜でも致命傷を負うだろうしね。このままやれば・・・なんだ?なにか違和感が・・・
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そこは炎にまみれた一種の戦場であった。あらゆる人が斃れており、焼け死んでいる。しかし、そこにたった一人の男がやってきた。その男は服装に見合わない豪華な外套を着ていた。
「・・・君か。この場所を荒らしているのは。」
竜はそのちっぽけな男に火を吐く。しかしその男は何事もなかったかのように立っている。
「やめてくれないだろうか。この服はわざわざ私の為を思って仕立て屋の人が作ってくれたのだ。」
竜は全力で火を、火球を出す。しかし、その男には微塵も攻撃が効いていない。
「平和的に解決をしないか?君がどこかに行けば、私も何も攻撃をしないと約束しよう。」
男は手を差し伸べる。しかし竜はその手を全力で弾き、潰そうとした。が、できなかった。男には外傷すらもつけられない。その男は変な首飾りをしている。
「・・・仕方ない。私はこのような方法をとりたくなかったが。」
男は剣を鞘から取り出す。その剣はあまりにも禍々しかった。
「しかし、殺すのは忍びない。だからその四枚の翼の内、二枚をここで切り落とそう。できれば逃げてほしい。もし四枚を落とせば、君はきっと飛べなくなる。」
その男は悲しそうだった。男は目にも見えない速度で私の二枚の羽をそぎ落とした。
「・・・逃げないか。仕方ない。」
男はそう言っても何もしなかった。いや、もう行動はすでに終わっていた。私が見たのは、黒い髪を持ち、殺す相手にすら慈悲の涙を流す、変な男が私の親を殺す瞬間であった。
「・・・君は。」
その男は、私の方に顔を向ける。
「・・・すまない。君の翼も二枚切る。報告が上がっているんだ。」
その男は私の羽を四枚の内二枚を確かに切った。生存本能かは分からないが、私は羽ばたいて逃げようとした。
「そうだ。逃げなさい。そして生きなさい。君には、竜には自由に空を飛ぶ姿が似合う。」
その男は追撃などせず、ただ私を見続けていた。そのやけに優しい目が、表情が、どんなことより怖かった。
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これは・・・竜の記憶?時々自然にいた動物とは記憶を同調することはあったけど。何で今ーー
「・・・アフト。」
「あ?」
アフトは急にアラネアに話しかけられる。その声は少し怯えていた。
「なんで君は、ここにいる?」
「は?どういうーー」
「君は、いったい、何者なんだ?」
「・・・何を言っている?」
アフトもこれには戸惑うしかなかった。
「き、君は。なんでーー」
その時だった。アラネアに向かって何かが飛んでそれが爆発した。アフトはその方向を見る。
「ヴァイツ様!」
「待たせたな。アフト。後は私に任せろ。」
「はい。おい、行くぞ、オレア。」
「・・・すまん。肩貸してくれ。」
「ええ~。仕方ないな。」
アフトとオレアは急いでほかの対処しやすそうな方へ向かう。
「・・・おい。何故竜が泣いている?」
アラネアは涙を両目から流していた。
「・・・今は戦う気分じゃない。帰る。」
「おい。まさか逃げれるとでもーー」
「うるさい。黙って。」
その人睨みはヴァイツすらも黙らせた。さすがは古代竜といったところか。そういうとアラネアは颯爽と竜殺しを背に飛び立っていった。
「・・・なにがあったんだ?」
ヴァイツはこれに戸惑うばかりだった。しかし、ヴァイツにとっても、ここで戦ってる人にとっても竜が飛び立ったのは間違いなく朗報だった。太陽はすでに隠れる寸前だった。
「・・・あとは消耗戦か。」
とうに戦況は守護派へと傾いていた。
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「アフト。ここあたりでいい。」
「分かった。」
アフトはできるだけ安全な場所を選んだ。オレアは戦いたかったが、アフトがオレアの体を鑑みて、この場所を選び、オレアが渋々承諾したのだ。
「・・・カーラは?」
「ああ。ユーゲント家に行った。カーラの星術はそこまで戦い向きじゃないから。」
アフトは唇をすこしさする。
「?どうかしたのか?」
「いや、なんでも。」
「そうか・・・。なぁ、アラネアの様子、さっき変だったよな?」
「ね。俺もそう思った。」
「急にアフトを凝視したかと思えば、怯えだすし。まぁ、助かったといえばそうなんだけどさ。」
「ね。・・・ん?あれカーラじゃね?」
「ほんとだ。なにかあったのかな?」
カーラが二人に走って向かってくる。
「カーラ。どうしたの?」
「戦いは終わりよ。ある程度収拾の見込みがついたから。」
「あれ?もう終わり?」
「もう、って。今、夜よ?・・・ってかオレアの傷大丈夫なの?」
「ああ。何とかね。正直氷が止血にも役立つとは思わなかった。・・・てかそろそろ雨止ませてもいい?」
「え。この雨オレアが降らせてるの?」
カーラが言う。
「ああ。ヴァイツ様がアンタレスの妨害に役立つからって。」
「ああ、なるほど。・・・まぁ、いいんじゃないかしら?父様と二班の芸術家はもう少し残るらしいし、なにかあっても対処できると思うから。革命派の兵士もほとんどいないし。」
「え、もういないの?」
アフトが驚いて言う。
「ああ。二人の芸術家が片っ端からやっつけて行った。普通に怖かった。どっちも独りでいったから心配だったんだけど、俺の方がやばかった。」
「まじで?」
「ああ。・・・いったん雨止めるわ。」
オレアは雨を晴らせた。
「・・・よく持ったな、マナ。」
「だろ?結構自信があったんだ。サダルスードはそもそも効率がいいからな。」
「話は後でね。今はさっさとユーゲント家に戻るわよ。オレアの怪我を治す方が先よ。」
「「は~い。」」
こうして、首都に関する戦いはある程度落ち着いた。




