28話:リヴァイアサン戦②
オレア目線
「・・・確か名前はオレアと言ったな?」
「ええ。ヴァイツ様。」
「・・・アフトはどうだ?」
「学校の様子ですか?・・・まぁ、上手くやれてる方だと思います。・・・多少常識不足が見えますけど。」
「あはは。だろうな。・・・でも、アフトに友達ができてよかったよ。」
「そうですか。・・・二班の芸術家は単独行動しましたけど、大丈夫ですかね?」
「二人とも独りが好きなんだろう。芸術家の心情は凡人には分からないから、受け入れなければ。」
「・・・そういうものですか。」
「ああ。・・・そろそろだ。見えてくるぞ。ほら。」
ヴァイツが指を指したのはクアラルの兵士たちが魔獣やほかの兵士と戦っている様子だった。クアラルの兵士はスピカを使うものが多い以上、魔獣の接近を許さなければならず、覚星をしていない者は苦戦を強いられていた。
「これは・・・。」
「オレア。ここら一帯に雨を降らせるか?アンタレスの星術は広範囲に影響を与える。アンタレスがサダルスード相手に苦手なのは知っているだろ?」
「ええ。分かりました。」
オレアは見渡せる範囲全体に雨を降らせる。
「かなり広く降らせれるのだな。どれくらい持つ?」
「戦わなければ一日。ですが戦えば8時間ぐらいです。」
「・・・マナがかなり多いんだな。」
「ええ。昔からそうだったんです。」
「・・・オレア、君は兵士の支援に徹しろ。変に前線に出るな。前線は芸術家と私が食い止める。」
「分かりました。」
ヴァイツは無数のマナの塊を作り出す。
「・・・これは・・・。」
「どうだ?私のマナは?」
「最高です!」
「だろ?」
ヴァイツはそのマナの塊全てを魔獣に、敵の兵士にぶつける。なによりヴァイツの覚星が、爆発がその影響を強烈にしていた。すべての兵士はそのマナが来た方向を向く。
「全軍聞け!我々はこんな下賤な敵に敗れるほどの芸の歴史を編んできたのか!違うだろ!我々の歴史はこの国に生まれた人々の輝きを記したもののはずだ!我々は国賊どもを食い止め、粛正する機会を得たのだ!この私に、竜殺しに、勇敢なものは続け!」
その掛け声にクアラルの兵士の士気は上がり、逆に敵の士気は竜殺し異名のおかげで下がっていく。
「・・・さすがヴァイツ様だな。士気の上げ方も知ってる。やはり力が必要な貴族とはああいう人のことを言うんだろうな。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数時間後 ヴァイツ目線
「・・・これであらかた魔獣共は片付いた。あとは兵士の支援に徹すれば・・・。この調子だと一日は持つだろう。」
その時だった。ヴァイツは昔と似た気配を感じる。
「・・・竜?なぜここに・・・。」
「やぁ。竜殺し。」
ヴァイツはその喋る魔獣の操り主のことを聞いたことがあった。
「・・・アラネアか。」
「おや。聞いたことあるのかい?ま、どうせあの子のせいだろうけど。」
「・・・まさか竜を殺すのが難しいなどと思ってはないだろうな?」
「まさか。それにここにいるのは私だけじゃない。」
「・・・は?」
ヴァイツは後ろから何者かに刃物で刺される。しかしその何者かはヴァイツに追撃を加えようとしたが、ヴァイツはすぐにカウンターに出、あっけなく避けられる。
「やぁ!久しぶりだね!ヴァ・イ・ツ♪」
「・・・誰だ?」
「ああ、覚えてないのも無理はない。だって人は殺したものを覚えていない。」
「・・・ああ、そういうことか。お前。俺が殺した貴族の息子か。」
「・・・俺の名前は覚えてないのかい?”ルナ”だよ。・・・でも褒めてあげる。だって人殺しとは思えない頭だからね。」
「こっちも同じことが言えるな。」
「まあでもいいよ。俺がここで殺されようが。もうアラネアは自由に行動してるから。」
「・・・何故お前と戦う必要がある?」
「あはは!面白いこと言うね!お前がやった復讐とさほど変わりないのに?相変わらず馬鹿なのかな?・・・いいさ。やってみなよ?」
ヴァイツは自由に動こうとするが、ルナから目を離せない。
「・・・スピカか。」
「ああ!そうだよ!お前への復讐心のおかげで覚星したのさ!・・・せいぜい足掻けよ!」
「は。自分でも鼓舞してるのか?すぐ殺してやるよ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アラネア目線
「さて。ルナのおかげで自由になったわけだけど。いくら私でも竜殺し相手だと分が悪いしね~。好き勝手暴れまわるとするか。」
その時、飛んでいるアラネアの下から氷柱が何個も飛んでくる。
「降りてこい、アラネア。お前の相手はこっちだ。」
・・・遠距離攻撃ができるのはここで殺しておいても損はないか。仮に死んでも本体は無事だし。適当に遊んで捨てよう。
「・・・いいよ。面白そうだし。名前は?」
「オレアだ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アフト目線
「ここは・・・カーラ?なんでここに?それにその怪我・・・。」
「いいのよ。別に。強引に運びすぎて転んだだけだし。・・・それよりアフト。マナが無いんでしょ?」
「・・・ああ。情けないことに。」
「・・・まあそのために私がいるんだけどね。」
「?どういうーー」
「聞いて、アフト。ムジカさんは今も音を奏でてるわ。一人で戦ってるの。ザニアちゃんはどこに吹っ飛んだかは知らないけど、それでもこっちに向かってくるはず。アフトはどうする?ここでやめたい?」
「まさか!そんなわけないだろ!できるなら今でも戦いたい。けど・・・。」
「マナが無いんでしょ?いいわ。助けてあげる。目を閉じて。」
「え?なんで?」
「いいから早く!」
「わ、分かったから!」
なんでそんな強引に・・・。まあいいけど。
そうアフトが疑問に思ってると。ふと、アフトの唇に温かい感触が届いた。
「・・・へ?」
「どう?マナは増えた?」
「・・・う、うん。増えた。けどーー」
「安心して。私のファーストキスだから。」
その言葉はアフトを余計に動揺させた。
「え、ええええ!?な、なんで?」
「それは後からでいいでしょ?今はアフトがやるべきことがあるはず。大丈夫よ。アフトならできるわ。・・・それとも、まだ足りない?」
「まままま、まさか。もう大丈夫だよ。」
「そう。じゃ、頑張ってね!」
「・・・ああ!任せろ!!」
そういうと、アフトは綺麗に笑った。アフトの背中の黒い翼も大きく羽ばたく。そしてムジカのいる方へと向かう。カーラはぽつんと一人取り残された。
「・・・まあ、キスじゃなくてもよかったんだけど。・・・思い出すと恥ずかしくなってきた。」
一人でカーラは悶々としていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・。」
このままではまずいですね。正直誰かが壁になってくれなければ。僕は完全に支援系ですから。だれか・・・・
リヴァイアサンはムジカへと向かう。
「くそっ・・・おっと?」
なんだ?急に動きが・・・あれは!
「ムジカさん!音楽をお願いします!」
そこにはリヴァイアサンを攻撃し、気をそらしているアフトがいた。
「アフト!・・・分かりました!」
あれは・・・マナが増えている?・・・さてはカーラが何かしましたね。アフトからも幸せな音が聞こえる。でも、ちょうどいい!
「maestoso!」
ムジカがタクトの振り方を変えると、周りの音符は黒っぽい色に変わり、重低音を響かせる。リヴァイアサンはアフトへとまた向かう。アフトのつけた傷は未だに完治していないものの、それでも徐々に治っている。翼は壮大な音楽とともに動く。
「うぉおおおお!!!」
アフトの斬撃にリヴァイアサンは耐えるしかない。アフトを殺すための厄介な動きもカーラのマナをもらったアフトは軽々とその黒い翼で避ける。アフトから繰り出される攻撃は、いくら神獣と言えど簡単に治りはしない。なぜならそれは神器なのだから。なによりアフトの星術が傷の深さに拍車をかける。リヴァイアサンは確かに弱っていた。しかし、誰も油断はしない。何時間と続いた戦いは、夕暮れをもって終止符を打とうとしていた。
「ムジカさん!」
「ええ!分かってます!drammatico!」
その音楽はフィナーレを飾るのにふさわしく、あらゆる音楽が一体となって、綺麗に大きく奏でられる。リヴァイアサンはこれから逃げようとする。が
「させません!ワープホール!」
突然リヴァイアサンの真ん前に巨大なワープホールが出現し、リヴァイアサンは強制的にアフトの目の前に出る。しかし、アフトはさすがにこれを予想していなかったらしく、そのままリヴァイアサンの巨大な口の中へ入る。
「アフト!」
「カーラ!見ていてください!アフトの覚悟を!」
ムジカの声と、ムジカに流れる汗は、確かに曲はクライマックスへと確かに盛り上がること、加速を意味していた。その時、リヴァイアサンの体から隙間が見えだす。そこから見えたのは巨大な太刀と、黒い髪のちっぽけな少年。アフトは黒い翼で飛び、体が分断されたリヴァイアサンめがけて太刀を振りかざす。
「ここで決める!!」
音楽はアフトを楽器として確かに躍動を見せていた。体を分断されても体が少し動くのはさすが神獣と言ったところか。アフトはリヴァイアサンの顔面を何度も異なる剣で切り、全ての胴体を、空いた断面から見える食道のような穴から外側へと何度も殴り、切り、刺した。そして尻尾にアフトが達したところで、リヴァイアサンはついに抵抗をやめる。最後にアフトがリヴァイアサンの頭部に剣を指したことで、ムジカは演奏終了の合図を執る。
「・・・これは。」
カーラが呟く。
「ええ。終わりました!終わりましたよ!皆さん!なんと素晴らしいことでしょう!この目があれば涙を流したはずです!」
ムジカが叫ぶ。
「・・・終わったのか。」
アフトが小さくつぶやく。
「三人とも!まだ完全には終わっていません!カーラとアフトは急いで二班に合流してください!ザニアとムジカはリヴァイアサンの死を確認し、メシエ様に報告してから行きます!」
「分かった!」
「あ、翼返してもらいますね。」
「お、おう。・・・行こうか。カーラ。」
「ええ!」
アフトとカーラは二班のもとへ急ぐ。
「・・・ザニア。助かりました。あの時ワープホールが無ければ。」
「いえいえ!残ってた鏡の反射で分かったんです!ムジカもよく頑張りました!」
ムジカはザニアに撫でられる。
「あはは・・・。しかし。アフトはすごいですね。もちろんカーラも。」
「ええ!二人ともすごいんです!」
ザニアはえっへんとでも言いたそうな表情でムジカにそう言う。
「・・・少し休憩してから行きましょう。マナが余りありません。」
「ザニアもそうします!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・くそ。」
オレアはすでに満身創痍であった。傷は深く、氷でその傷を無理やり塞いでるに過ぎない。片腕はもう取れている。
「オレア。その程度か・・・。まぁ、持った方じゃない?」
「・・・お前。本気出してないだろ。」
「当たり前じゃん。なんで子供に本気出すのさ。」
・・・そろそろヴァイツが勝つな。どうせ時間稼ぎだったし。邪魔な奴も、兵士もたくさん殺したし、十分でしょ。
アラネアがオレアを殺そうと手を伸ばす瞬間、その竜の大きく固い腕は吹っ飛んだ。
・・・なんで?ほかの魔獣はともかく、竜の皮膚はそう簡単に傷はつかないし、ましてや切断など・・・まさか!
そうアラネアが思った時には遅く、竜の背中にある両翼はすでに切られていた。
「オレア!これで貸は無しだぞ!」
「!アフト!」
「・・・アフト!」




