26話:首都事変
クアラル ユーゲント家にて 月は7月 つまり祝期
「まずは来てくれてありがとう。ヴァイツ。こんな忙しい時に。」
「とんでもございません。なにか事情があったのでしょう?」
「ああ。だが、本題に入る前に。・・・すまなかったな。」
「・・・何のことでしょうか。」
「君の妻のことだよ。困っていると知りながら、何の手助けもしなかったからな。許してほしい。」
メシエは頭を下げる。
「・・・顔を上げてください。もう時間はかなり経ちましたから。正直今謝られるのは驚きましたが、それでも謝ってくれて嬉しかった。メシエ様には何の関係もないのに。」
「・・・そうか。ありがとう。」
「それで。きっと何かあったのでしょう?話してください。この竜殺しが必要なのであれば。」
「・・・もう祝期になってしまった。クアラルはここから崩壊し、再興するのだろう。何か起こるのか分からない。だから、君の力を貸してほしい。きっと総力戦となるだろう。無辜の民を守るためにその力を貸してほしい。」
メシエは手をヴァイツの前に出す。
「・・・もとからそのつもりでここに来たのです。喜んで貸しましょう。」
ヴァイツはメシエの手を握る。
「よかった。君は何かあるまでここで待機していてほしい。すでに私の私兵や芸術家、アフトたちは配置している。今は祝期を、祭りを楽しんでいるだろうが。」
「そうですか。よかった。・・・ああ。そうそう。手紙の件。拝見いたしましたよ。バルカンですか。なかなか懐かしい名前を聞いたものです。アフトがこれを言い出したのには驚きましたが。」
「知っているのか?」
「ええ。バルカンというはーー」
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「いやぁ。いい賑わいだね。」
「そうだな。祭りに参加するのは初めてだわ。」
「あ、そうなの?」
「うん。アフトも?」
「ああ。ただ、あんま人が多いところは好きじゃないけど。」
「ええ。俺と真逆だわ。」
「ねえ。二人とも。今の状況分かってる?」
「分かってるよ、カーラ。俺とアフトは調査をしてるんだ。だから何も言わないでくれ。」
「・・・じゃあ、今咥えてるその料理も調査なの?」
「ああ。もちろんだ。だろ?アフト。」
「はんへ?ほういっはいひっへふへ。」
「・・・。」
「・・・アフト。もうお金渡さないからね。」
「ん!?・・・ちょ、ちょっと待ってくれよ。こんなうまい料理食べないのはむしろ失礼じゃないか?」
「調査じゃないのでだめで~す。」
「あ~あ。アフト。やっちゃったね。」
「オレアもね。」
「え!?・・・おいアフト!お前のせいだぞ!」
「いやぁ。なんのことだか。」
「・・・はぁ。次の場所行きましょ?ほかのとこも見に行きたいわ。」
「いいね。賛成。オレアは?」
「いいよ。行こうぜ。」
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人がいない裏路地にて
「サクサリ。ここでいいのか?」
「ああ。できるだけ人がいない場所がいい。あと、俺は切り札を切ったら多分気絶する。後を頼む。」
「そんなにやばいのか?」
「ああ。これは王から預かったものだから。俺の身の丈には合わん。」
「そうか・・・。そのあとはどうするんだ?」
「俺をいったん比較的安全な場所において二人で行動してくれ。俺は目覚めたら一人で行動する。最悪邪魔なら殺してくれ。」
「・・・分かった。その時はアールーと行動する。何か言っておくべきことは?」
「俺が切り札を出したらそれが狼煙になる。きっとクアラルの内通者とその仲間が一斉に動き出すだろう
。ただ運がいいことにクアラルの主戦力は全部首都内にいる。俺たちがすべきなのはその主戦力の足止めだ。もし切り札が死んだら・・・その時はお前らもせいぜい足掻いて死んでくれ。」
「・・・了解。」 「分かった。」
「じゃあやるよ。・・・自由の名のもとに。召喚。”神獣・リヴァイアサン”。」
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その時、何もないところから街を一つ覆うほどの巨大な蛇のようなものが現れる。その付近あった建物は全て吹き飛び、大地は唸るのみ。首都に、いやクアラル全土から見てもしっかりと分かるその狼煙の正体は、神話時代、ユーシャルの大陸を荒廃させた歴史上の生物。リヴァイアサン。破壊の使者。それを遠くで見ている者はつぶやいた。
「・・・時は来た。反旗を翻そう。今こそ歴史の秩序という汚点を消毒し、自由を作るのだ。我々はその偉大なる第一歩となるだろう。・・・我々に敵対する全ての貴族に宣戦布告せよ。これが最後通牒となる。・・・自由の名のもとに!」
「「「自由の名のもとに!!」」」
兵士は叫ぶ。
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「アフト・・・。いったい何が起きた?」
「分かんない。もしかしたらもう始まったのかも。」
「そう考えるべきね。いったん動きましょうか。おそらく今首都は混乱状態よ。周りを見れば分かるけど、みんな逃げ惑ってる。それにあの大蛇のようなやつも怪しい。アフトかオレア、どっちかあれのこと知らない?」
「いや。俺は知らん。アフトは?・・・アフト?」
「・・・なんで。」
「え?なんて?」
「あれは・・・。まずい!」
アフトは一目散にその大蛇へと向かう。
「アフト!落ち着け!今向かっても死ぬだけだ!」
「・・・はっ。・・・すまん。」
「それで?あれは何なの?」
「リヴァイアサンだ。」
「リヴァイアサン?なにそれ?カーラは知ってる?」
「いや。まったくわからない。」
「七大神獣の一つ。ユーシャルを破壊しつくした厄災。」
「神獣!?なんでそんなやつがここに!?」
「分からない。でも、今はそんなことより・・・カーラ、オレア。役割を分担しないか?」
「どういう風に?」
「俺とオレアが組む。カーラはユーゲント家にこのことを伝えて、できれば援助を頼むようにしてほしい。多分リヴァイアサンのことを知ってるのは俺だけだと思うから。」
「俺たちは?」
「現地をまわる。多分国の兵士か誰かが市民を非難させてるはずだ。その手助けと、もしかしたら内通者に出会うかもしれないから、その始末。スピカはあまりこれには向いてないだろう?」
「分かった。カーラは?」
「分かったわ。ただ、何かあったらすぐに逃げるのよ?」
「分かってる。行くよ、オレア。」
「了解。」
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「しかし。よく知ってたな。」
「なにが?」
「あいつがリヴァイアサンなんて。」
「・・・多分昔の記憶だ。こいつを見たことがあるんだと思う。・・・本とかで。」
「なるほど。・・・倒せるのか?」
「多分持久戦になる。リヴァイアサンのもっとも強いところはその大きさと耐久力、回復力だから。なにか切り札がいる。」
「・・・アフトの神器はだめなのか?」
「分かんない。やってみないと。でも、そんな風に近づいてると多分死ぬ。」
「そうか・・・。おい。あれ誰だ?」
オレアが指を指したのは避難している人とは真逆に進んでいる三人、いや、一人は肩に乗っかっている。アフトは彼らを見たことがあった。
「シュタール!!!」
「っ!くそ!神器持ちか!アールー!頼む!」
「分かってる!」
アールーは間一髪でアフトの斬撃を受け止める。だがその剣にはアフトの星術が込められていた。アールーはそれを見逃し、腕に攻撃を受ける。だが、切断には少し届かなかった。しかしそれはアフトも一緒。アールーが星術を行使していたことに気づけない。
「・・・うっ。これは・・・。」
気持ち悪い。そういうやつか。だめだ。意識が・・・。
「アフト!」
オレアが雨を降らせ、有害な空気を雨と反応させる。その結果、アフトの近くにあった気体は地面へと流れていった。
「・・・オレア。助かった。」
「先に言ってから行動しろよ。・・・この三人を殺せばいいんだな?」
「ああ。内通者ではないけど、それでも殺さなければ。」
「了解。」
アフトは剣を構え、オレアは水球を維持する。
「・・・どうするシュタール。アンタレスはサダルスード相手は苦手だぞ。俺の覚星も戦い向けじゃない。」
「だろうな。・・・サクサリを身代わりにする。仕方ない。」
「了解。」
シュタールはサクサリをアフトへと投げる。
「!うそだろ!?」
アフトはサクサリを切るが、その後ろには金属の壁があり、二人がどこに行ったかはもう分からない。
「・・・くそ!」
「・・・アフト。悲しんでる暇はない。行動するぞ。」
「分かった。そうしよーー」
そういってアフトが大通りへと出た時だった。そこにはリヴァイアサンが向かっていた。
・・・うそだろ。これは・・・受けるしかないけど・・・。
アフトは神器を盾にリヴァイアサンの攻撃を受ける。が、その衝撃でアフトはオレアの方へと吹き飛ばされる。不幸中の幸いか、アフトが当たった部位がリヴァイアサンの外側だったので、ただ弾かれるだけですんだ。神器は壊れる気配すら感じられない。そしてアフトの近くには、神器が削ったと思われる鱗が数枚落ちていた。
「アフト!アフト!おい!だいじょ=か!しっかり=・・・。」
くそ。まずい。これは・・・あの時と同じ。
アフトはそのまま意識を失った。
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「シュタール。よかったのか?」
「仕方ないだろ。あいつが死んでもいいって言ったんだ。」
「違う。それじゃない。サクサリを失うということは・・・。」
「分かってる。リヴァイアサンが暴走するんだろ?」
「・・・ああ。」
「仕方ない。俺たちの役目は混乱を起こすことだ。あと情報の回収もあるが、それは他の奴らに任せればいい。」
「・・・分かった。」
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・・・特に被害を受けてなくて助かったわ。早くメシエ様に会いに行かないと。
「メシエ様。今入ってもよいでしょうか?」
「・・・その声は。」
「ああ。いいぞ。」
「失礼します・・・。え?父様。なんでここに?」
「・・・カーラ。」
「感動の再開と言いたいところだが、今何が起こってるんだ?それを伝えに来たんだろう?」
「ええ。今アフトとオレアは市民の救助と探索に当たってます。私が来たのはあの大蛇のことについてです。」
「・・・あれは我にも分からん。ヴァイツもだ。」
「いえ。アフトが知っていました。」
「・・・なんだと?アフトは何と言っていた?」
「・・・七大神獣の一つ。リヴァイアサン。」
そういうとメシエとヴァイツの目は大きく見開いた。
「・・・アフトがそう言ったのか?」
「ええ。多分記憶が少し戻ったのでしょう。・・・こんな形で戻ってほしくはありませんでしたが。」
「・・・そうか。・・・これは。不味いぞ。」
「ええ。メシエ様。これはいくら竜といえど比較はできません。神獣はその名の通り神の獣です。そもそも傷がつくかどうか。」
その時だった。メシエの部屋の扉が勢いよく開く。
「!誰だ・・・オレア!それに・・・」
「アフト!」
オレアはアフトを担いでユーゲント家まで来ていた。
「オレア!アフトはなぜ気を失っている!?」
「リヴァイアサンにぶつかりました!おそらく体が打撲や骨折、気絶で済んでいるのは神器のおかげです!」
「今すぐ病室へ・・・。待て。オレア、その鱗はなんだ?」
「これは・・・アフトを助けるのに必死なあまり持ってきてしまいました。多分リヴァイアサンの鱗かと。」
「・・・分かった。今すぐ病室へ連れていけ。」
「はい!」
オレアは部屋から去っていった。
「・・・メシエ様。もしかしたら。」
「ああ。おそらく考えていることは一緒だろう。」
「・・・しかし。やれるでしょうか。」
「やれなかったら終わりだ。内通者共の宣戦布告も来た。数的にはこちらが優勢だが、首都が包囲されている。時間の問題だ。」
「・・・ええと。父様。メシエ様は一体何を言ってるの?」
「・・・アフトに神獣を殺させる。おそらく神獣にまともに傷をつけられるのは神器を持つアフトだけだ。」
メシエもこれにうなずく。
「しかし・・・アフトはまだ子供ですよ?」
「・・・これに関しては仕方ないな。アフトに任せるしかない。」
「芸術家たちは!?ダメなんですか!?」
カーラは叫ぶ。
「・・・すまない。」
「いえ・・・。分かりました。アフトのところに行ってきます。」
「ああ。気をつけろ。」
カーラも部屋を去っていく。残ったのはヴァイツとメシエだけ。
「・・・芸術家を招集する。アフトが目覚めてから本格的な議論をしよう。」
「分かりました。」




