25話:決意
「アフト。おいていくなよ。」
「いやぁ。すまん。いろいろ事情があったからな。」
「そんな重要なこと何か?」
「・・・そうだな。かなり。でもいずれ分かるときがくる。」
「なんか不吉なんだが。・・・まあいいさ。俺は正直アフトが王女と繋がりがあったことの方がびっくりしてるからな。」
「だろうな。・・・なんかもうやることないわ。」
「え。・・・教室戻るか?」
「そうしよ。」
「じゃ戻るか。」
「・・・なあ、オレア。おれずっと気になってたんだけどさ。実技をほかの人とするたびにお前の強さが際立つんだけど。」
「こっちもだわ。なんでそんな強いんだ?」
「あ~。・・・そっちから話して。」
「分かった。俺さ。親がいないんだよね。いや、いないというか、分かんないというか。」
「まじで?俺もそうなんだが。」
「ええ。意外な共通点すぎるだろ。」
「それな。」
「・・・続けるとだな。俺を引き取ってくれた人がいたんだよ。でもその人の住んでいた地域が結構危険な地域でさ。魔獣とかが結構出るんだよ。だから強くならざるを得なかったんだ。」
「結構驚いたんじゃない?サダルスードだったなんて。」
「だろうな。記憶はないけど。でも、俺さ、海が大好きなんだよ。あの綺麗な青が。一度だけ海に連れて行ってもらったことがあるんだ。だから今はサダルスードでよかったよ。」
「・・・そうか。確かに綺麗だもんな。」
海か・・・。ちょっと懐かしい気分になるな。もしかしたら昔の俺は行ってたのかもね。
「次はアフトの番な。」
「いいよ。俺さ。記憶が無いんだ。だからアネモス家に養子にとられるまで全く覚えてないんだ。時々夢とかで思い出すときがあるんだけど。だから、なんでこんな力を持ってるのかも分かんないんだ。」
「・・・記憶が無い?記憶喪失ってこと?」
「いや。多分違う・・・と思う。正直それも分かんないんだ。実は目覚めたときは星術って言葉も知らなくてな。今の常識を学ぶのも大変だったよ。」
「星術知らないって・・・。いつの時代だよ。」
「神話時代だと思う。実際今の言葉を覚えるまでは神話語使ってたし。」
「ええ。・・・そういえばアフト翻訳めちゃくちゃ早いもんな。そういうことか。」
「うん。・・・なぁオレア。」
「ん?どうした?」
「オレアさ。学校終わったらちょっとついてきてくれない?」
「え?どこに?」
「まあ・・・俺の家?かな。」
「なんで疑問形なんだよ。」
「まあ、行ってみたら分かるよ。」
「そう・・・。まあいいよ。今日暇だし。行くか。」
「ありがと。」
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「ちょっと待ってくれ?」
「どうした?オレア。」
「アフト今どこに住んでんの?」
「ここ。」
アフトはユーゲント家に向けて指をさす。
「え?ここ?」
「うん。」
「行きたくないんだけど。」
「なんで!」
「ここユーゲント家だぞ!大公だぞ!俺平民だぞ!殺す気か!?」
「行ける行ける。何とか説明するから。」
「・・・ここで遊ぶのか?」
「いや、簡単に言えば勧誘。」
「は?それってどういう意味?」
「ま、とりあえずついてきて。」
「ちょ、ちょ待って。」
アフトは強引にオレアを連れて行った。
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オレア目線
「・・・。」
ああ。なんでついてきてしまったんだろう。こんなに人を恨んだのは初めてかもしれない。汗だらだらなんだけど。
「アフト。彼は?」
「名はオレアと言います。もしかしたら協力してくれるんじゃないかと思って連れてきました。」
なんの話?協力?なんで俺は今メシエ様の前にいるんだろう。
「ほう・・・。どれぐらいの強さが?」
「私と普通の剣で張り合えるくらいです。」
「なるほど・・・。オレア。」
「!はい!なんでしょうか!」
「・・・なんかすまんな。見る限りアフトが無理やり連れてきたようにしか思えんのだが。」
「そんな!謝る必要など!・・・しかし、その通りです。アフトには何も言われず連れてこられました。」
「アフト。何故彼を?正直驚いているんだが。」
「力になってくれそうなので。それとオレアは信頼に足る人間ですから。」
「・・・まあ今は人がいるだけ嬉しいからな。アフト。出て行っていいぞ。ここからは二人で話したい。」
「分かりました。」
アフトが部屋を出ていく。
・・・え。俺一人ですか。ちょっと厳しいですね。
「オレア。お前はクアラルは好きか?」
「?・・・ええ。好きです。」
「そうか。どういうところが好きだ?」
「・・・私は養子なんです。国境の近くの小さな町にいたんです。ただクアラルで生まれたのかは正直定かではないんです。もしかしたらゼストかもしれません。アフトにはクアラルで生まれたといいましたが。」
「・・・なるほど。」
「ただゼストでは法が厳しいですから、誰も路頭に迷っている私を助けようとはしませんでした。今思えば当然なのですが、誰も法を犯してまで善をする必要などないですからね。仮にゼストじゃなくてもこんな面倒くさいことはしません。ただ、一人の老いた男性が私を拾い上げて、クアラルまで持って来たんです。そして彼は私を丹念に育ててくれたんです。」
「・・・彼は優しかったんだな。」
「ええ。今でも彼には報いたいんですよ。そんな人が生まれた国が嫌いなわけがないですから。」
「・・・たしか星術はサダルスードだったな。」
「ええ。私は海が好きなんです。きっとそれが原因かと。もしかしたら親がガラルドの可能性もありますが。私が一人の時も海を見るのは好きでした。港町だったので、海は視界の中にはいつもあったんです。そして一回だけ、彼に連れてきてもらいました。誰もいない海は青々しくて、なにより、綺麗でしたから。」
「・・・なるほど。オレア。今から言うのは勧誘だ。」
「はい。」
「お前はもしかしたらこれから死ぬかもしれない。苦しむだろう。疑いの心を常に持たなければいけなくなる。人を信じることが難しくなるかもしれない。ずっと孤独かもしれない。」
「はい。」
「これからクアラルは動乱の時代に入る。無辜の市民は理由もなく苦しみ、死ぬだろう。今ある美しい景色は失われ、赤と黒が色を支配する。」
「はい。」
「お前はもっと残虐で惨憺な死に方をするかもな。」
「はい。」
「だが。もし、お前の心に、お前にとって関係ない国を救いたいと。誰かも分からないお前の大切な人を救いたいと。そして、お前にとってどうでもいい誰かを、人を救いたいと思う気持ちがあるのならば、この手を取ってほしい。」
メシエは手を差し出す。
「・・・私を育ててくれた人は旅人でした。彼はいろんな国を見てきたと言いました。動物を愛す国、景色が珍しい国、双子しかいない国、そして優しさの国。彼はいろんな経験をしてきたらしいです。ある時は兵士として。ある時は師匠として。そして彼は私を連れて行くときこう言ったんです。『私の友は皆死んだ。私と会うたび死んでいく。きっと私は呪われてるのだろう。そうと分かっていながらも私は君を助けたい。死ぬ決意があれば手を握れ。私の故郷へと連れていく。』と。私は遠慮なく手を取りました。生きたかったから。でも今なら分かります。私は彼を失望させたくない。彼が優しさの国と言ったこの国、彼の故郷を救えるのならば。彼の呪いを解けるのならば。この国と彼に、命をもって報いましょう。」
オレアはメシエの手を握る。
「・・・オレア。感謝する。」
「いえ。こちらこそ。正直こういった形で私の夢が叶うと思いませんでしたから。」
「私の家来にオレアを護衛してもらう。そしてオレアの大切な人に最後の挨拶をして来い。」
「護衛は大丈夫です。きっと私一人で行かねばなりません。」
「・・・そうか。これがきっと最後になる。後悔の無いように。」
「いえ。メシエ様。これは最後ではありません。別れの挨拶でもありません。これは始めの一歩ですから。」
「・・・そうだったな。失言だった。許してくれ。」
「ええ。では私はこれで。」
「ああ。終わったらここにまた来い。オレアが住む部屋を案内する。」
「はい!」
オレアは部屋を出る。
「お。オレアじゃん。話は終わった?」
「ああ。でもこれから行くところがある。これは一人で行かせてほしんだ。」
オレアはアフトの目をしっかりと見る。
「・・・ああ。行ってこい!」
「ありがとう。」
アフトと友達になったのがこんな形になるとはな。最初はただの好奇心だったのに。
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「ただいま帰りました。」
「・・・オレアか。どうした・・・何か決めたんだな?」
「分かるんですか?」
「ああ。決意の目をしておる。話しておくれ。」
「・・・私はこれから戦火へと身を投じます。」
「そうか・・・。」
「最後にこれだけ言わせてほしいんです。」
「言ってみろ。」
「・・・私をここまで育ててくれて有難うございました!あなたの名前は最後まで聞けませんでしたが、きっと、それが何か理由があったのでしょう。あなたが言ってていた呪いのせいかもしれません。しかし、私はあなたが呪われているなどとは決して思いません。私はあなたに必ず報い、生きて見せます!ですから、私を、見ていてほしいんです!若気の至りかもしれないこの命を!」
「・・・私は親かもしれないが、主ではない。だから・・・。そうだな。全てが終わったら、顔を見せてくれ。また海を見に行こう。」
「!・・・ええ!必ず!」
「オレア。またな。」
「ええ!また会いましょう!」
オレアは小さな家を出る。
「・・・アフトには感謝しないとな。」
オレアがユーゲント家に戻ってから、カーラがいたことに驚いたのは言うまでもなかった。




