22話:森の調査
「奥の部屋まで来てもらえますか?」
「ええ。分かりました。」
・・・あの人、誰だったんだろうか。多分強い人だとは思うんだけど。案外有名な人だったりね。
「ギルドマスター、お連れいたしました。」
「入らせてくれ。」
野太い男の声が聞こえる。
「どうぞ。お入りください。」
「入らないんですか?」
「ええ。この部屋は身分が高い人のための部屋です。私のような下賤の者は到底入れませんよ。それに私以外の世話役がいますので、ご安心ください。」
「・・・そうですか。分かりました。失礼します。」
そこにいたのは顔や手にたくさんの傷のある男だった。特に目は眼帯をしており、無精髭や肩まで届く髪の毛は見ていて痛々しかった。
「どうぞ。座ってください。」
「どうも。」
・・・歴戦の猛者感がすごいな。というか怖いんだが。ずっとこっち見てるし。・・・・品定めでもしてるのか?
「・・・ふぅー。やはりこういう場は苦手ですな。戦いと違って変な神経を使います。」
「ええ。同感です。上流階級の礼儀というのは私には堅苦しくてですね。あまり私にもふさわしくないでしょう。」
「やはりですか。立場上こういう役回りが多く手ですね。ほかの者も見つからんのですよ。」
「やはり、大変ですか。」
「ええ。常に戦いに身を置いていましたから。・・・私の名前は”フォルティス”と申します。」
フォルティスは立ち上がり、アフトに手を差し出す。
「・・・アフトです。以後よろしくお願いします。」
アフトもフォルティスの手を握り、固い握手を交わす。
「どうぞ。お座りください。・・・紅茶はお好きですか?」
「ええ。」
「分かりました。・・・紅茶を作ってくれるか?」
「了解いたしました。」
「正直来てくれて助かりました。国やほかの貴族にも頼んでみましたが、返事が明確に来たのはユーゲント家だけでした。このままでは首都の防衛線が壊れてもおかしくないというのに。」
「あはは。そうですか。」
・・・内通者の件で国は忙しいんだろうな。ほかの貴族は・・・何やってんだ?
「ええ。ユーゲント家が来てくださったおかげで何とかなりそうです。」
「そうですか。・・・確かギルドは級で冒険者を格付けするんですよね?高い級の冒険者でも対処できないということでしょうか?」
「いいえ。もちろんこの異常事態では高い級が要求されるのは確かです。見積もったところ最低でも6級以上の。・・・確かアフト殿はギルドの級に関してあまり詳しくないのですよね。」
「ええ。今回が初めてです。」
「ならばある程度級に関して説明を。級は竜に勝てる者を一級として相対評価します。10級が初心者で、1000人で竜に勝てるか。5級で50人、上等とでも言いましょうか。1級で一人か二人、つまり最高。」
「なるほど。」
つまりヴァイツ様が一級ってことか。そこから逆算すれば行けそう。
「ええ。普通でしたら10級が4人もいれば、8級であれば一人でも十分でしたでしょう。ですがさっきも言った通り6級の強さが要求されます。」
ここで紅茶が届く。アフトは話を聞きながら紅茶に手を付ける。
「そして先ほどアフト殿が言った通り、高い級であれば対処可能ですが、ギルドはこの世界の国に、国境関係なくありますから、高い級の者はこのような厄介な難易度よりも恐ろしく難易度の高い任務を選ぶのです。さらに級が高くなれば人の数も少なくなりますから。」
「・・・なるほど。事情は分かりました。それで私はどこへ行けばいいでしょうか。スピカの周りと言ってもかなり広いですからね。もちろんすべての範囲をやってもいいでしょうが、その場合は時間がかかりますし、今回の予定は二日ですから。」
「ええ。存じております。ですから、今回はこの範囲を調査してもらいます。」
フォルティスはアフトに一枚の紙を見せる。
「この地域は交通路ではありませんが、森があります。交通路が原因の可能性は低いですからね。ほかにも森はありますが、ここが一番未解明ですから。そして、ここで冒険者が行方不明になっています。ですが、三日以内に行方不明になったものが一番多いです。」
「なるほど。・・・つまり私はそこの地域を調査し、かつ生きている者がいれば保護し、ギルドまで連れてくればよいのですね。」
「ええ。まさにその通りです。」
「行方不明者はどうしましょう。見つけたらすぐに連れてきた方がよろしいでしょうか。」
「ええ。そうして欲しいです。」
「分かりました。では・・・そうですね。リュックなどは売ってありますか?それとポーションや食料も。時間がかかりそうですし、行方不明者にも与えれますからね。」
「ええ。もちろん。案内させます。・・・最後にですが、何かあればすぐに帰還を。情報だけでもありがたいですし、命には代えられませんから。」
「・・・ありがとうございます。」
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その後、アフトは必要な物資を買い、ギルドを出、その地域までやってきた。
「ここか。別に異変は感じられないな。・・・入るしかないか。」
数時間後
・・・かなり深く入ったけど、特に何もないな。そもそも魔獣とも出会わない。ある意味異常か。・・・ん?あれは・・・人か!
「ちょっと!大丈夫ですか!」
出血は・・・してない。四肢も大丈夫。これは・・・寝てるだけ?
「・・・ん?ここは・・・。君は?」
「アフトです。今はそんなことより、ここで何がありましたか?あなたには特に目立った外傷もないようだ。」
「ああ・・・。そうだ。蜘蛛だ。蜘蛛がいたんだ!そう、人の何倍もある蜘蛛が!」
「落ち着いてください。ここをまっすぐ行けばスピカへ行きます。」
「ああ、助かる。君は行かないのか?」
「ええ。ここを調査するのが仕事ですから。・・・ほかの人はどうなったか知ってますか?」
「仲間は全員連れ去られた。俺だけが生き残ったんだ。だから、どうなったかは知らない。」
「ここでですか?」
「正確にはここではないが、ここの近くだ。」
「・・・そうですか。では最後に質問・・・というか疑問ですね。寝ていたのに、よく生き残れましたね。まるで・・・餌みたいですね。」
アフトは倒れている男に剣を構える。そうするとそこに巨大な影ができていた。
「これは・・・っ!」
その瞬間、アフトの上から巨大な蜘蛛が降ってくる。そこにいた男は潰れて跡形もなくなっている。
「やぁ。初めましてとでも言っておこうか。アフト君。」
「蜘蛛が喋るのか。驚いたな。」
「あはは。変なところに目をつけるんだね。今はそんなことどうだっていいのに。」
「・・・名前は?」
「名前?・・・そうだね。”アラネア”とでも名乗っておこうか。」
「ほかの人はどうなった?」
「あはは。私これでも敵なんだよ?・・・でも、そうだね。こうなったよ。」
アラネアは蜘蛛の背中についていた卵をアフトに投げつける。アフトはそれを避けるが、そのせいで卵は割れ、それぞれの卵の中から豚、蛇、鶏が出てくる。
「・・・趣味の悪い。」
「誉め言葉として受け取っておくよ。」
別にこれぐらいなら何とでもなるな。魔獣・・・なのかは分からんが、殺してもいいだろう。元は人だが致し方ない。
アフトはその三匹を余裕をもって殺す。
「まさかこれだけじゃないだろうな。」
「まさか。」
アラネアは後ろから一匹の巨大な狼を出す。そしてそこからはマナが感じられる。
「・・・星獣か。」
「うん。そのとおり、フェンリルって言ってね。星獣じゃないから。作るのも大変だったんだよ。だから何人死んだかな・・・。そして何匹の魔獣を改造しただろうか。」
「は。ゴミだな。」
「案外冷静なんだね。怒るかと思ったけど。」
「さあ?なんでだろう。」
このフェンリル。結構強いぞ。多分あの時戦った星獣よりも。どこの国の星獣だ。それに星獣は改造しても作れるのか。・・・倫理というのはないんだな。ほぼキメラだ。
アフトとフェンリルは目が合う。するとアフトは一時的に動けなくなる。その瞬間をフェンリルは見逃さず、アフトの腕めがけて噛みつく。アフトの左腕はちぎれる。そしてそのあとアフトは動けるようになる。
「・・・面倒くさいな。」
目を合わせるとフェンリルが触れるまで動けなくなる。なるほど。そして動きも早い。耐えるのは無理だな。避けるか防ぐ。
「いいの?失血しちゃうよ?」
「・・・。」
アフトはポーションを使い、治りはしないものの、出血は止まる。
「ポーションねぇ。治ってないし。それでいいの?」
「・・・ああ。」
一発賭けてみるか。
アフトは星術を使い、フェンリルの足に注目する。アフトは走り出し、フェンリルの足を狙う。が、フェンリルは変な姿勢でアフトの目に強制的に映り込ませる。アフトは硬直する。そしてフェンリルはアフトを噛む。が、フェンリルのアフトを噛んだ部位から顔面が破壊されていく。
「逃がすか。」
アフトは狼狽えてるフェンリルの顔面と胴体を剣で切り分ける。
「・・・ふ~ん。案外やるんだね。その星術が何なのか知りたいけど、まあいいよ。」
アラネアはアフトの剣に向かって蜘蛛の糸を吹きかける。アフトがその剣に星術を付与していないのを見抜いたのだ。剣は近くの木へ張り付く
「やっぱり。私魔眼持ちだから分かるんだよね。普通は星術の残滓が残ったりするから油断できないんだけど。私には関係ないみたい。で?どうするの?」
「・・・仕方ない。」
アフトは鞘にはまった神器を抜く。
「・・・予備?まあ、変わんないと思うよ。」
アラネアはもう一度糸を吹く。だが、その糸は神器に簡単に切り裂かれる。
「・・・星術は使ってなかったよね。・・・ああ。そういうこと。シュタールが言ってたーー」
アフトは神器を刀へと変え、それでアラネアの首を切り裂く。
「神器使いは君のことだったんだね。アフト君。」
「・・・地獄に落ちてろ。」
「・・・ちなみにだけど、私が死んだらここの卵が孵化するから気を付けてね。」
「後味の悪い。さっさと死ね。」
「悲しいこと言うね。・・・最後にヒントだけ。また会おうね。」
「・・・は?」
アラネアの両断した頭と体は死体にはならず、自然消滅する。
「・・・やられた。分身か。」
改造することが覚星だと思ってた。けど・・・。いや、分からんな。メシエ様に聞くしかない。それにそもそも時間がない。今すぐギルドに行くか。
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アフトはギルドに戻る。その道中、片腕だったのを驚かれ、心配されたのは言うまでもない。ギルドを出た時は朝だったが、いつの間にか夕暮れになっていた。ギルドにつくと、真っ先に案内係が反応する。
「アフト様!?その怪我はどうなさったんですか!?早くポーションを。」
「それよりも優先してほしいことがあります。フォルティスさんを呼んでください。」
「しかし・・・。」
「早く!」
「・・・分かりました。」
案内係がフォルティスを連れてくる。
「・・・よくぞ帰ってきてくれました。言いたいことはありますが、要件はなんですか?」
「元凶はある意味倒しました。そしてその元凶が作った全ての魔獣がもうすぐ目覚めます。」
「!・・・分かりました。全冒険者に伝えます。」
「ありがとうございます。私もこの腕を治し次第、すぐ向かいます。」
「・・・気持ちは分かります。しかしポーションの使い過ぎはよくない。出血を止めたのもポーションででしょう?ポーションは体の細胞を何倍も活性化させているに過ぎない。ですから、ポーションは一日に二回以上使うと中毒症状を起こす可能性があります。体に恐ろしい負担がかかっていますから。」
「・・・分かりました。ではユーゲント家へ戻ろうと思います。」
「ええ。それがいい。」
「フォルティスさん。後を頼みます。」
「・・・ええ。確かに。」
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森のどこか 一人の女と一人の眼鏡をかけた男がいた。
「ああ。あの蜘蛛便利だったのに。」
「そもそも妨害は僕たちの仕事じゃないでしょう。シュタールたちに任せておけばよかったんです。」
「でも混乱は起こせたでしょ?」
「・・・はぁ。そもそもサクサリがその切り札を持っているでしょうに。余計捜索されますよ。できても時間稼ぎだけです。」
「でも、もう時間が迫ってるでしょ。今のうちに打てる布石はできるだけ打っておきたいじゃん。」
「・・・そうですか。」
「ああ。そうそう。神器、見つけたよ。」
「・・・そうですか。」
「ちょっと!なんでそんな興味ないのさ。」
「神器を警戒するのはシュタールの情報から当たり前でしょう。何か不確定要素があるならば私たちに不利なほうを選ぶ。常識です。」
「あっそー。・・・じゃあ名前も、特徴も教えてあげない。」
「そうですか。」
「・・・ちょっと!そこは謝るところでしょ!私が悪かったですって!」
「ああそうですね。私が悪かったです。申し訳ございません。」
「なんか納得いかないけど、もういいよ。名前はアフト。結構若いよ。多分まだ学校に入ったばっかりじゃないかな。あと、多分新星。そして黒髪。」
「・・・かなり特徴がありますね。覚えておきましょう。感謝します。」
「そうそう。最初っからそういえばよかったんだよ。」




