17話:学校
四月一日 陽曜日
「アフト。ちゃんと荷物は持った?」
「持ったよ。ってか、そんな持っていくものないだろ。」
「まあ、そうね。どうせ学校で支給されるでしょうし。ま、バッグぐらい持っていったら?」
「・・・そうだな。持っていくか。」
「ん~?もしかして、緊張してる?」
「・・・少しな。正直今までうまくやれたのはみんなのおかげだと思うんだ。カーラともどうせしばらく分かれるだろうし、ちょっと心配でさ。」
「あら、珍しい。・・・大丈夫よ。今までも私たちがつきっきりでお世話をしたわけじゃないわ。ずっと自分でやってきたじゃない。それに、新しい出会いは苦しむものじゃないわ。楽しむもよ。・・・ま、もしアフトに何かあったら、私は相談ぐらい聞いてあげてもいいわよ?」
「・・・助かるよ。」
「・・・さ、行きましょ?」
「ああ。そうだな。・・・ところでさ。」
「ん?」
「道分かんなくてさ。案内してくれない?」
「・・・。今までずっと首都見回ってきたわよね?」
「いやぁ~。方向音痴でさ。」
「・・・はぁ~。ついてきて。」
「ありがと。」
こうして、クアラルを巻き込む、そしてアフトとカーラにとって初めての学校が始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「へぇ~。ここが学校か。思ってたよりきれいなんだな。・・・てか、人の数すご。」
「ま、クアラルは義務教育だからね。実際学校も全国に四つぐらいあったはず。自分の住んでるところに近いところに行くのが普通よ。」
「へぇ~。・・・カーラの友達とかもここに来てたりする?」
「ええ。多分。・・・だけど、私もそんな友達いないわよ?それに1つ2つぐらい歳も離れてるし。」
「ふ~ん。・・・はぁ~。ほんとに楽しめる気がしない。事件なんて何も起きなければいいのに。」
「ま、それが一番なんだけどね。・・・あ。一応言っておくけど、神器持ってるとか絶対言わないでね。剣とか抜いたらぶっ叩くわよ。」
「分かってるよ。メシエ様からも耳にタコが出来るほど言われたよ。・・・帯刀ってさ、そんな珍しいのかな?」
「う~ん。私も学校に行くのは初めてだから、何とも言えないけど、周りを見る限り、アフトだけじゃない?帯刀してるの。」
「・・・そういえば見られてる感じがする。」
「学校も必要な時にしか絶対認めないって聞くしね。それに生徒を傷つける要因にもなりえる。・・・てかなんで帯刀なんて認められてるのかしら?」
「ね。・・・ま、神器の特性上、離れられないし。いいんだけどね。・・・これどこに行けばいいの?」
「先生らしき人に聞いてみましょ。あそこにいる。」
「ああ、あの人?そうだね。行ってみようか。」
「・・・あの、すいません。新入生なんですけど、どこに行ったらいいのかとか分かりますか?」
「ん?ああ、新入生か。格式ばった式とかないから、教室に行くべきなんだけど・・・。君、もしかしなくてもアフト君だよね?」
「え、そうですけど。」
「てことは、隣の子はカーラさん?」
「ええ。」
「だよね。新入生の資料みたけど、帯刀の許可が出てるの君だけだし。分かりやすくて助かったよ。・・・一応言っておくけど、ふざけたりしたらだめだからね。ちゃんと自分で管理するんだよ?」
「ええ。分かってます。」
ほんとに。もう聞きたくないです。
「・・・それで、私たちはどこへ行けばいいんですか?」
「ああ。案内するからついてきて。」
「「分かりました。」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「すいません。わざわざ案内してもらって。」
「いやぁ。いいよ。暇だったし。それに、ユーゲント家から二人のことは頼む、って連絡がきたしね。変に無下にしたら大変なことになる。」
「やっぱりメシエ様って有名なんですか?」
「有名っていうか、知らない人いないと思うんだけど。」
「あ、そうですよね。」
「ええとね。ここがカーラさんの教室かな?アフトはもう一個先だと思う。ちょっと待ってね。今調べるから。」
先生は手に持っている資料を調べる。
「・・・うん。ここであってる。だからカーラさんは5組で、アフト君は6組だね。」
「案内してくれてありがとうございました。」
「これが仕事だからね。また困ったことあったらいつでも聞いていいよ。」
「は~い。」
先生は去っていった。
「さてと。・・・カーラ。また会おう!」
「ええ。また会いましょう。」
・・・うわ。どうせならカーラと一緒がよかったわ。てかもうカーラ行ったし。・・・入るか。・・・結構人いるなぁ。・・・俺の席はどこだ?・・・ああ、紙で貼ってあんのか。なるほど。席は・・・あそこか、あった。隣の人は・・・。
「ええと。おはよう。」
「・・・。」
あれ、反応なし?もう一回言ってみるか?
「おはよう。」
「・・・。」
これ無視されてない?俺傷つくんだけど。俺悲しい。・・・多分女の子だよね。別に挨拶ぐらいはいいと思ったんだけど。・・・最後にもう一回だけ。
「おはよう。」
「・・・話しかけないでもらえますか?」
「・・・すまん。」
うわ。やってしまったかもしれん。くっそー。・・・ところで、俺とおんなじ黒髪はこの人が初めてかもしれん。名前は・・・自己紹介とかあるだろうし、その時でいっか。・・・全員来たのかな?もう喋ってる人いるし。仲良くなるの早すぎだろ。ま、何とかするしかないか。・・・ん?ドアが開いたけど、誰だ?・・・ああ。担任の先生か。あ?待って?案内してれた人が担任なの?・・・これは運がいいのか?
「は~い。ホームルーム始めるぞ。ほら、座って。」
う~ん。厳しくはなさそうなんだよな。
「ええと。僕がこのクラスの担任の”レテ”だ。よろしくな。」
レテ先生か。・・・ふざけてるわけでもなさそうだし。あれぐらいの口調のほうが話しかけやすいんだよな。
「さっそくだが、自己紹介してもらうよ。じゃあ、端の方から頼む。」
さっそくだな。自己紹介のテンプレとかあるんだろうか。まあ、前の人真似すればいっか。・・・もう俺の番か。
「俺の名前はアフト・アネモスです。よろしくお願いします。」
正直言うと隣の人のほうが気になるんだけど。・・・あ。隣の人の番だ。名前なんて言うんだろ。
「・・・”ミロディア・グランドール”。よろしく。」
名前かっこよ。ミロディアさんね。覚えました。・・・でも名前を呼ぶ機会はなさそうです。
「さ、みんなの自己紹介も終わったことだし、隣の人と喋ってていいよ。」
きました。機会が来ました。こんなことってあるんでしょうか。神様、ありがとうございます。
「ミロディアさん。なんか話さない?」
「・・・話しかけないで。前の人と喋って。」
「・・・。」
・・・マジっすか。・・これ、ほんとに俺やっていける?
こうして、波乱万丈の学校生活が始まったのであった。




